☆筋弛緩(しかん)剤点滴事件☆

 仙台市泉区の診療所「北陵クリニック」で、筋弛緩剤「マスキュラックス」を混入
した点滴を00年10月に小6女児に投与したとして、宮城県警泉署捜査本部が01
年1月6日、殺人未遂容疑で准看護士の守大助被告(30)を逮捕した事件。その後
捜査本部は、小6女児のほか「(1)下山雪子さん(89)への殺人(2)1歳女児
への殺人未遂(3)45歳男性への殺人未遂(4)4歳男児への殺人未遂」の計5件
を立件した。被害者とされる5人のうち下山さんが死亡、小6女児(現在は中学生)
は意識不明の状態が続いている。3人は容体が急変したが回復した。01年7月11
日、初公判が開かれ、守被告は犯行を否認、弁護側は、初交はでは異例の冒頭陳述で
冤罪を主張し⇒詳細は

被告の起訴事件(逮捕順、年齢は当時)

       発生日         被害者         罪状

 1件目 00年10月31日  小学生の女子児童(11)  殺人未遂

 2件目 00年11月24日  特養入所者の女性(89)  殺人

 3件目 00年 2月 2日  経過入院中の女児(1)   殺人未遂

 4件目 00年11月24日  外来患者の男性(45)   殺人未遂

 5件目 00年11月13日  FES手術の男児(4)   殺人未遂

        逮捕        起訴

 1件目 01年 1月 6日  1月26日

 2件目 01年 1月26日  2月16日

 3件目 01年 2月16日  3月 9日

 4件目 01年 3月 9日  3月30日

 5件目 01年 3月30日  4月20日

 

☆筋弛緩(しかん)剤☆

筋肉の収縮を抑制する薬剤で、医療現場では通常、気管に呼吸用の管を挿
入する際に筋肉の収縮を抑えたり、パーキンソン病の震え、筋肉の硬直を抑えるなど
の治療目的で使用される。中枢神経に作用するタイプと、筋肉と運動神経の接する部
分に作用するタイプに大別されるが、血液中の酵素によって分解されるため、効き目
の調節をしやすい薬でその持続性は短く、投与によって完全まひ状態になっても通常
数十分で回復するといわれている。ただ、人工呼吸器などによる管理がない状態で使
用されると、呼吸や心拍が止まるなどして死に至る場合があるため厚生労働省も毒薬
に指定している。

筋弛緩剤事件仙台地裁初公判(01年7月11日)

☆検察側冒頭陳述⇒捜査の経緯について、患者の救急転送先の仙台市立病院から「女
児らの容体急変の原因は点滴の際に筋弛緩剤を投与された疑いがある」と言われたこ
とをきっかけに、クリニックの副院長らが00年12月、警察に相談したことを明ら
かにした。動機は明確にしなかったが、救命措置などで評価が高かった守被告は、待
遇面で前に勤務していた病院よりも優遇されるだろうと期待していたにもかかわら
ず、実際には資格と経験年数相応の待遇だったことに不満を漏らしていた、と述べた
⇒要旨。

☆弁護側が異例の「えん罪」の冒頭陳述⇒弁護団は初公判としては異例の冒頭陳述を
行い、「患者に筋弛緩剤が投与された事実は存在しない。被害者の血液の鑑定書はね
つ造の疑いがある」「5人の被害者の容体急変は、病変か医療過誤だった」と主張、
捜査についても、「被害者の血液や尿から検出された筋弛緩剤の濃度は不自然で、警
察の鑑定には、ねつ造の痕跡がある」「自白は刑事らの強要」と批判。院長が患者の
急変に十分対応できなかったとし、「急変時に居合わせることの多かった守被告を犯
人とする薬物投与事件という構図を思いついた」と述べた。

また、罪状認否で陳述台に立った守被告は、背筋を伸ばし、「無実」を主張した後、
「毎日必ず、『お前は人を殺したんだ』とどなられた」などと警察批判を展開、「被
告人席に座らされていること自体、とんでもない間違い。1日も早く……」と述べ、
(涙を浮かべながら)「無実と分かってもらい、私を信じて待っていてくれる家族や
彼女の所へ帰りたい」と訴えた。⇒要旨

