pure soul - episode : 3
BE WITH YOU 3

 
 砂を噛むタイヤ。
 耳に障る甲高いスリップ音。
 空回りするエンジン。
 最後に聞いた、金属がひしゃげる音。
 今まで何度も体験したが、それはその中でも最悪だった。
 
 最後に目に焼き付いているのは、そこにはいるはずもない ―― 彼女の顔。
 何故か泣いているアスカの顔だった。
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 彼女は泣いていたのか。
 それは、友人と離れる寂しさからなのか。
 それとも――。
 今となっては分からない。
 彼女の気持ちが分からない。
 三年前、彼女はシンジの事を好きだったのだろうか?
 彼女の態度を見ると、その方面に鈍いシンジでもそんな気もしてくる。
 でも、もしそうだとしても、それはもう過去の事。
 今では、彼女には決まった人がいるという。
 
 では、僕はアスカのことが好きなのか?
 あの時感じた感情は本物なのだろうか?
 
 しかしそれはずいぶんと都合のいい話に思える。
 綾波レイが彼岸の岸へと旅立ってしまったというのに――。
 
 ぽっかりと、中空に浮かぶ白い月。
 淡いもやが掛かっている。
 まるで、そこだけ切り取って、水面に映し出したようだ。
 
 真面目だね、シンジ君。本気でそんなことを考えているのかい?
 
 突然、水面に波が立った様に、その白い月の輪郭が揺れた。
 声の主を見極めようとシンジは集中するが、その姿もぼやけていて様と知れない。
 シンジは恐る恐る聞いてみた。
 
 キミは ―― 誰?
 誰だっていいじゃないか。そんなことは今、キミが抱えている問題に何の関係もないはずさ。
 でも――。
 話を戻そう。例えば、仮に恋人が死んだからといって、キミはそれから一生恋もしないつもりかい?
 そんなことは言ってないよ。ただ今は、そんな気分じゃないんだ。
 それはレイへの罪悪感なのかい?
 ―― そうかも、しれない
 でも、死んでしまった人間は生き返らないよ。それにレイだってそんなことは望んでいないさ。
 ――。
 大体、キミはレイのことをどう思っていたのかい? キミの、レイへの気持ちはなんだったんだい?
 僕の気持ち――? 良く、分からない。―― イイな、って思った時期もあるかもしれない。でも、その時の僕は幼すぎて、まだ恋だとか、愛だとか、理解できていなかったんだと思う。
 でも、好きだった?
 うん。僕は、拙いながらも、好意を寄せてくれる綾波が好きだった。でもその好きは、異性として好きか、と問われると――。
 分からない?
 ――そうかもしれないし、違うかもしれない。それは分からないよ。今、綾波はいないんだもの。
 そうだね。でも、レイはキミの心の中にいる。
 そう。確かにいる。でも、綾波がいなくなって悲しいと思う気持ちと、やっぱり、と思う気持ちがあるんだ。
 それを罪だと思うのかい?
 綾波は僕の所為でそうなったんだ。責任は感じるよ。
 でも、レイは進んでその状況に身を投じたのさ。君が責任を感じるいわれはないし、キミが責任を感じるとレイも悲しむ。
 分かっている。それは頭では理解しているんだ。でも、僕はきっとこの気持ちを、ずっと持ちつづけると思う。
 いなくなった人のことを想いつづけるのはかまわないが、人は前へと進まなければならない。キミはその時、ちゃんと前へ進むことが出来るかい?
 ―― 分からないよ。
 では、こう聞こう。シンジ君。キミはアスカの気持ちを考えたことがあるかい?
 アスカ? アスカは ―― フィアンセがいるんだ。今更僕がどうこうできる問題じゃないんだ。
 どうにかしたいのかい?
 分からないんだ。自分の気持ちが。
 自分の本当の気持ちが分からず、悩んでいるのかい?
 ―― 自分の気持ちって、何なんだだろう。本当に分からないんだ。僕は本当にアスカが好きなのだろうか? 確かに彼女を目の前にすると、胸が痛くなる。息苦しくなる。これは僕が彼女に好意を持っているってことなのか? だとしたら、僕は彼女のどこに惹かれているんだろう? 彼女の容姿なのか? 頭脳なのか? 性格なのか? 分からないんだ。
 
 ―― ヒトを、好きになるのに、理由はないのよ。
 
 不意にシンジは顔を上げた。
 白月が揺れている。
 
 そうさシンジ君。ヒトがヒトを好きになるのなんて、理由なんてない。野に咲く花を、愛でることはあるだろう? 美しい風景に、心惹かれることもあるだろう? だけれども、それには理由なんかないのさ。確かなものは、その時に君が感じた心。それだけなんだ。
 ―― 心?
 そうさ。ヒトには心がある。それは他の存在が、遂には持ち得なかったモノ。良きに付け、悪しきに付け、それはヒトにしか生まれなかったモノなんだ。その心がある為、ヒトは悩み、苦しみ、傷つき、怒り、そして喜び、笑い、愛することが出来る。シンジ君、それはキミ達、ヒトのみに与えられた、大切なモノなんだ。
 僕達だけにあるもの――。
 そう。だからヒトは恋をする。そして苦悩する。しかし、それは自分で解決しなければならない問題なんだ。
 ―― 自分で決める。
 キミはどうしたいのかい?
 
 僕は ――
 
 シンジは沈黙し、そして意を決して顔を上げた。
 
 僕は、はっきりと自分の気持ちを伝えたい。
 
 アスカに ―― かい?
 うん。この気持ちが人を愛するモノならば、僕はアスカに恋をしている。そして、漸く分かったんだ。今まで、アスカには僕の気持ちを、はっきりとは言ったことが無かった。曖昧にごまかしていた。逃げていたんだ、ずっと。はっきりと拒絶される事が怖くて、結果を先延ばしにしていたんだ。アスカと僕とではつりあわない。アスカには似合わない。ずっとそう思ってきた。だから伝えた結果、振られることになるとは思う。でも、はっきりと自分の気持ちを伝えたいんだ。
 そうしたら、今が最後のチャンスさ。彼女が結婚してから、のこのこ現れても迷惑な話だよ。
 ――うん。
 
