(A)当院のおける子宮頚部擦過細胞診による、ヒトイボウイルス(HPV)感染率の報告
荒木産婦人科肛門科荒木常男2001.3.13.
今月3月9日の朝日新聞で、阪南市のTクリニックにおける、ヒトイボウイルス(HPV)感染者の診断率が異常に高率だとの報道がなされたが、念のため、当院のヒトイボウイルス(HPV)感染率を、子宮頚部擦過細胞診から、調査したので報告します。
期間:2000年1月6日から2001年2月28日まで。
対象:子宮頚部擦過細胞診を受けた女性1086人。
判定医:全例とも細胞診指導医の荒木常男が判定した。
判定の根拠にした所見:核周囲空胞細胞、二核細胞。
結果:ヒトイボウイルス(HPV)感染率=66/1086=0.0607
考察:ヒトイボウイルス(HPV)感染率は母集団の取り方で当然変化します。今回の検査対象は毎年一回の子宮癌検診の方を40〜50%含んでいるので、二十歳前後の若い方のみを対象とした場合より、低く出ると考えられます。また、固定、染色の過程で、ヒトイボウイルス(HPV)感染細胞は洗い流されることが多く、最終の検鏡標本による判定では、ヒトイボウイルス(HPV)感染の陽性判定率は減少していると考えられます。実際、生の帯下塗抹顕微鏡検査では、沢山の核周囲空胞細胞が見られているのに、同例の子宮頚部擦過細胞診では、核周囲空胞細胞は少数になっていることを、よく経験します。よって、性交渉の普通に有る女性では、ヒトイボウイルス(HPV)感染率は検査方法が精密ならば、10%前後になっても真実と考えられます
以上で報告は終わりですが、ヒトイボウイルス(HPV)感染の病態には種々のものが見られます。患者がイボイボとかぶつぶつとか表現する、尖圭コンジロームの他、患者には見ることが出来ない腟壁や、子宮腟部の乳頭腫(コルポスコープの教科書にコンジローマとかパピローマとか命名してあります)もあります。乳頭腫になってないが、細胞診や病理組織検査でヒトイボウイルス(HPV)感染に特徴的なコイロサイトーシスのみの見られる例も有ります。当院に来院される方でヒトイボウイルス(HPV)感染にみられる症状は帯下の増加、腟外陰部の掻痒感で、どのような病態のものでも、治療に難渋します。その治療は今後の産婦人科学の大切な課題です。
(2012年6月30日、追記。現在商業検査所で、ヒトイボウイルス(HPV)の検査が可能になりましたので、当院でも研究を再開しました。解明されるべき命題は、
1. 尖圭コンジローマの方の、ヒトイボウイルス(HPV)のハイリスク、ローリスクの混合感染の状態、及び病変部及び子宮腟部のヒトイボウイルス(HPV)の存在の有無、
2. 子宮頚部細胞診で、軽度から高度異形上皮ならびに、上皮内癌推定の症例に於ける、ヒトイボウイルス(HPV)のハイリスクならびにローリスクの混合感染の状態、
3. 尖圭コンジローマが、抗ヒスタミン剤のシメチジンで消失する症例の割合、です。)