なお、検察官の起訴状朗読、即座に主任弁護士が起立し、筋弛緩剤混入の日時など4
点について検察側の釈明を要求したが、検察官は、「釈明の必要はない」と回答のほ
とんどを拒否した(双方が激しく対立した初公判は実に6時間以上に及んだんだが、
この日の朝、一般傍聴券の抽選会場になった仙台地裁近くのグラウンドには、56枚
の一般傍聴券を求めて1,388人が早朝から列をつくった⇒主な過去の裁判の傍聴
希望者数)。

第2回公判(01年7月24日)

検察側は、クリニックのオーナーである半田康延・東北大教授が「00年12月の院
内の点検で、守被告の筆跡で00年8月と11月にそれぞれ筋弛緩剤10アンプルが
注文されていたのに、このうち9アンプルしか残っていなかったことが分かり、守被
告が患者に投与したと確信した」などと供述していたことと、半田郁子院長(当時副
院長)が警察に提出した容体急変者20人のリストを読み上げ、「(1)13人は点
滴開始5分〜35分後に容体が急変している(2)ほとんどが呼吸停止から心停止に
至っている(3)守被告が当直などで診療に関与している」と相談したこと等を明ら
かにした。

なお、予定していた証人申請などの立証計画は次回公判(7月31日)に持ち越され
た。

第5回公判(01年9月6日)

県警捜査1課の課長補佐に対する主尋問==⇒5件それぞれの捜査の端緒、立件した
根拠を説明。(00年11月24日に死亡した下山雪子さん(当時89歳)の点滴に
使われた生理食塩水ボトルについて)、「同じ数字が並ぶはずの製造番号が1本だけ
同日使われた他のボトルと異なっていた」、また「医療廃棄物の中から41枚中1枚
だけ針穴の開いたシールを発見し、このシールの接着剤をはがした跡が下山さんのボ
トルと合致した(結果)ボトル口のシールの上から注射器で筋弛緩剤を混入する犯行
があったと確信した」と証言。

第6回公判(01年9月11日)

初動捜査にかかわった県警捜査1課の捜査員への主尋問==⇒捜査員は、退職後の0
0年12月4日夜、病院出入り口に現れた守被告に職務質問したところ、突然バタバ
タと院内に走って行ったため「逃げた」と感じ、足音を頼りに追いかけた。手術室の
隣室でしゃがんで医療廃棄物を入れる赤い箱を持っている守被告を発見。聞いてもい
ないのに「手術で使ったゴミを片づけるために取りに来た」と話したと証言。また
(鑑定された患者の保存血液の「出所が不明」と弁護側が主張していることについ
て)、その一つを自ら東北大病院に取りに行ったため、入手先に不明な点はないと述
べた。

第14回公判(01年10月12日)

本人質問で守助被告は、検察側が証拠隠滅と指摘する退職した00年12月4日夜の
行動について、(帰宅後に再度クリニックを訪れた理由を)「忘れ物をしたため。昼
に行って当時の副院長と顔を合わせたくなかった」と、また(筋弛緩剤空アンプルが
入った赤い箱を持ち出そうとしたことについては)「廃棄物でいっぱいになっていた
ので、捨てようとしたまま忘れていたことに気づいたため」、さらに、(箱を抱えて玄
関で捜査員に出会い、走って逃げたとされる点についても)「捜査員に『いた所へ戻
れ』と言われ戻った」と主張し、いずれも検察側の主張を否定した。戻る

筋弛緩剤混入事件、初公判 検察側と弁護側の冒頭陳述要旨

 筋弛緩(しかん)剤混入事件で殺人罪と殺人未遂罪に問われた守大助被告(30)
に対する01年7月11日の初公判で、検察側と弁護側が朗読した冒頭陳述書の要旨
は、それぞれ以下の通り。

★検察側の冒頭陳述要旨★

1.北陵クリニック就職後の被告人の言動など

 90年春に高校卒業後、准看護婦(士)養成所に通いながら仙台市内の脳神経外科
病院で働いていた守(もり)大助被告は、救急救命や手術に興味を深めるようになっ
た。その後勤務した病院では手際のよさが評価され、院内の心肺蘇生(そせい)処置
の勉強会で、他の看護婦を指導することもあった。同時に、守被告は医師の技量を批
判するようにもなった。