 目を閉じ、アスカのことを想う。
 
 意志の強そうな、蒼い瞳。
 柔らかそうな、金色の髪。
 着やせする、華奢な身体。
 白く細い、指先。
 
 そして
 
 強引で、わがまま。
 暴力的で、人の意見に耳を貸さない。
 負けることが、何よりも嫌い。
 一番でなければ、気がすまない。
 
 思わず忍び笑いが漏れる、愛すべき彼女の性格。
 
 でも
 
 努力を、怠らない。  
 それを、誇示しない。  
 誰にも頼らない、孤高の精神。  
 強引なのは、繊細シャイな自分の気持ちを隠すため。
 暴力的なのは、彼女なりの上手とは言えないコミュニケーション。  
 そして ―― 限りなく優しさにあふれている。  
 
 全部が、愛しい。
 
 アスカのことを思うと、胸が苦しくなる。
 それは、アスカと別れてから、ずっと心の奥に引っかかっていた、小さな刺。
 もう、すっかり忘れてしまったと思っていた。
 だが、残り火の様に頼りないが、確かにそれはあった。
 心の奥に、美しく光り輝いていた。
 
 
 ありがとう ―― カオル君。
 そして、綾波。
 
 幻想でもいい。
 それでも、僕は今 ―― 確かにココにいるのだから。
 それが、僕にとっての ―― 真実なんだ。
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 目覚めは突然にやって来る。
 それとも、覚醒と言うものは徐々になされるものなのか。
 シンジの感覚はどうであれ、彼は現実に引き戻された。
 
 目に入るのは、白い天井と白い壁。
 大きく切り取られた窓からは、カーテン越しに柔らかな日差しが感じられる。
 ―― ここは?
 シンジは視線を彷徨わせた。
 どうやら、ベッドに寝かされているらしい。
 辺りに人はいなかった。
 部屋は10畳位の広さ。
 そこにベッドが一つと、パイプ椅子が3つ。
 見慣れない部屋だが、ここは病院らしい。
 そして、どうやら自分は、怪我をしていることも分かった。
 右手を動かそうとすると、鈍い痛みが走る。
 見ると、右手はギブスで固められていた。
 シンジは、再び思考を開始する。
 ―― 一体なんだって。
 頭脳が覚醒していない。
 記憶の引出しの鍵を、何処かへ置き忘れてしまったようだ。
 
 現状認識の作業を遮らせる、騒々しい音を立ててドアが開かれた。
 入ってきたのは、若い男性だった。
 年は20前後。シンジよりも年上である。
 灰色のつなぎは、所々油で汚れていた。
 シンジはこの青年の名前を知っている。
 神奈トオル。
 シンジがよく通う、バイクショップに勤めている若者だ。
 
 シンジは自分でもH2をメンテするが、素人が全ての道具を揃えることは難しい。
 ある時、トオルの勤めているバイクショップに、H2のオーバーホールを頼みに行ったことがきっかけで彼と知り合うことになった。
 トオルは人懐っこい性格で、物怖じしない。
 陽気でネアカで楽天家。
 シンジとは対照的な性格だが、何故か気は合った。
「おっ、気がついたか?」
 トオルは笑うと、ベッドの近くに椅子を引っ張って来て、座った。
「全く、お前らしくもない。事故ったって聞いた時にはびっくりしたぜ」
「―― 事故?」
「そうさ。覚えてないのか?」
「―― いや」
 アスファルトの焼ける匂い。
 空回りする車輪の音。
 最後に見た、蒼い ―― 青い空。
 記憶が、蘇って来る。
 
 いつもの道。
 いつものライディング。
 だが、その時に限って、シンジはH2のバランスを崩し、転倒した。
 峠で、急なカーブが多い道だったが、何度となく通っている。
 それほどスピードも出した記憶は無かった。
 ただ、集中力が無かったと言えば、そうかもしれない。
 
 転倒した後の記憶は無い。
 トオルによると、対向車はいなくて助かったものの、反対のガードレールまで飛んで行って、ぶつかったらしい。
 シンジは、気を失って救急車でこの病院まで運ばれた、と事だ。
 トオルも先ほど、事故の知らせを聞いて、駆けつけたらしい。
「幸い、怪我は大した事なくてよかった。ま、頭打ってるみたいだから、検査は必要みたいだけどな。あ、お前、身内がいないだろ? ほら、あのきれーなお姉さんも、事故って入院しているってゆーし。だもんで、あのヒト ―― 冬月さんだっけ? その人に伝えておいたけど、いいよな」
「すまなかった」
 シンジは素直に感謝した。
「あ、それとな――」
 トオルは真顔になった。
「H2、だめになった」
「―― そう、か」
「フロントフォークが曲がってな。部品パーツを手に入れることが出来れば、やってやれないことはないんだが ――。ちょっと修理不可なんだわ」
 トオルは、まるで自分が事故を起こしたような顔になって言った。
「ごめん。迷惑を ―― かけた」
「いいよ。シンジの方が大変だったんだぜ。命あってのものだねさ」
「悪いことしたな、H2あいつに」
「仕方ないさ。カタチあるものは、いつかは壊れる。これことわりナリってね」
 トオルはおどけて見せた。
 シンジは何より、H2の元のオーナーの老人に対して申し訳なく思った。
 大切に乗るといった手前、一年も経たずにこのありさまでは合わす顔が無い。
 それでも、年をとった友人はシンジを許すだろうが。
 
 
「実はな、お前の友達から連絡があったのさ」
 シンジはその日の夜、老人に連絡をとった。
「いつもはそんな道で事故るようなヤツじゃない。きっと何か悩んでいたか、体調が悪かったに違いない。とな。わざわ電話をくれたわい」
「すみません」
「何、いいさ。アレはお前のもんだ。壊そうと何しようとお前の自由だ」
「でも――」
「いいか」
 老人はシンジの言葉を、何時に無く強い口調で遮った。
「お前が、何を迷っているのか知らん。ただ、H2あいつに申し訳なく思うのならば、その迷っていることを克服して見せい。それがH2あいつへの何よりの供養じゃ」
 老人の口調は厳しいが、その優しさにシンジはうなだれた
「ん? 返事はどうした」
「はい。分かりました」
 電話口の向こうで老人が顔をほころばせているのが、シンジには分かった。
 
 
 
 ・頭部裂傷
 ・右手首捻挫
 ・全身への軽度の打撲
 ・擦り傷 ―― 多数
 
 シンジの診断結果。
 頭部も検査の結果、特に異常は無いが、傷が酷かったので何針か縫った。
 その為、頭には鬱陶しい包帯が巻かれている。
 顔や腕、足の所々。擦り傷があって、少し痛む。
 
