MORI Hiroshi's Floating Factory Gyro Monorail Workshop
ジャイロモノレール概説


Brennan's gyro monorail model 1907


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<ジャイロモノレールとは?>

 本サイトで「ジャイロモノレール(gyro monorail)」と呼ぶのは、ジャイロを搭載することによってローリングのバランスを取り、1本のレールの上を走行する車両のことである。

 ジャイロとは、ロータを回転させるメカニズムである。ジャイロスタビライザ(ジャイロによる姿勢安定装置)は、ジャイロの性質を利用して、姿勢制御を行うメカニズムであり、単に独楽を回転させただけのフリージャイロとは異なる。違っている点は、姿勢を戻すための加力装置を備えている点であり、この理論を確立し、実用に供したのが、イギリス人の技師Louis Brennanである。


Louis Brennan and his gyro monorail model 1907
(自宅の庭園で綱渡りのデモをしているブレナン)


 彼は、この技術を鉄道に応用することを思いつき、模型によるデモンストレーションを行い、政府から研究費を得た。そして、1910年には、定員30人の実機を製作し、博覧会で展示した。


Brennan's gyro monorail 1910
(日本と共催の博覧会でデモを行った実機で2機製作された)


 ジャイロモノレールの利点として、線路のレールを1本にすることができる、と述べられているものがあるが、それは間違いである。1本にしても、横力に耐える基礎が必要であり、現行の線路とさほど変わりはない。経済面でいえば、機関車以外の貨車や客車にもジャイロを搭載する必要があること、また、ジャイロを回転させるエネルギィが走行エネルギィよりも大きくなる場合があることなど、デメリットは大きい。

 それでも、ジャイロモノレールが当時(1910年頃)脚光を浴びたのは、鉄道の高速化のために必要だと考えられていたためである。まず、レール2本の線路では、高速時に車両の揺動が問題になること。また、乗車している人間にカーブ通過時に遠心力がかかることが大きな問題だった。これは、時速300km以上の速度で、既存の鉄道のカーブを走行する想定では、避けられない大問題であり、これを解決できる方法として、モノレールが有望視されていた。ジャイロモノレールは、他の懸垂式や跨座式のモノレールに比較すると、線路を含めた施設をはるかに簡素化できる点がメリットだった。


Cover of Modern Mechanix Feb. 1934
(プロペラ駆動の大型ジャイロモノレールの想像図)


 Brennanのジャイロモノレールは、技術的にはほぼ完成していた。特徴としては、ジャイロを2機備えていること、空気圧アクチュエータによって姿勢制御を行う機構を備えていたこと、が挙げられる(ただし、模型では、サーボにはジャイロの軸回転を利用した摩擦法を採用していた)。

<Brennan以降の研究>

 不幸にも、第一次世界大戦がヨーロッパで始まり、ジャイロモノレールの開発は頓挫した。イギリス以外では、ほぼ同時期にドイツで小型のジャイロモノレールが作られたが、これも開発は途絶えた。

 戦後は、モノレールではなく、道路を走る二輪車にこの技術を応用し、ジャイロカーが作られた。しかし、道路を走る二輪車では、オートバイが既に実用化されている。ジャイロがなくても、オートバイは倒れずに走ることができる。つまり、わざわざジャイロを搭載するメリットがない。

 これは、模型でも同様で、ジャイロを搭載した二輪車の模型をときどき見かけるが、ジャイロがなくても、ラジコンのバイクなど、普通に走行することができる。レールのように軌道が限定されない条件では、姿勢安定は比較的容易となる(たとえば、自転車も手放しで走行できる)。ジャイロカーのメリットといえば、停車時でも自立する、という程度であるといえる。

 数十年後に、ジャイロモノレールを再現しようとしたアメリカ人も、最初はモノレールの研究をしていたが、実用化を目指す途中で、路上を走る自動車の開発へシフトしたため成功しなかった。つい最近でも、倒れないバイクが開発されているようだが、珍しくて話題になるだけで、メリットとしては小さいといわざるをえない。


Cover of Science & Mechanics Sep. 1967
(世界初と記されているが、イギリスで30年もまえに実用化されている)


 鉄道においても、浮上式の車両が登場したため、高速に対するモノレールの有利さは、既に消えたといえる。また、高速鉄道においては、カーブの遠心力はカントでカバーできる。ジャイロモノレールに関しても、ジャイロにエネルギィを使って自立するよりも、倒れないようにガイドのレールを設ける方が現実的である、との考えが主流となった。

 つまり、結論として、この技術は実用的ではない、ということである。あくまでも、趣味の分野といえる。

<ジャイロモノレールの模型>

 Brennanのモデルは、今もイギリスの博物館に残っているが、これは動かない。世界中を探しても、2009年時点で、ジャイロモノレールの模型はなかった。そこで、Brennanの理論を紐解き、実験を行い、模型を幾つか試作することにした。2009年末にこの走行シーンをネットで発表したところ、世界中から沢山の反響があった。

 それ以前にも、車輪が1つしかないモノレールのおもちゃが存在する。古くはドイツのレーマン社が発売したもので、1912年頃である。これはピッチングすることで独楽のようにしばらく倒れない(数分が限界だが)。最近では、井上昭雄氏が何台か製作されている。また、2015年にドイツで発売になったおもちゃは、車輪が前後に2つあるが、ジャイロがピッチングするように関節が設けられている。同様のおもちゃが、2016年アメリカで発売になり、こちらはモータではなく弾み車を用いたものである。これらのタイプは、レールの上を走るが、姿勢制御の装置を持たないので、ここではジャイロモノレールとは呼ばない。


Single wheel gyro monorail by Lehmann Toy Company
(ゼンマイ駆動の1輪ジャイロモノレールのおもちゃ)


 同様に、前後に2輪を持つもので、レールではなく床を走行する、いわゆるジャイロカーは、やはり同じレーマンが1912年に発売している。レーマンがこの時代にジャイロモノレールやジャイロカーのおもちゃを発売したのは、当時この技術が世界の関心を集めていたからである。2輪を持つタイプでは、レールの上を走行できないので、モノレールではなく、すなわち、ジャイロモノレールとは呼べない。


Gyro car by Lehmann Toy Company
(弾み車で走るレーマン製のジャイロカー)


 ジャイロモノレールに似た機構のモデルをネットでときどき見かけるが、姿勢制御装置を持たない、いわゆるフリージャイロのものが多い。この種のものは、長くても1分程度しか自立しない。数分に及ぶ長時間の(編集されていない)動画はない。

 2016年現在、欠伸軽便鉄道以外でジャイロモノレールの模型を成功させたのは、日本人で4人、イギリス人で1人の合計5人だけである(資料館参照)。もちろん、実際に人間が乗れるサイズの実機は、現在は存在しない。

 成功された方は、是非ご連絡下さい。


ジャイロモノレール試作10号機の動画

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