エッセィ

「新入生へのコンピュータガイダンス」

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(この文章は、工学部に入学した新入生のために、コンピュータ利用に関して5分ほどしゃべってくれ、と頼まれたときのノートから、口語体に直したものです。内容的には、非常にレベルダウンしていますので、ちょっと読んでお気に召さなければ、忘れて下さい)

 工学の建築学科の森と言います。

 私は、いま材料生産システム工学講座というところにいまして、実は、コンピュータとは直接には関係のない分野であります。今日のテーマは、本当は情報工学科の先生が来られてお話しするのが適当だと思うんですけど、5日ほど前、生協の方から急に電話がありまして、何か話してくれと頼まれました。

 いつも、生協のコンピュータのコーナの辺りをうろうろしているものですから、ちょっと顔見知りになっているだけの関係でありまして、まぁ、コンピュータは好きなんですけど、あまり専門的な詳しいお話はできそうにありません。

 たった今、私がコンピュータを好きだと言ったわけですが、これは適当な表現ではありませんでした。こういうのはですね、好きとか嫌いととか言うレベルのものではもうなくなっています。コンピュータはごく当然の道具となっているわけですから、そういった道具に対して、好きだとか嫌いだとかと言うことは、ちょっと違うんですよね。よく、「僕はコンピュータが嫌いだ」とかいう人がいますけど、それは、電話が嫌いだとか、ペンチが嫌いだ、栓抜きが嫌いだというのと同じであって、「あ、そう」としか答えられない、意味のない意見です。

 コンピュータの画面に向かっていると目が悪くなるとか言ってますけどね、私なんか一日中向かってますけど両方とも2.0ですし、ファミコンして目が悪くなる子どもは、ファミコンをしなくたって、なんかで目が悪くなるんだと思いますね。もし、目が大丈夫でも、どこか別のところが悪くなるんじゃないですか、きっと。

 まぁ、それは冗談として・・、新しい手段、道具としてコンピュータを扱うという姿勢は、絶対にこれからは必要で、好き嫌いに関係なく、特に工学・理学・医学の技術者とかには不可欠なものなのです。

 こんな話をしていると、生協購買部の回し者かと思われますので、ひとこと言っておきますけど、別に生協以外でも買えますからね。生協は、特に安いわけじゃありません。

 ところで、コンピュータというのは、人間がこれまでに作ってきた道具の中では、ひとつだけ特徴的な働きをもっています。

 だいたい道具というのは、作業時間を短縮したり、エネルギを節約したりするためのもので、もちろん、コンピュータにもこの働きがあります。人間が動物と違って、ここまで文明を築いてこられた理由はですね、言葉による知識の伝達と蓄積のシステムにあるわけです。誰かが時間をかけて学んだことを、他の人が一瞬で理解できるというシステムが、発展的な文明を築くために必要だったわけですが、でも、今までのところ、なかなか伝達できなかったり、上手く蓄積できなかったのは、知識ではなくて、ノウハウでした。

 ノウハウ、つまり、どうやってするのか、コツとか、勘といったもので表現されていたものが残っていたわけです。これが、なかなか言葉では表現しにくい。伝達も蓄積も難しい。ところが、映像を伝達・蓄積できるようになり、そしてプログラムというものが作られるようになって、初めて、つまり、今世紀になって初めて、ノウハウが共有できるものになったわけです。コンピュータがこれを可能にした最初の道具なのです。

 さて、みなさんは、高校までに、文字を習い、英語も習い、数式も習ったわけで、学習する方法、つまりノウハウをやっと身につけたわけです。でも、これからは違います。大学は学校じゃありません。自分で勉強するところです。大学の先生は1人で1つの部屋にいますけど、あれは、いつでも質問をしにいけるようになっているんです。是非、自分からききに行って下さい。そうじゃないと、大学の先生なんて、なんにも教えてくれませんからね。自分で勉強して下さい。そういうときも、実はコンピュータが役に立ちます。

 ちょっと、話が逸れますが、「パソコンを買いたいけど何を買ったらいいか」、「どのくらいの機能のものが必要か」なんて質問をよく、特に新入生から受けるんですけど。まぁ、ちょっと本を先に1冊くらい読んで、調べてみるのが良いと思いますね。パソコンは2年で償却すると思って買って下さい。もちろん、それ以上使えますけど、2年でもとをとるつもりで買って下さい。