「しかし、その手じゃ不自由だろ?」
 トオルがシンジのギブスに固められた右腕を見て、にやにやと笑う。
「何が?」
「これだよ、これ」
 トオルはわざとらしく、右手で輪をつくってみせる。
 シンジはしばらくその手が上下するのを見ていたが、突然あることを思いついたらしく、顔を真っ赤にした。
「な、な、なっ!」
「おーおー、純情少年」
「ば、ばっか ―― 痛っ!」
 シンジは右腕を振り上げようとしたが、あいにくとギブスに固められていた。
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
「驚いたわ、シンジ君まで事故を起こすなんて ――」
「心配かけてすみません」
「ううん。あたしの方こそ。シンジ君にいっぱい心配かけちゃって、ごめんね」
 マヤはベッドに身体を横たえている。
 左手はギブスで固定され、顔の半分が包帯で巻かれているのが痛々しい。
 マヤと比べると、シンジの怪我はかすり傷に等しい。
「早く、良くなってくださいね」
「うん、がんばるわ。なんたってあたしの赤ちゃんが待っていることだしね。早く、怪我を治さなきゃ」
「その為には、好き嫌いを言ってはいけませんよ。特にマヤさん、魚が嫌いでしょ。カルシウム取らないと、治りませんよ」
「あうぅぅ」
 マヤが甘えた声を出す。
「おさかな――」
「ダメです。赤ちゃんの為にもしっかり食べてください」
「う、うん。そうよね。あたしがしっかりしなきゃ、ダメだよね」
 マヤはぶつぶつ言いながらも、一大決心をしたようだ。
「でもね、あたしまだ一度しか赤ちゃんとご対面していないのよ。ほら、あの子早く出てきちゃったから、今、保育器の中だし、あたしはあたしで動けないしね。あ、写真とビデオは撮ってもらったのよ」
 マヤはちょっと不満そうだった。
「でも、シンジ君も大変よね。利き腕を怪我しちゃって」
「え!? そ、そんなことないですよ!」
 シンジは一瞬、先ほどのトオルとの会話を思い出した。
「ど、どうしたの、大声出して? ご飯食べる時とか、利き腕が怪我をしていると大変じゃない?」
「あっ、ご、ごはん! ―― そ、そうですよね。ご、ごはんが大変ですよね。あ、あははは――」
 シンジの乾いた笑いが病室に響いた。
「ヘンなシンジ君」
 マヤは怪訝そうな顔をしながらも、笑った。
「でも、アスカにフィアンセがいたなんて。あたし知らなかったわ」
 マヤは怪我をしていない方の手を顎にあて、考え込んだ。
「彼女まだ17歳でしょ。早すぎはしないのかしら?」
「でも、欧米むこうでは日本より進んでいるんじゃないんでしょうか?」
「うーん。そうなのかなぁ。実は、ウソだったりして」  
「でも、なんでアスカがそんなウソをつかなきゃならないんです?  僕に嫌われたいならまだしも――」  
 ――嫌われたい?
 もしかして、そうかもしれない。
 考えてみれば、あまりにもアスカに酷いことをしてきた。
 アスカの気持ちを、全く無視した行いばかり、してきた。
 嫌われて当然、か。
 そうだよな。
 シンジは反省と自虐に沈んだ。
 そんなシンジの姿を見て、マヤはくすっ、と笑う。
「今のアスカは良く分からないけど、それはないんじゃないかなぁ。以前のアスカも、シンジ君をライバル視してはいたけれど、嫌っているようには見えなかったし。付きまとわれてイヤでイヤで仕方がなく言ったのなら分かるけど、シンジ君、彼女にそんなストーカーみたいな真似はしていないでしょ」
「え、いや、その――」
 シンジは雨の中、バイクを飛ばしてアスカを自分の家に招いた日のことを思い出し、口篭もる。
「え? 何? 何なの? 何かあったの?」
 マヤは目を輝かせた。
 そろそろ入院生活にも退屈してくる頃。
 マヤは悪戯好きの子猫みたな視線でシンジを見た。
「な、何もないですよ」
「本当かなぁ。怪しいぞ」
 目を細めて疑いの眼差しを向ける。
「ほ、本当にストーカーみたいなことはしていませんよ。そんなことはしてません。ただ、ちょっと抱きしめただけで ―― あっ!」
 とっさに口を抑えるがもう遅かった。
 見ると、マヤがにやにやしている。
「へー、シンジ君もやるもんだねぇ」
「マ、マヤさん――」
「でもアスカ、その時は抵抗しなかったんでしょ」
「びっくりして、身体が動かなかったのかもしれません」
「あの子の性格じゃ、それはないわね。もし、イヤな男に抱きつかれたら、そいつ再起不能になっているわよ」
「―― たしかに」
 一瞬の沈黙の後、シンジとマヤは目を見合わせて笑った。
「もし、彼女がシンジ君を好きだと仮定して――」
 などとマヤがとんでもないことを言い始める。
「そんなことありませんよ。だって――」
「いいから黙って聞いて。それで他に好きな人がいるって言ったってことは――」
 何か思いついたように、マヤはくすくすと笑い出した。
「アスカ、分かりやすい性格をしているわね」
「な、何がおかしいんです。僕には少しも分かりませんよ」
「ごめんなさい。でも、所詮は予想だからね。あたしからは何も言えないないわ。ここから先は、シンジ君。あなた自身の問題よ」
 その台詞は、最近聞いたような気がする。
「シンジ君、あなたはどうしたいのかな?」
 どうしたいか?
 それは ―― 決まっている。
 いや、正直に言うと、今でも迷っては、いる。
 けれども――。
 シンジは、マヤを正面から見つめる。
「そっか、決めたんだ」
「――はい」
「いい顔してる」
「そうですか?」
「うん。男の子の顔をしてるよ」
 マヤは眩しそうに、シンジを見つめた。
「しっかり、ね」
「はい」
 シンジは頷いた。
 
「行ってきます――」
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 空は繋がっている。
 ドイツ、第三フランクフルト空港に降り立ったシンジは、晴れ渡った空を見上げてそう思った。
 日本を出発する時の空の模様と、同じ気がする。
 それは、自分自身への気休めかもしれない。
 実際、気温はドイツの方がはるかに低く、空港の外には雪がかなり積もっているのが窓の外から見渡せる。
 春の訪れが来たとはいえ、日本が今だ夏の季節から移行できないでいるのと同様に、ドイツもまだ、冬の季節から抜け出せないでいた。
 しかし、僅か3時間の空の旅は、老人の所から第3新東京市への距離よりも近く、インフォメーションに表示されている文字がドイツ語ではないのならば、シンジはここが日本国内の空港だと思うことが出来ただろう。
 遠い異国の地。
 シンジにとっては、初めてのドイツである。
 