99年2月、守被告は北陵クリニックに就職。00年4月ごろから、同僚の看護婦ら
に対し、折に触れ、半田郁子副院長の診療一般について「こんな薬の出し方ないよ」
「即断力がない」などと批判するようになり、容体急変患者に対する処置の未熟さに
関しても「挿管できない」「気道が見えてんのに入れられないんだよな」などとあか
らさまな批判を繰り返すようになった。

 看護婦らが急変患者が発生したことを想定したシミュレーション訓練を提案する
と、被告は「実体験しなきゃ身につかない。実際に急変患者をつくってみなきゃ」な
どと発言し、別の機会には「勤務中に予告なしにシミュレーションするかも知れない
よ」と発言した。

2.捜査の端緒と経過

 半田郁子副院長らは00年11月30日、仙台市立病院の小児科部長らから救急転
送された女児やその他の小児患者が容体を急変させた原因として点滴の際に筋弛緩剤
を投与された疑いがあると告げられた。そこでもはや放置できないと判断し、同年1
2月2日、警察に相談した。

 市立病院の麻酔科部長は小児科部長から意見を求められ、北陵クリニックからの転
送小児患者のカルテ等を検討した結果、呼吸停止に至る過程で物が二重に見えるな
ど、筋弛緩剤の効果による症状と同様の症状が共通して認められたことから、筋弛緩
剤が投与されている疑いがあると返答していた。

 00年12月3日夜に筋弛緩剤マスキュラックスの在庫を確認したところ、被告が
発注して20アンプル仕入れていたことが判明し、23アンプルが使途不明とわかっ
た。

 01年1月6日に任意同行を求められた被告は、北陵クリニックでの待遇に不満が
あったこと、副院長の技術の未熟さなどに対するいらだちがあったことを背景に、一
方で副院長を困らせたいという気持ちと、他方で急変患者が増えれば副院長が勉強
し、てきぱきと仕事をするようになるのではないかという気持ちから犯行に及んだと
供述するに至った。被告は同夜、女児に対する殺人未遂容疑で逮捕された。

 逮捕翌日の同7日、検察官から勾留(こうりゅう)請求を受けた仙台簡裁の裁判官
に対しても「副院長を困らせようと思って行ったことで、殺意を持ってやったことで
はありません。(女児に対しては)やってはならないことをしてしまい、申し訳のな
いことだと反省しています」と供述し、殺意こそ否認したが外形的事実は認めた。

3.女児(当時1)への注入状況

00年2月2日午後、女児に対する点滴の不具合があり、被告は介助に入り、調整し
た。

 被告は同日午後5時20分ごろ、いったん部屋を出て、1、2分後にマスキュラッ
クスを混入した容量5ミリリットルの注射器を右手に持って部屋に戻ってきた。被告
はその注射器を三方活栓に接続し、マスキュラックスを女児の体内に一気に注入し
た。

 女児は1〜3分後の間に泣き声を上げなくなり、目を閉じ、さらに顔面チアノーゼ
などの症状が表れた。被告は「あれ、呼吸してないんじゃないの」などと言った。
「チューしてもいいかな」と言いながら女児を抱きかかえて、マウス・ツー・マウス
の方法で人工呼吸を実施した。

 容体急変で医師を呼んだ際、被告は看護婦に「記録して」などと言い、この看護婦
は処置の内容をメモに記した。その後、女児は市立病院に搬送され、一命を取り留め
た。

4.女児(当時11)への筋弛緩剤の注入状況

00年10月31日午後6時35分ごろ、被告は女児に投与する点滴溶液を調合し
た。そこで点滴溶液にマスキュラックスを混入した。

 被告は同6時40分ごろ、女児に「準備できたから、奥のベッドに横になってい
て」と病室に入るよう言い、女児をベッドに寝かせた。同6時50分ごろ、看護婦に
手伝ってもらって、左手甲にマスキュラックスの入った点滴の針を刺した。

