1975年 Breakaway Interview Part II


スチュアート(スタジオから)Angel Clare に曲を提供した、才能あふれるソングライターたちは、個人的な友人でもあったのですよね。今回のアルバムにも曲を提供した人はいますか?

アート:両方のアルバムに書いたのは、アルバート・ハモンドだけです。曲を書いています。歌詞はハル・デイビットが書いたものです。"99 Miles From L.A."という曲です。

スチュアート:あなたはいつも使う曲を探して聞いているのですか?新しい曲を?

アート:ええ。レコーディング中と、レコーディング前、そうですね、レコーディング前の1年間とレコーディングの最中は、いつも聞いています。レコーディングが終わりに近づくと・・・1ヶ月か2ヶ月前かな、「もういい、これで十分。もう何も聞きたくない。いっぱいだ。」って感じ始めました。何も聞かないのもいいものでした。ここしばらくは何も聞いていません。

スチュアート:その時期、よく心変わりしますか?例えば、「この曲はいいね」と言っておきながら、やっぱりやめるとか・・・。

アート:そんなことはないです。自分が何を好きなのかは確信を持てます、どのくらい気に入ったかもね。1曲を2回聞けば、自分に合うかどうか分かります。自分の音楽の好みはよく分かってますし。自分の耳を信頼してますし、何に反応するかも知ってますから。

スチュアート:"99 Miles From L.A."はどこが気に入ったんですか?

アート:それは、非常に変わった質問ですね。この曲、嫌いだったんです!(笑う)

スチュアート(スタジオから):好きにしろ嫌いにしろ、私に言わせれば、"99 Miles"はこのアルバムで最も成功した曲の一つです。まるで映画か夢のように、イメージが浮かび上がってくる曲です。リチャード・ペリーに聞いてみましょう・・・

リチャード:ええ、確かに、僕も同じように感じます。この曲を元にした、3分間の映画とか作ってみたいですよ。この曲を聞くと、色々な美しいイメージが浮かび上がってきます。彼の声の美しさを表現するのにはぴったりだと思いました。この曲の視覚的な要素を指摘してくれてうれしいですね。そのことはレコーディングの最中もですが、出来上がって後には非常に強く感じました。でもね、またこれも、僕が手がけるレコードの多くに言えることなんです。ほとんど全部かな。こんなにも視覚的なのは、この曲の歌詞の基礎がビジュアル的だからです。歌詞を書いたハル・デイビットに拍手です。歌詞の言葉のおかげで、心にこんなにも美しい映像が浮かびあがるのです。結果として、曲全体にビジュアル的な雰囲気が、かもし出されました。

<"99 Miles From L.A."をかける>

スチュアート(スタジオから):"99 Miles From L.A."でした。アートは最初、この曲が嫌いだったみたいですが、そんな簡単に一言で済ませさせるわけには行きませんよね。

アート:奇妙なものですよ。この業界で、何もかも思い通りに行くなんてことはありません。偶然や、実験、ミスだらけです。自分の意図とは関係なく起こる事ばかりです。「たくさん曲を聞いて、自分が気に入ったものを選びます。」と言ったばかりなのに、この曲を好きじゃなかったなんて、矛盾しているように聞こえると思います。ただ、このアルバムのうち数曲は、リチャード経由で入ったものなんですよ。リチャードが「これはどう?」と聞いてくるわけです。"99 Miles"の時は、じわじわと気に入っていきました。最初に聞いたときは、あまり乗り気じゃなかった。リッチが、「とりあえずやってみようよ」と言うので、作っていくうちに、よさが見えてきました。

スチュアート:あなたは、視覚的イメージに強いタイプだと思うのですが。以前に"Punky's Dilemma"などの曲は、映像がはっきりと浮かび上がってくる、とおっしゃってましたよね?"99 Miles"に関しても同じように思ったのではないですか?この曲をそう言う風に・・・

アート:この曲は・・・開けた土地に、どこまでも伸びている道路、クレッシェンドとディクレッシェンド【訳注:クレッシェンドは「だんだん大きく」、ディクレッシェンドは「だんだん小さく」という意味の音楽記号】がまるで、呼吸音のように聞こえます。この広がりと動きが、映画のスクリーンのようです。走る車が見え、色々な灰色が目に付きます。灰色の世界、雲が低く垂れ下がった空のイメージですね。

スチュアート:私は初めて聞いたときから、この曲もアルバムの他の曲と同じように気に入りましたが。

アート:気に入ってくれて、うれしいですね。僕は・・・この曲はじわじわと好きになった曲なので。じっと見ていました。この曲にはどう切り込めばいいのか?シンガーとして、この曲からどういう良さを引き出せるだろう?と。すると、眠りを誘うような、クレッシェンドとディクレッシェンドに惹かれてきたのです。