 この空港は、比較的第三の衝撃サードインパクトの被害を免れていた。
 第三新東京空港よりも修復が進んでいる。  
 というよりも、第三の衝撃サードインパクトの被害は日本が一番大きい。
 衝撃の中心地。  
 その被害は第3新東京市を中心に、日本全国に広がっていた。  
 しかし、第二の衝撃セカンドインパクトにより南極大陸が消滅したのに比べると、被害は格段に低かった。
 第三の衝撃サードインパクトの影響は、地軸が再び移動したことによる地殻の不安定が引き起こす世界各地での大地震、津波、及び火山活動の活性化、そして天候不良による農作物への打撃、それに伴う、物価の上昇と人民不安から来る内乱、内戦の勃発。
 それでも第二の衝撃セカンドインパクトよりは、まだましであった。
 一つには、第三の衝撃サードインパクトが来ることへの予想と、対処が予め行われていた事。
 南極の氷が融け、海面が上昇した前回の衝撃インパクトと比べ、標高が低い都市の水没、と言う様な災害は発生しなかったこと。などが挙げられる。  
 第二の衝撃セカンドインパクトと比べ、第三の衝撃サードインパクトがもたらしたもの。
 それは――  
 
 全世界の人類が、一つの共通の夢を見た事である。
 そのことについての影響は、今だ分からない。
 ネルフの後を継ぐ、国連の団体が研究していると言われているが、シンジには何も知らされてはいない。
 真実は相変わらず、闇のベールに包まれたままであった。
 
 
 
「碇――シンジ君?」
 到着ゲートから出たとき、シンジは声を掛けられた。
 しかも日本語である。
 シンジは振り向き、声を掛けてきたその男性を観察した。
 日本人ではない。
 シンジは欧米の民族については知識が無かったが、恐らくゲルマン系であろうと思われる彫りの深い顔つきをした男が立っていた。
 身長は180cm位。細身だが、しなやかな筋肉がついていると思われる、身のこなし。
 ブロンドの髪に蒼い瞳。
 上等のスーツを、これ以上なくだらしなく着こなしている
 不精ヒゲを生やし、加持を思い出させる男くさい顔。
 顔のつくりは似ても似つかないが、雰囲気が良く似ている。
 しかし、加持よりも若い。
 27、8歳、というところか。
 人懐っこい顔をしているが、当然、気を許すわけには行かない。
 さすがにエヴァが現存しない現在、暗殺されるという危険性は下がったが、かつてのチルドレンということでトラブルに巻き込まれる可能性もある。
 用心に越したことは無い。
「おいおい。そう睨むなって。怪しいもんじゃないよ」
 ハスキーな声。ますます、加持への類似を思わせる。
「人に名前を尋ねるときは、まず自分から、ですよ」
「おおっと! そうだった、そうだった」
 その男性は、必要以上におどけてみせた。
「僕は、ネルフドイツ支部、諜報部所属、ギド・ブッフバルト。サードチルドレン、碇シンジ君の護護の為、お迎えに上がったというわけさ」
 にやりとして、綺麗にウィンク。
 少々芝居がかった仕種だ。
「ま、もっとも、現在ネルフは解体されて、跡形も無いけどな」
「どうして――」
「ネルフ関係者で君のことを知らない人はいないよ。なんたって、エヴァンゲリオン初号機パイロット。当代きっての最重要人物、いわばVIPだからね」
「そうではなくて、何故今日、僕がドイツに来ることを知っていたんですか?」
 ギドと名乗った男性は、シンジに顔を寄せた。
「実は僕は君の大ファンで、色々とリサーチを掛けていたのさ。で、君の情報が知りたくて、旧ネルフ日本支部の知り合いに、色々とコンタクトをとってたんだ。そうしたら、近々君がドイツへ来るっていうじゃないか。これは、直々に迎えに上がらなくては、と思った次第さ」
 シンジは、思いっきり不審な顔をした。
 ギドは肩をすくめた。
「そんな顔するなよ。冗談だ、半分は。でも、気になっていたのは事実さ。アスカが良く君の話をするもんでね――」
「アスカを ―― 知っているんですか?」
 思いがけなくアスカの名前を聞き、ギドの台詞を遮った。
「知っているも何も、僕は彼女のフィアンセでね。彼女が18になったら結婚する約束をしているんだ」
 失念していたわけではない。
 当然、アスカのフィアンセのことも考えてはいたはずだ。
 しかし、やはり無意識的に思考の外に追いやっていたのかもしれない。
 実際、アスカには逢うが、その相手とどうこうしようとは露ほども考えてはいなかった。
 ドイツに着いた途端、まさかアスカのフィアンセと遭遇することになろうとは、当然シンジのシナリオにはなかった。
「どうした? シンジ君?」
 ギドは陽気な顔で語りかけてきた。
「いえ。何でもありません」
 シンジは気を取り直し、そのままギドの横を通り過ぎる。
「あっ。シンジ君――」
 シンジは足早に空港のロビーを横切った。
「シンジ君、何処へ行くんだい?」
 ギドが慌てて付いて来る。
「僕が何処にいこうと勝手でしょ。あなたは何でついてくるんですか?」
「僕は君のボディガード兼運転手さ。何処へでも付いていくよ。それに僕の記憶によると、君は確かドイツが初めてだったよね? だったら、素直に僕の言うことを聞いたほうがいいよ。なにせ、あの衝撃インパクト前と比べ、大分物騒になっているからね」
「ボディガード――? ネルフは解体されてエヴァも存在しない。僕のボディガードの必要も無いはずです。それに、そんなこと聞いてません」