 女児は約5分後ぐらいから「目が変」「物が二重に見えるっていうか」と変調を訴
え始め、被告は医師に「物がよく見えないといっています」と通常の口調で話した。

 女児は深い昏睡(こんすい)状態となり、自発呼吸も低下し、市立病院に転送され
た。一命を取り留めたものの、大脳細胞の大半は壊死(えし)し、植物状態で回復の
見込みはない。

5.男児(当時4)への筋弛緩剤の注入状況

この男児は00年11月13日、手術を受けた。看護婦は手術後の点滴に使う生理食
塩水に男児(当時4)の名前を書いていたが、同日午後7時15分までの間に、被告
はその溶液にマスキュラックスを混入した。

 被告は看護婦らに「21時からの抗生剤の点滴はどうなるかわからないよ」と言
い、臨床検査技師に対しても「おれはもう帰るけど、今夜何かあったら(看護婦を)
助けてあげてね」などと言い、クリニックを出た。

 事情を知らない当直の看護婦は午後8時57分ごろ、マスキュラックスの入った生
理食塩水を使って男児に点滴を始めた。男児は午後9時30分、「うっ、うっ」とい
う声を3回発し、容体が急変。救命措置が取られた。

 被告は午後10時過ぎにクリニックに駆けつけ、医師に救命措置として気管内挿管
を具申したものの採用されず、「おれ頭に来た。何を考えてるんだ。おれもう帰る」
などと発言した。

6.無職女性(当時89)への筋弛緩剤の注入状況

00年11月24日午前8時9分ごろ、被告はクリニックに出勤した。午前8時20
分ごろまでの間に何回かナースステーションに入った機会、または午前8時20分か
ら看護婦から事務引き継ぎを受けてナースステーションを出るまでのあいだに、だれ
にも気づかれないように生理食塩水にマスキュラックスを混入した。

 その方法は、生理食塩水のボトルの口に接着されているビニール製の封をしたまま
の状態で、そこに注射針を刺して、注射器に入ったマスキュラックス溶液を混入させ
るものだった。

 事情を知らない看護婦は午前9時前、マスキュラックスの入った生理食塩水2本の
うち1本を使った。午前9時15分ごろ、被告は点滴溶液内にマスキュラックスが混
入されているのを知りながら、この女性への点滴を始めた。

 女性は「いい人いるの」「お嫁さん紹介するから」などと話しかけて、被告と10
〜15分程度会話を交わした。午前9時30分ごろ、被告が病室から出てすぐに、女
性はぐったりした状態となった。

 容体は悪化したが、医師は酸素吸入を指示しただけで部屋を出た。さらに心拍数が
低下するなどして、午前10時5分ごろ、この女性に対する心臓マッサージを開始し
たが、午前10時30分に死亡が確認された。

 被告はその後、点滴を調合した看護婦に「点滴詰めたのあなただよね」と言った。

7.団体職員の男性(当時45)への注入状況

無職女性(当時89)への犯行のために被告が準備したマスキュラックス入りの生理
食塩水は2本だったが、犯行には1本しか使われなかった。残り1本が女性が死亡し
た00年11月24日に外来患者として診察を受けた男性に使われた。この男性は点
滴投与を受けている時に呼吸困難の症状を呈し、その際の症状がマスキュラックスの
効果と矛盾しない。

 被告は看護婦が男性を処置室に案内している間に、マスキュラックスを混入した生
理食塩水と抗生剤を調合し、看護婦に渡した。

 この看護婦は同日午後4時10分に男性への点滴を始めた。男性は40分後には
「息ができません」「力も入りません」などと訴え、容体が悪化した。

☆弁護側の冒頭陳述要旨☆

1.事件性の不存在

 5件はいずれも「事件」が作り上げられ、誤った起訴がなされたものである。

 5件の患者の容体急変はだれかに引き起こされたものではなく、患者に筋弛緩剤マ
スキュラックスが投与された事実は存在しない。半面、患者の容体急変に対応できず
重篤な結果を生じさせた医療過誤の責任や、無実の被告を殺人罪で起訴するような誤
った捜査をさせるきっかけを作った責任を問われるべき人物は存在する。