スチュアート:このアルバムでは、前作とは、違う方向を目指したということですが、声の感じ、歌い方が、ほとんど全ての曲で違いますよね。でも、すごくいいと思います。声に、現実的な―ここで「現実的」と言う言葉を使うのがいいのか分かりませんが―浮遊感があります。まるで上に浮かんでいるような・・・

アート:"99 Miles"に関して言えば、そうです。そういう効果が出るように、レコーディングしました。そういう感じが出ることを狙って、ボーカルを二重録音しました。リード・ボーカルを録り終えてから、少しトリックを使いました。

スチュアート:他の曲では、バック・ボーカルを使いましたか?

アート:ええ。1曲に、トニー・テニールとブルース・ジョンストンが参加しています。

スチュアート:"Disney Girls"のことですか?

アート:"Disney Girls"です。

スチュアート(スタジオから):先程申し上げました、このアルバムの3曲のヒット曲のカバーのうち、2曲目が"Disney Girls"です。3曲目も、すぐに話題に出てきます。

スチュアート:リチャード・ペリーのプロデュースにサウンドに惹かれたとおっしゃってましたよね。あなたのアルバムの中で、そのサウンドが特によく表れている曲はありますか?

アート:ええ。シングルで発売した"I Only Have Eyes For You"は、非常にリチャード・ペリーらしい作品だと思います。僕がリチャードならこうするだろう、と思っていたスタイルで作ってくれました。曲の出来上がりは予測できないものです。でもこの曲は僕が思い描いていたとおりのスタイルで、リチャードの才能がよく出ている好例だと思います。

<"I Only Have Eyes For You"をかける>

スチュアート(スタジオから):アート・ガーファンクルの、アルバムにも収録されていますが、シングル発売され、大ヒットした曲です。リチャード・ペリーらしさが良く表れている曲、"I Only Have Eyes For You"でした。

スチュアート:でも、サイモン&ガーファンクルの曲はどうだったんですか?先週もお話しましたが、ポールのアルバムにも入ってますし、このアートのアルバムにも入ってます。リチャード・ペリーは"My Little Town"についてはどう思ったのですか?アルバムのうち、この曲だけ関わっていませんが。

リチャード:そうです。

スチュアート:難しかったですか、これを・・・?

リチャード:最初は、ちょっと難しいなと思いました。でも、かなり早い段階で、何とかできると分かりました。最初は、この曲が僕達のアルバムのコンセプトに上手くはまるだろうか、と少し心配でした。このアルバムは、初期段階から、ロマンティックなアルバムを目指していました。70年代のラブソング・アルバム―女の子を口説けるようなアルバムにしたかったのです。この目標は達成したと思います。だから、"My Little Town"の痛烈で皮肉な歌詞が、このコンセプトの障害になってしまうでは、と、ちょっと心配だったのです。でも、出来上がってみたら、アルバムに良く合っていると思います。

スチュアート(スタジオから):ふむ。先週、この番組でポールの新しいアルバムの紹介したとき、ポールは"My Little Town"の出来た過程を話してくれました。今週は、アーティーによると、この曲はゴスペルだ、とのことです。

アート:早春の、ある晩、ポールがこう言ってきました。「君のアルバムによさそうな曲があるんだけど。」と。いつもポールは、僕のスタイルがお上品すぎると思ってるみたいでね。いつも言われるんですよ、「もっと鋭く現実をとらえた曲を入れろよ。」って。そう、それで彼が言うんです、「君のためにあつらえたような曲だと思うんだ。今、書いている曲なんだけど。プレゼントしたいんだ。君のアルバムのバランスを取るのには、最適だと思うから。」彼はすでに、僕の曲をいくつか聞いてましてね。で、その曲は、そうですね・・・現実に対する怒りが込められたものでした。ぴりっとしていて、気に入りました。

だから彼にこう言いました。「いいね、やってみたいよ。ぜひやってみたい。だが、君も自分でやりたくなるような気がするんだ。」(彼は決して多作じゃないですからね)、「だから、自分のアルバムに必要になったら、自分のものにしてくれ。申し出はとてもうれしいけど、どうなるか分からないからね。」たまに思うんですが、こういう事柄に関しては、僕の方が、ポール自身より、よく彼のことが分かるんです。彼は、「じゃ、どうなるか見てみよう」と言いました。