「そりゃそうさ、だって僕が勝手にしているんだもの。愛する未来の妻の大切な友人だ。万が一ドイツで事故にでもあったら、アスカに申し訳が立たない」
 シンジは立ち止まり、今度は本気で睨んだ。
 対してギドはシンジの凄みにも、あまり気にしないようであった。
 ふと、シンジは自分がこのような態度をとるのは不遜ではないか。と思った。
 相手は正式なアスカのフィアンセである。
 それに対し、自分は只の友人。
 いや、彼の恋敵ライバルになる、と宣言する為にここに来たのだった。
 それが受け入れられるものではないと初めから分かってはいるが、いわば横恋慕。
 世間的にもシンジの味方するものはいないであろう。
「勝手にしてください」
 シンジはギドを置いて、インフォメーションカウンタに向かって進んだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。本当に物騒なんだってば」
「大丈夫です。あなたの親切を受けるいわれはありません」
「そんなしゃちほこばるなよ、少年。時には恋敵ライバルを利用する、位の気構えじゃないと、あの子は手におえないぜ」
 予想もしなかった台詞に、シンジは足を止めた。
 ゆっくりと振り返る。
 そこには相変わらずニヤニヤとした笑いを顔に貼り付けたギドがいた。
 シンジはゆっくりと息を吸い込んだ。
「――何故、恋敵ライバルなんですか?」
「おや? 違うのかい? 僕はてっきりそうだと思ったんだけどね」
 良く見ると、全く悪気のある顔には見えない。
 それは余裕の所為かどうかは分からない。
 弱冠17歳のシンジにとって、顔色を読む、という作業は難しいものであった。
「でも、あなたが安全だって保障は何処にありませんよ」
「そりゃそうだ」
 ギドは肩をすくめた。
「こればっかりは信じてもらうしかないなぁ」
 またもや芝居がかった仕種で、う〜んと唸る。
「でも、君はアスカが何処にいるのか、知っているのかい?」
「アスカの住んでいる住所は知っています」
「でも彼女は今はそこにはいないよ。なんならそこまで一緒に行って確かめてもいい」
「では、そこで彼女が帰ってくるまで待ちます」
「まあ、待ってくれ」
 ギドは今までで一番真剣な顔になり、シンジの正面に立った。
「僕の態度が悪かったのならば謝る。だが、これだけは信じてくれ。僕は君に危害を加える考えは無い。ただ、君とアスカを逢わせたいと思っただけだ。ネルフもチルドレンも関係ない。僕個人がそう思ったんだ」
 ギドの蒼い瞳。
 シンジはそれをじっと見つめた。
 ――エヴァは無い。
 殺されることも、狙われる理由も無い。
 それに――。
 この人の言うことは何故か信じられる。
 アスカの――フィアンセ。
 顔がゆがむ。
 奥歯をかみ締める
 そのフィアンセが、何故自分に協力するのかは分からなかったが――。
 シンジは俯いていた顔を上げ、ギドを見つめた。
 この人を信じてみよう、と思った。
 甘いかもしれない。
 だが、シンジはどうしてもギドが悪人とは思えなかった。
 アスカのフィアンセ、と言うことがなけば、シンジはこの人物に好印象を持ったに違いない。
 シンジは、迷った挙句、自分の感じた感情を信じることにした。
「分かりました。あなたを信用します」
 ギドの表情が、漸く緩んだ。
「ありがとう。シンジ君」
 大げさにシンジの両手を取って喜ぶ。
「では早速出発だ。行こう」
 ギドは翻り、颯爽と歩き出す。
 シンジも覚悟を決め、後に続いた。
「そうだっ」
 ギドは急に立ち止まって振り向き、シンジに向かって仰々しく礼をする。
「ようこそっ、我がドイツへ」
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 窓の外に見える景色は、先ほどから変化は無い。
 雪に埋もれたフリーウエイ。
 除雪はされているが、融けずに残った雪が路肩にうずたかく積まれている。
 BMWの助手席のシートに体を埋めたシンジは、カーラジオから流れる音楽を聞くとはなしに聞いていた。
 右車線、左ハンドルに違和感が付きまとう。
「ドイツにも漸く春がやって来るそうだよ。シンジ君」
 ドライバーズシートからギドは言った。
「僕が小さい頃、セカンドインパクトが起こって、ドイツはそれからずっと雪の中さ。あまりにも冬が長かったから、春の日差しが暖かいものだと言うことを長いこと忘れていたよ」
 濃いサングラスを掛けたギドの表情は判らないが、口調は穏やかだ。
 ギドが一方的に話し掛け、シンジが曖昧に相槌を打つ。
 そのような状況がしばらく続いた。
 シンジはギドの案内に従うと決めたものの、どう接したら良いか決めかねていた。
「アスカのことは、聞かないのかい?」
 フリーウエイに乗り一時間程経った頃、ギドが話題を向けた。
「アスカがよく言ってたよ。日本はドイツと反対で、冬が無いってね。アスカは寒いのが大嫌いだったから、日本に行ったのはちょうど良かったのかもな」
「そうでしょうか?」
 シンジは反射的に答えた。
「日本に来て、エヴァのパイロットになり、使徒と戦って――時には、死ぬ思いまでして。それで、最後にはとても酷い目に遭い ―― それでもアスカは良かったのでしょうか?」
「アスカは後悔していないって言っているよ」
 ギドの穏やかな口調は変わらない。
「日本に行ったことを、ね」
「そう――ですか」
 シンジはそれきり沈黙した。
 