 11歳の女児への殺人未遂事件の鑑定書の結果が示しているのは、血液の7日後に
採取した尿の薬物濃度が不自然に高すぎるということである。採取した尿に事後的に
マスキュラックスが混入されたことを推認させ、鑑定書は「事件」を作り上げようと
した工作の痕跡を示している。

 加えて、5件の鑑定とも血液や点滴パックなどの資料を全量消費しており、再鑑定
も、患者との同一性の検証も不可能だ。

 患者の容体の変化はマスキュラックス抜きで説明がつく。

 11歳の女児はアセトン血性嘔吐(おうと)症(自家中毒)、死亡した89歳女性
は心筋梗塞(こうそく)、1歳女児は風邪の悪化かてんかん性発作、45歳男性は薬
剤の副作用、4歳男児はてんかん性発作などや手術の影響だった。ただし、11歳の
女児は呼吸管理を怠った医療過誤の被害者である。

2.「事件」が作り上げられた経緯

 副院長の夫は00年12月1日、知人の法医学の教授にクリニックでの患者急変を
相談した。この教授は筋弛緩剤の可能性を指摘し、警察への相談を勧めるとともに宮
城県警に連絡して話を聞くように頼んだ。夫があえて知人に相談したのは、知人を警
察との仲介役にするためだったと思われる。

 翌2日、副院長は県警を訪れ、事実上の告発をした。その際、報告書を提出し、急
変患者16人を記載し、被告の関与も記載した。

 被告は、副院長の夫から12月4日に退職勧奨を受け、同夜、クリニックに置いた
私物を取りに行った際、医療廃棄物を入れた赤い箱を小屋に捨てようとして通用口付
近で男性2人に呼び止められ、箱の中身の説明を求められた。

 警察はこの箱をすぐに押収せず、クリニックに置いて帰り、翌5日の実況見分で、
箱から手術で使用した以上のマスキュラックスの空アンプルなどが見つかった。内容
物の収納状況が不自然で、4日夜以降に何者かが細工したことをうかがわせる。

 1歳女児の血液サンプルは、クリニックから転送された先の病院で採取され、その
後東北大に保管されたものという。しかし、患者の同意もなく両病院の医師同士の個
人的な取り決めで血液を共同保存しているのは不自然である。

 45歳の男性の事件は、鑑定に付された点滴パックが警察官によって発見されたと
のことであるが、詳細は不明で、被害者とされる男性との結びつきを示す証拠がな
い。

3.虚偽自白に至った経緯

 01年1月6日午前8時ごろ、被告のアパートに2人の刑事が訪れ、被告と、婚約
者のクリニック看護婦の2人に同行を求めた。県警に到着後、地下狭い取調室に入れ
られ、ポリグラフ検査を受けることになった。「何の薬品で急変したのか。マスキュ
ラックスか」「犯人は何人やっているか」などの質問を2時間以上受けた。

 その後、刑事から「お前がやったんだろう。証拠はあるんだ。お前しかいない」と
怒鳴られ続け、「やっていない」と言っても聞き入れてもらえず、頭が真っ白になっ
ていき無力感を感じた。婚約者も同様の疑いで取り調べを受けているのかと心配にな
った。行為をしていない被告には、殺人罪についての現実感はなく、「やった」と言
えば家に帰してもらえるとさえ思った。

 「やった」と言ってからは、刑事が「こうなんじゃないか」と言うと、「そうじゃ
ないですか」などと答えた。反省文を書くように言われ、刑事の期待に沿った内容を
書いた。動機についても「副院長の判断が遅くていらいらした」「待遇面に不満があ
った」と適当に言った。

 翌7日は仙台地検で、警察の記録を基に調書が作成された。「殺意はありませんで
した」と訂正を申し出ると、検事は机をたたいて「ふざけるな」と怒鳴り、「反省し
ているなら署名、指印しろ」と言った。何を言ってもだめだと思い、署名、指印をし
た。

 同9日、弁護士と接見し、「僕はやっていません」と言った。同日午後の取り調べ
で、「私は、1月6日から9日に午前中までにいった話のすべてを撤回します。小6
女児を点滴に臭化へクロニウムを入れたりしていません。その他の点については、今
後は黙秘します」を告げた。戻る