曲を仕上げて、その頃には、ポールは、この曲にほれこんでしまいました。当然ですよ、とてもいい曲ですからね。彼は歌いたくなった・・・僕に提供してしまったら、曲が足らなくなってしまうと、僕には分かっていました。それで、彼に、曲の転調部が2パートのハーモニーにぴったりだというのを見せました。彼は最初は、「2パートのハーモニーなんて、いいんだ。これは君のために書いている曲なんだから。君にぴったりだと思う。これが僕の気持ちだ。この決定を覆す気はないんだ・・・これは、・・・ただ気前がいいところを見せようとしてると思ってるだろ。そのとおりだよ。」と、言うので、僕も「まあ、それならいいけどさ。」と言いました。

でも、彼もだんだん、曲の転調部にフォークっぽい感じがあって、2パートのハーモニーにしたらいいかもしれない、というアイデアに傾いてきたので、二人でやってみました。彼がメロディーを歌って、僕がすぐにハーモニーに入る。直感的な思いつきで、僕は、上のハーモニーではなくて、下のハーモニーをつけました。それで少し変わったブレンドになりました。これ、最近、特に好きなサウンドなんですよ。だからとても刺激的な体験だったし、彼にとってもそうだったと思います。二人で歌ったのは、5年か4年ぶりだったし、それに言うまでもないことですが、誰かと音楽を作るのは、最高に素敵なことですからね。特に、何年も一緒にやってきた2人の声のブレンドですから、他の人たちと同じように、僕の耳にも心地よく響きました。二人とも楽しんで歌いました。

曲を演奏してみる頃には、レコーディングをしなくては、と思い始めました。二人ともとても楽しみましたし、音楽的にも、とても満足できる体験だったので、レコーディング以外のことは思いつきませんでした。当然のことのように思えてきたわけです。だから「よし、レコーディングしよう。」となって、ポールが、「マッスル・ショールズでやろう。」と言いました。彼はずいぶん長い間、僕をマッスル・ショールズのミュージシャンとセッションさせたがってましてね。

スチュアート:それで、彼の思惑は実現したんですか?

アート:ええ。彼が何人か、いいミュージシャンを紹介してくれました。また一緒にやってみたいと思っています。3月から4月にかけて2人でマッスル・ショールズに行きました。やっと冬が終わりかけていたころで、空気にいい匂いが混ざってましたね。そこで3日かけて、"My Little Town"をレコーディングしました。1ヵ月後にボーカルをやって、6月か7月にミキシングをしました。とてもサイモン&ガーファンクルらしい曲に仕上がりました。

<"My Little Town"をかける>

スチュアート:また一緒にやるのはどうでしたか?昔に戻ったみたい?火花が飛び散りました?どんな感じでしたか?

アート:火花が散りましたね。火がついた、という点に限れば昔に戻ったみたいでしたね。錬金術みたいに説明不可能で、楽しくて、刺激的でした。以前のようなフラストレーションもたくさんありました。音楽のテイストが違うし、細かい、具体的なアレンジの話になると、2人の人間をどちらも満足させることはできないということに気づかされましたが、それでも1つに決めなきゃいけないんです。実際、そういう葛藤ばかりでした。いくらか妥協しなくてはいけませんしね。何度も、「うーん、僕にはそう聞こえないけど、いいよ。」って言わないといけないんです。

スチュアート:じゃあ、やっぱり、以前に戻ったみたいだったんですね。

アート:ええ。でも、レコードを作る時は、こう言う風にしたくて、それが好きだから、作るんでしょう?それ以外の理由で作るだなんて、おかしいですよ。

スチュアート:つまり、アルバムの他の曲を作る時は、この曲より苦しくなかった、ということですか?

アート:いいえ、別に、この曲のレコーディングが苦しかった、と言ってるわけではないです。ポール・サイモンと僕の好みの違いに関して言えば、それはいくらかフラストレーションがたまる体験でした。時にはポールにとって、そして時には僕にとってのね。でも、"My Little Town"のレコーディング中には、そんなに大きな問題ではなかった。いらいらするなんてことではなくて、ただ、レコーディングと言うクリエイティヴな体験の充実感を下げてしまう、ということなのです。だから僕は自分のソロ・アルバムを作ってるんですよ。これから先、基本的に、僕はソロのミュージシャンとしてやっていくつもりです。ポールと同じようにね。僕は、リスナーに気に入られるものより、自分が満足できるものを作りたい。最大限、自分の思う通りにしたいのです。

スチュアート(スタジオから):うーん、これは思い切った発言ですね!しかし、言わずとも知れたことですが、アーティーはリスナーも「気に入る曲」以上の曲を作ってくれますよね。このアルバムでも、スティーヴン・ビショップという新人のソングライターを2曲に起用して、私達をとても満足させてくれます。
 

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