 フリーウエイを降りて、一般道を更に一時間ほど走った。
 しばらくすると道幅も狭くなり、上り坂になる。
 先ほどまでは人家の存在を確認できたが、今は林の中を移動している。
 だんだんと人里離れたところへ向かっている気がした。
 シンジは少し後悔したが、ここまで来たら腹をくくるしかない。
 程なくして車は道をそれた。
 少し奥まったそこは、森に囲まれたかなり広い駐車場だった。
「さあ着いたぞ。シンジ君」
 イグニッションキーを抜き、ギドはBMWから降りた。
「ここは――何処ですか?」
 ギドは除雪された雪道を、無言で進む。
 シンジは仕方が無く、ギドの後に続いた。
 しばらく圧雪された小径を歩く。
 と、突然、眼前が開けた。
 目の前には広大な土地が広がっている。
 そしてそこには、その広地を埋め尽くすかのように、人型よりも小さいオブジェが整然と整列していた。
「―― 十字架?」
 シンジは息を呑んだ。
 
 見渡す限り、真白い絨毯が広がっていた。
 そこに歩行の為の簡単な除雪が、縦横に施されている。
 そしてその雪原には数知れぬ十字架が埋まっていた。
「―― 墓地?」
「そう。ここには第三の衝撃サードインパクトそしてその前の第二の衝撃セカンドインパクトで亡くなった人々が眠っている。そして――アスカの母親もだ」
「――アスカの?」
「そうさ。今日は奇しくも母親の命日。彼女はここに来ている」
 シンジは改めて雪原を見渡した。
 良く見ると、やはり日本と同様に開発の手が送れているのか、荒廃している様子が伺えた。
 シンジはアスカを探した。
 しかしこの広さでは、どこにいるのか皆目検討がつかない
「こっちだ。シンジ君」
 ギドは翻り、先へと進んだ。
 足が速い。
 シンジは慣れない雪道の所為で、付いて行くだけで精一杯だった。
 途中、雪が半分融けかかった悪路に悩まされながらも、必死で後を追う。
 どれだけ、歩いただろうか。
 ギドはシンジを振り返った。
「さあ。ここだ」
 呼吸が荒い。
 吐く息が白い。
 シンジはギドの指先に、一つの人影を認めた。
 黒を纏った衣装は、白いベールにぽつんと浮かんだ黒曜石のようだった。
 ――。
 自分の鼓動が聞こえた。
 意思と反して、心臓の活動が活発になる。
 シンジは一歩を踏み出した。
 先ほどまでの歩みと違い、一歩一歩ゆっくりと踏みしめる。
 雪が融けかかり、ぬかるんだ足元がおぼつかない。
 シンジは慎重に、それでも確実に歩みを進めた。
 喪服の女性がシンジの足音に気がつき、振り返る。
 背の高さはシンジよりも低いが平均的な女性よりは高く見える。
 喪服の上からでも判る、均整バランスの取れた身体つきプロポーション
 鮮やかな金色の髪を、肩のところでばっさりと切りそろえているが、意志の強い蒼い瞳の色は変わっていない。
 ―― アスカ、だ。
 
「――シンジ?」
 瞳に驚きの色が浮かぶ。
 息を呑む音が、聞こえてくるようだった。
「ど、どうしてここへ?」
「もちろん、僕が案内したのさ。もっとも、空港までは彼一人で来たんだけどね」
 何時の間にかギドがシンジの後ろに立ち、そ知らぬ顔で答えた。
 アスカはギドに向かって、露骨にイヤな顔をした。
「あんたには聞ていないわ、ギド」
「アスカ――」
 張り詰めた声に何かを感じのか、アスカの表情が曇る。
「な、何よ。シンジ。何しに来たのよ」
 気丈に振舞っているが、声が震えている。
 アスカの緊張が手にとるように分かった。
 何の連絡も無く、突然日本から、しかもシンジが来るとは、アスカの想像の範疇外の出来事に違いない。
「分かっている。分かっているんだ。アスカが僕と話したくないことも、僕がここに来ることで、アスカにどれだけ迷惑をかけていることなのかも。僕もドイツに来て、ちょっと後悔しているんだ。アスカの幸せを邪魔しにきたようで」
 シンジはアスカから目を逸らした。
「でも ―― 僕はアスカに伝えたいことがあって来たんだ。そのことで、アスカに迷惑をかけることになるかもしれないけれど――」
 シンジは息を吸い込んだ。
「どうしても、伝えておかなければならない事があるんだ」
 喉がからからに渇く。
 耳鳴りがする。
 鼓動が早くなる。
「この前、アスカと逢って気づいたんだ。いや、忘れていたものを、思い出したんだ。
 三年前の気持ちを――」
 一言一言、かみ締めるように言葉を選ぶ。
 シンジはアスカの蒼い瞳を見つめた。
 
 
 
 
 
「アスカ ―― 好きだ」
 
 
 
 
 
 遠くに見える春の遅いドイツの山々は、冠雪を残している。
 上空に浮かぶ雲は、強い風に吹かれ薄く千切れながら飛んでいた。
 かすかに聞こえる小鳥の小さな鳴き声は穏やかだった。
 
「アスカにフィアンセがいることは知っている。迷惑が掛かることも分かっている。でも、言わなければきっと一生後悔する。そう思ってここまで来た」
 シンジは深く深く、息を吐き出した。
「返事は分かっている。だから、何も言わなくていい」
 両手は震え、痺れを感じたが、握り締めたまま。
 シンジは肩の力を落とした。
「ごめん、僕の自己満足に付き合わせちゃって」
 それだけ言うと、シンジは今来た道を戻る為、アスカに背を向けた。
「――なさいよ」
 微かに耳に届く、小さな声。。
「――待ちなさいよ」
 鈴が鳴るような声が、震えている。
「待ちなさいって言っているでしょ!」
 シンジは立ち止まると、アスカの方へ振り返った。
 俯きかげんのアスカは、肩幅に足を開き、拳を身体の両脇へ下ろして握り締めている。
「あんたは、なんでいつもそうなのよ!」
 握られた両方のこぶしは震えていた。
「あんた――あたし事好きなの? 本当に好きなの? そんなんじゃ全っ然、分からないわよっ。
 自分の気持ちを相手に伝えて、それでお終い? 何故、相手に理解を求めようとしないの? そんなの逃げているだけじゃない。
 あんたは好きな相手にフィアンセがいる位であきらめられるようなものなのね? あんたの気持ちはそんないいかげんなものだったの?
 所詮、あんたの「好き」って言う気持ちはその程度なのよ。 本気になんてなれないのよっ。
 自分ではわざわざドイツまで来て自己満足でしょうけれど、そんなの自分勝手のナルシストもいいところよ。そんなのに付き合わされた、あたしはいい迷惑だわっ!」
「なっ?!」
「あんたは、自分のことしか考えていない。いっつも自分だけしか考えていない。相手も自分と同じ人間だってこと、考えてことも無いのよ!」
「――そ、そんな事」
「あんたあたしの気持ち、一度でも考えたことあるの?」
「あ、あるさっ!」
 シンジは反射的に怒鳴った。
「だったら!」
 アスカは顔を上げ、シンジを睨んだ。
 
 
 