 私は、最近は2kgくらいのノートタイプのものを持ち歩いていますが、こいつが持っている機能は、私が学生の時は、大学に数個しかないという何億円もするコンピュータと同じです。パソコンがこの10年にとげた発展と同じものが、もし、自動車に起こっていたら、今ごろロールスロイスは500円くらいで買えて、1リットルで月まで走れる、なんてことを言ったのが5年くらい前で、今ではもう、計算できないくらいになりましたね。

 私の2kgのパソコンには、この3年間に私が書いたすべての書類が入っています。論文も、著書も、日記も住所録もすべてです。今は、1週間に1度は東京に行くんですけど、ドラエモンじゃないですが、いつでもどこでも、すべてが取り出せるわけです。

 パソコンでできる大きな仕事というのはだいたい3つです。ひとつは文章を書くという使い方。これは一般にワープロといわれています。ワープロというと職業訓練学校なんかのコースにあって、ちょっと手書きを清書するためのもの、みたいな感じがしますが、どちらかというとアイデアプロセッサーと呼んだ方がよくて、手で書くより速く、考えをまとめることができます。私は、手で書かなくちゃいけない書類があると、先にワープロして、それを見ながら手で清書します。その逆はありません。

 人間の頭脳を、漢字の書き順とか、誤字とか、そういう余分なものに使わないで、「何を書くか」「何を考えているか」ということに集中する効果があります。

 それから、頭に浮かぶものは言葉だけではなくて、図形や映像というものもあります。これも、最近の高性能パソコンでは、手書きより速く、それをまとめることができます。 実は、私は大学の先生になる前は、イラストレータをしていまして、頭に浮かんで、それを下書きして、清書してという手順が本当に億劫でした。あの頃に今のパソコンがあったら、大学なんかに就職しなかったと思います。名古屋大学の出身で荻野真くんという、ジャンプで孔雀王を描いている漫画家がいまして、私の1年後輩です。最近、久しぶりに話しましたが、やっぱりパソコンを使っているようです。

 最後にですね、これが一番大事な機能なんですが、ネットワークです。昔からやっている人はやっていたんですが、この3年くらい急速に発展してきたと思います。世界中のパソコンやワークステーションがつながっているという意味です。

 私は、最近は自宅から電話で大学のコンピュータに入って仕事ができます。うちの講座の学生も全員コンピュータでしか仕事をしませんので、誰が大学に来ているがすぐわかり ますし、もちろんコンピュータどうしで話もできます。もっとも、学生も大学に出てきているのではなくて、実は下宿にいて、電話で通信しているのかもしれません。そんなことは、どうでも良いのです。つまり、研究室というのは、物理的な建物にあるのではなくて、仮想の電子的な空間に存在するわけです。

 研究分野の近い研究者ともネットでつながれています。外国にいようが、どこに、いついようが、関係ないというのがすごいところです。国際化なんて言葉をよく耳にしますが、国際化なんて、電子の空間には初めからないわけです。国際化という言葉を使っているうちは、国際化していませんからね。英会話を習うより、モデムを買って下さい。それが、国際化です。

 初心者の場合はですね、まずネットの使い方を覚えます。そうすれば、ものすごく詳しい人が、すぐ隣に座っているのと同じことになります。このネットワークの進歩がいま一番キーポイントだと思います。

 特に、大学が用意しているネットワークは無料ですから、世界中どこでも無料で通信ができます。どんな有名な研究者とも、ダイレクトに質問したり話をしたりできます。つまり、そういう環境が「大学」なんです。別にしたくない人はしなくても良い。偉い先生方は知りませんが、私は授業に遅れて来ようが、欠席しようが全く腹が立ちませんし、注意もしません。学ぶ自由と権利が保証されているのが大学で、コンピュータに関しても、是非、自分から積極的にアプローチして下さい。

 ちょっと、なんの話をしたのか分からなくなりましたが、要点は2点です。

 コンピュータも含めて、大学は学ぶ自由と権利が保証された場である、ということ、

 それに、コンピュータを使うと、今までになかった考え方みたいなものが、もう一つ自分に加わる、ということです。

 今日は、資料もなしにお話をしましたし、しかも、ここにいる人で、また、私と会えるというのは、たぶん建築学科の40人くらいだと思いますが、ちょっと今の概念を気にとめてもらえれば幸いです。また、ネットワークで会いましょう。どうも、失礼しました。

  

(1995.4)


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