「危険な誘惑」

 

 最近フィルムカメラ中古市場価格の値崩れが激しい。PENTAX6X7ボディーが2万円台であったりすると本当に驚いてしまう。デジタルカメラが市場を席巻し、憧れのカメラが手の届く価格まで下りてきているとなると、もう使わないと思いつつ悪い虫が騒ぎ出す。EOS3が2万円台。そしてあのEOS-1Vが5万円台で並んでいる。EOS-1Vは何度となく量販店のデモ機をいじっては、あの切れの良いシャッターに陶酔したものだ。いまさらフィルムを買って、現像出してと言う行程は、経済的にも負担が大きく、現実的ではない。でもあのシャッターの感覚。忘れられないでいる・・・。

 家にはすでにEOS10Dの購入以来、全く動かなくなったEOS5が3台も眠りについている。愛着を感じてしまうと売れない性格。話をすると皆からあきれられるが、それほどに私は視線入力機が好きだった。しかし使われなくなったカメラは哀れだ。二束三文とは言え、誰かが使うのであれば売ってしまった方がカメラが生きるのでは。そう思いなおして下取りに出してみることにした。調べてみるとすでに買い取り価格上限で4千円。新規購入で15万だったろうか。思い入れのあるボディーだったので、結局3台出すのは忍びなく、外観のきれいな1台を残した。VG-10グリップ付き2台で8千〜1万円くらいになれば、4〜5万でEOS-1Vが買えるのでは、そう思った。

 新宿の中古屋に行くと、査定には20分ほどかかるという。その間に別棟のカメラを見に行った。EOS-1V HSが6万9千8百円であった。EOS-1Ds Mark2 29万8千円。EOS-5D 13万8千円。この辺が気になり頭の中で揺れている。デジタルはとにかく広角を1:1で使いたかった。EOS-5DはMark2が魅力的だが、まだ新品は23万以上が相場。魅力的なカメラだが、すぐ型遅れになるデジカメの現状を思うと、新規で買うのも二の足を踏んでしまう。もっともデジカメはシャッターユニットの耐用回数などもあるので、中古で済ますのもかけなのであるが。シャッター音だけ味わうためにEOS-1V HSはナンセンスだろうと思っていた。しかしEOS-1Ds Mark3は中古でも40万以上。とても手が出ない。EOS-1Ds Mark2もモニターの小ささが気になるが、悪くない。せめてセンサークリーニング機能が付いていれば。結局、EOS-1V HSをさわってみることにした。実はここに来る前、ヨドバシカメラに寄って、EOS-1Ds Mark3などのシャッターを押してきた。あきらかにEOS-1Vとは違うフィーリングだが、これはこれで悪くなかった。店の片隅、ふと目にしたところにEOS-1Vも一台まだ展示してあった。「こんな隅に・・・。」あのころのフラグシップの輝きはすでに失われていた。シャッターを押す、「あれ?」こんな感じだったろうか。Mark3をいじった後だったせいなのか、シャッター音が不快なほどうるさく、グッとこなかった。失望した。これで買う気は治まるかもしれない。そんな感じだった。

ショーウィンドウから出てきたEOS-1V HS、レンズをはめて、「どうぞ。」と渡される。シャッターを押す。あのころのまま感動的なシャッター音が響く。「これなんだ。」さっきの展示機はもうユニットがへたっていたのだろう。昔味わった感動が指先から伝わる。外観もほとんど傷がなく、使われずにしまわれていたタイプに思える。「買ってしまおう。」心は傾きはじめた。店の人もどんどんフイルムカメラを売り切りたいのだと思う。しきりにこれを勧めてくる。ただここの店員さんは本当にカメラ好きの方のようで、非常に嫌みのない進め方で上手い。シャッターがいいでしょうと言って、EOS5Dを出してきて比べさせる。そう私は5Dの静音を意識したパコパコのシャッター感覚が好きではなかった。的確にこちらの購買意欲を匠にくすぐってくる。数分後には買いますと宣言していた。 (^_^;)

 査定中であることを伝え、EOS5の所へ戻ると、結果の出た紙が出された。価格は・・・。1台800円だった。使い捨てカメラ並。これにはさすがに驚き、立ちつくしてしまった。結局私は手放せず、2台のカメラを持ち帰ることにする。いやEOS-1V HSが加わったので3台だ。「こうなるとは思わなかったなぁ〜。」肩に食い込むカバンのベルトが切ないほど我が身を締め付ける。「もう少し値崩れを待った方が良かったかなぁ。」「家族にばれるだろうなぁ・・・。」デザインのほとんど変わらないEOSシリーズは、買い換えを家族に黙って行うとき非常に便利だが、EOS-1V HSはさすがにごつい。そのときの言い訳を考えながら私は家路をたどった。

 以前友人に、「鉄道が好きなのではなく、写真がすきなんだよ。」と言われ、生まれてすぐから鉄道好きで通してきた私には、ちょっと予想外の指摘をされたことがあった。少なからずショックを受け、黙って収めたが、何かずーっと自分の中でひっかかっていた。でも今回のことで「やっぱり、そうなのかもしれない。」と思い始めたのは、前回購入したG9のこともあった。コンデジとしてそつなく作られているにもかかわらず、疑似シャッター音に心が萎えた。音を消すと何の振動もないただの箱になった。面白くない。携帯にあるようなバイブレーター機能を応用したクリック感があればと思う。結局私は指先から伝わるこれを求めていたことがやっとわかった。その点でEOS-1V HSは100%満足するものだったのだ。しかし、フイルムカメラの未来は暗い。経済的にもフイルムは高くつくし、壊れれば修理もままならなくなる。EOS-1Vは暫く部品が確保されるだろうけど、眠らせて飾っておくにはもったいない。暫く私はフイルム+デジタル併用で撮影をこなしていこうと思う。データー管理も保管場所も2分化されて殊の外めんどくさいが、当分の間、私の迷走飛行は続くと思われる。こうなるとEOS3もほしくなるな・・・。いやCONTAX RTS3も、NIKONもこの際。う〜ん、きりがない。(^_^;) そしてへたってきたレンズ群を置き換える時期が来ている。小遣い持ちませんなぁ・・・。

 

 

(2009-5月記)

 

 

 

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