「ちょっと待った!」
 突然、ギドの声がかかった。
「その先は、この僕の相手をしてからにしてもらおうか」
「ギド?」
 ギドはシンジに向き直り、それまでの表情とは一変して厳しい顔つきになった。
「シンジ君。人のフィアンセの前で、よくも、惚れたの晴れたの言ってくれたね。この落とし前はつけてもらうよっ」
「ギド、あんた何を――」
「アスカ。君は黙っててもらおう! これは男と男の話だっ!
 さあ、シンジ君! 腕の一本や二本の覚悟は出来ているね!?」
 ギドはポケットに入れていた手を出し、両手を合わせて骨をならせた。
「怖気づいたかい? 腕に自信が無いか? そうだろう。戦えば、絶対に負ける戦いだ。
 僕の専門はボディガードさ。それに対して、ただのパイロットの君とは、腕の差は天と地程の差がある。やれば君は絶対に負ける!
 それでも、アスカはそこまでの価値がある女かい?」
 ――!
 シンジの眉の筋肉が一瞬硬直する。
 どろどろとしたものが、心の中にこみ上げてきた。
 ギドの言い分も最もだが、それにしてもここまで言われて引き下がるほどシンジはお人よしではなくなっていた。
 怒りが湧いてくる。
 それはアスカに言われた所為もあるかもしれない。
 アスカの言質に反論の余地は無い。
 ここへ来たのは自分だけの都合である。
 そして訳の分からない言葉を聞かされたアスカはいい迷惑だろう。
 全身に、やり場の無い怒りが湧いてくる。
 それは自分自身に対しての怒りと、もはや区別はつかなかった。
 シンジは右手のギブスを外した。
「そうこなくっちゃ」
 ギドが、にやっと笑った。
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんでシンジとギドがやりあわなきゃならないの?」
「アスカッ、だまっててくれ! これは僕とシンジ君との問題だ」
「でもっ!」
「じゃ、いくよっ!」
 アスカの制止を振り切り、ギドはぬかるんだ足元をものともしない軽い足取りで一気にシンジに近づいた。
 ―― 実力の差はかなりある。
 シンジは一度もギドの戦いを見ていないが、直感でそう理解した。
 しかも利き腕である右腕は回復していない。
 セオリーどおり防御に徹し、隙を見て反撃するしか残された道は無かった。
 シンジはギドの接近に合わせ、間合いを確保する為後退したが、それよりも早くギドが攻撃可能範囲レンジに入って来る。
 刹那、右から勢いのある蹴りが飛んできた。
 シンジはとっさに踏み込んで、威力の少ない軸の内側で受ける。
 それでもハンデのある右腕には堪えた。
「―― っつ」
 シンジはパイロットだが、基本的な戦いの訓練も受けていた。
 しかしそれは、実践では全く役に立たないことを一瞬にして悟らざるをえなかった。
 しかも、ブランクがかなりある。
 間髪をいれず今度は左からの蹴りが来て、シンジのわき腹に入った。
「―― っぐ」
 痛みを堪えていると、眼前に拳が飛んで来た。
 シンジはとっさにガードを上げる。
 頭部への打撃は辛うじて防いだが、続けざまの攻撃に付け入る隙は無く、シンジはなす術も無く、ただギドの攻撃を受けるしかなかった。
 拳、蹴り、手刀、肘と容赦なくシンジに打ち込まれる。
 その度にシンジの全身に激痛が駆け巡る。
 H2バイクでの事故の傷が響く。
 頭部へのガードを下げずにいるのがやっとだ。
「どうした? それでも、エヴァンゲリオンのエースパイロットだった男か!?」
「も、もうやめて!」
 アスカがギドを押しのけ、シンジの前に立ちはだかった。
「何があったのか分からないけど、もうやめて! ギドはトレーニングをつんでいるけれど、シンジはパイロットとしてしか訓練を受けていないのよ! しかもシンジは怪我をしているじゃない。それをこんな一方的に――」
「――アスカ」
 口の中に錆びた鉄の味が広がる。
 シンジは無造作にそれを吐き出した。
「悪いけど――どいてくれ」
「シンジ――」
「これは僕の問題なんだ」
 顔面に数発、入ったようだ。
 ずきずきと痛みが広がる。
「今まで、逃げていた僕の問題なんだ。だから――」
「そうだシンジ君。まだ、始まったばかりだ! ここでギブアップじゃ、僕の気も済まない! さあ、掛かって来るんだ!」
 実力の差は如何ともしがたい。
 何かの手段を講じなければ、このままでは敗北は決定的だ。
 シンジは不安の色を瞳に湛えたアスカを横へ押しやりながら、しかし何も思い浮かばなかった。
 アスカがどう思っているか分からないが、男二人は、これは一人の女性を賭けた戦いだと考えている。
 時代錯誤も甚だしいが、少なくともシンジはそう感じていた。
 これも自己満足なのかもしれない。
 しかし――。
 シンジの心に、怒りが湧いて来る。
 不甲斐無い自分に。
 ただ一人の女性も守れない無力な自分に。
 今まで僕は何をやってきたのか。
 あの苦しい戦いから何を学んだと言うんだ。
 あの決断は何の為だったのか。
 みんなの犠牲は何の意味があったんだ。
 3年前から何も変わっていない。
 僕は何も変わっていない。
 アスカの言うとおりだった。
 自分では変わったつもりだった。
 前よりは「まし」になっているつもりだった。
 でもそれは違った。
 現実はシンジを打ちのめした。
 
 しかし、ここで終わっては今までやってきたことの意味が、本当になくなってしまう。
 ここで倒れることは、絶対出来ない。
 例え敗北が決定的でも、あきらめることはできない。
 シンジは傷だらけで雪解け水でどろどろになった身体に鞭をうち、起き上がる。
 鬱血で半分ふさがった目を見開いて、ギドを見つめた。
 防御に徹していては、突破できない。
 なんとしても懐に入り込むんだ。
 そうすれば――。
 シンジは意を決してよろめく足元を律し、ギドに向かって踏み出した。
「よし!」
 ギドは叫ぶと、シンジに向かった。
 再び、容赦の無い攻撃が加えられる。
 シンジは何とか反撃の糸口を掴もうとするが、相手はさすがにプロである。
 一部の隙も無かった。
 ギドの拳が、ガードの開いたシンジ胸にまともにヒットし、後方に大きく吹っ飛んだ。
「―― ぐはっ」
 雪解けの泥水の中に倒れこむ。
 シンジは胸を押えて跪いた。
「どうしたっ? もう終わりかい?」
 ―― ぎりっ。
 シンジはギドを睨みつけ、奥歯をかみ締めた。
 もはやまともな思考は停止している。
 シンジを動かすものは無意識な衝動。
 震える膝を押えて立ち上がり、ゆっくりと戦いの相手に向かい、歩き出す。
 シンジは痛む右の拳を、力の限り握り締めた。
「うっ――」
 胸のうちの咆哮が、ほとばし る。

「う、うおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!」
 シンジは一気に加速した。
 ギドは一瞬怯んだように見えたが、それでもすばやく体勢を立て直した。
 続けざま、ギドのストレートがシンジを捕らえる。
 が、シンジはそれを額で受け、そのまま全体重を載せ、拳を放った。
 勢いを殺されたが、拳は弧を描いてギドに吸い込まれて行く。
 次の瞬間、シンジの拳はギドの顔面に決まった。
 
 
 
 シンジはそのまま、ギドに倒れかかった。
「シンジ!」
 アスカがシンジに駆け寄った。
「シンジ、シンジ! ねえ大丈夫。シンジ! 返事をして、ねえ返事をしてよ!」
「――アスカ」
 ギドがアスカに手を差し伸べる。
 が、アスカはその手を払いのけた。
「ギド! 一体これはどういうこと! ちゃんと説明して! なんでシンジにこんな酷いことするのよ!」
「僕がアスカのフィアンセだからさ」
「な?!」
 アスカは絶句した。
「な、何言っているの? ギド!? た、確かにあなたは大切な友達だわ。だけど、フィアンセだなんて――」
 アスカに抱かれているシンジの右手が、微かに動いた。
「アスカ。君はいつも、僕に話してくれたよね。日本にいるボーイフレンドのこと。君がその子の話をする時、とても楽しそうだった。例えそれがその子に対する非難でも、その言葉には愛情がこもっていた。僕は、顔も知らないその男の子に、ずいぶんと嫉妬したものさ。
 そして――アスカ、僕に話したよね。
 その子にフィアンセがいるって、言ってしまったって。
 でも、君はそのことを話してくれた時、ずいぶんと悲しい顔をしていた。笑っていても、君は泣いていた。君は、彼の心が自分に無いことを悟って絶望したんだ。
 僕はアスカを泣かせたその男の子に、非常に興味を持ったわけさ。八方手を尽くしてシンジ君の情報を仕入れようとした。
 そして驚いた。
 僕の日本の友人が大変なことになっていたんだ。彼女は、僕がネルフ日本支部にいた時に知り合ったのさ。彼女とは色々と気が合ってね、それ以来仲良くさせてもらっている。
 シンジ君。
 その人は君のことを、本当に心配していた。そしてアスカのことも、とっても心配していた。
 僕は、その人に頼まれたわけさ。『二人をよろしく』ってネ」
 ギドは二人に向かって、綺麗にウィンクを決めた。
「でも、僕は頼まれなくてもきっとそうしたよ。だって、アスカは僕の大事な妹だもの。たとえ血は繋がっていなくても、大切な人には違いないのさ。僕だって、アスカが泣いているところは見たくない」
 アスカと同じ蒼いギドの瞳がシンジを見つめる。
「空港で、僕の眼鏡にかなわなかったら、追い返してやろうと思ったんだが――」
 ギドは苦笑する。
「ま、そういうわけだシンジ君。騙して悪かったね。
 痛かったかい? でもこれは僕なりの答えさ。色々と話を聞いてどうしてもそうせざるを得なかった。
 アスカの話だけを聞くと、君はどうしようもないヤツに聞こえたんだ。
 おっと。誤解の無いように言っておくと、彼女の言葉には親愛の情がこもっていたけどね。
 何にせよ、彼女と付き合う男性には、いつも僕が直々に試させてもらっている。大抵のヤツは、ちょっと脅かしただけで、とっとと尻尾を巻いて退散して行った。
 ここまで僕を本気にさせたのは君が初めてだよ。
 何処まで君が本気だったのか見たかった。中途半端なヤツにアスカを任せるわけには行かないからね」
「ちょ、ちょっと待って、ギド。ということは、今まであたしに近づこうとしていた人を追い払っていたと言う訳なの?」
「そのとおりさ、アスカ。なんたって君と僕は幼馴染。いわば本当の妹みたいなものさ。その大事な妹に変な虫がつかないようにするのは、兄としての僕の勤めじゃないか」
 アスカは、頭を抱えた。
「どうりで仲良くなった男の子達が、急によそよそしくなったと思ったら――。ギド! あんたの仕業だったのね? うすうすは感じていたけれど、まさか本当にそんなことしてるなんて――」
「アスカ。日本のことわざにはこういうものがある。『終わりよければ全て良し』ってね」
「なにがすべて良し、よ。全然よくないわ!」
「いいじゃないか。これで彼の心も分かったことだしね」
 ギドは笑いながら立ち上がった。
「さて、お邪魔虫は消えるとしよう」
 ギドは悪路をものともせず、颯爽と歩く。
 肩で風を切って歩く姿を見つめ、シンジはギドの背中が、何故か寂しげに見えた。
 やがて、二人の視界から、ギドは消えた。
「シンジ ―― ごめん、ごめんね。全くギドのやつったら、本当になんてこと――」
 アスカは下唇を噛み、シンジの顔を恐る恐る撫でた。
「酷い。とっても痛そう」
「でも、あの人は僕よりも痛いと思う――」
 シンジは、きっと腫れているであろう左の目を開いた。
「あの人は僕を試したのさ。僕がアスカを任せるに足る男かどうか。それにはどうやら合格したらしい」
 シンジは苦笑した。
 が、すぐに痛みで顔をしかめた。
 
「アスカ。さっき僕が言ったことは、全て本当の気持ちなんだ。漸く自分の気持ちに気がついたんだ。こんなになるまで気がつかないなんて、鈍いのを通り越して、僕は本当に――」
「――シンジ」
「アスカ ―― さっきは、すまない。僕は心のどこかでアスカに許してもらえる、という甘い期待があったと思う。
 中途半端だった。本当にアスカのことを考えた行動じゃなかった。
 振られるのならば、キッパリと引導を渡してもらう方がいい。
 最後になって、僕は逃げたんだ」
 シンジは、アスカの蒼い瞳を、じっと見つめた。
 
 
 
「好きだ――」
 
 
 
「この言葉に、偽りは無い」
 シンジはアスカの手を握り締める。
「最後に ―― アスカの気持ちを知りたい」
 
 冬の終わりの風は冷たいが、微かに春の匂いを運んでくる。
 その芳しい芳香に、眠っていたものたちが目を覚ます。
 
 
 
「―― 好きよ」
 
 
 
 震える声に、込められた想い。
 少女の瞳は淡い水の様に揺れている。
「ずっと前から ―― あなたのことを好きだった」
 握られた手から感じるのは、季節が変わる予感。
 若い生命の息吹は冬の中にあっても死なず、春の到来をじっと待ちつづけ、やがて重い雪を押しのけて太陽の下へと現れる。
「フィアンセがいるって嘘をついたのは悪かったわ。でもあたしはシンジのことが信じられなかったの。三年前、体は重ねたけれど、シンジの心の中に、あたしはいなかったから。だから――」
 シンジの指が、アスカの台詞を遮った。
「ありがとう――アスカ」
 そのままアスカの頬を撫でる。
 その温もりに愛しさがこもる。
 二人の距離は、戸惑いながらもやがて近づく。
 そして ―― 重ねた唇に宿る想い。
 小鳥がついばむような淡い抱擁。
 それは ―― 漸く結ばれた、遠い約束。
 
 
 
 
 
 
 
「い、いたたた!」
「あ、ご、ごめんっ」
「あ、あはは――。口の中、切れているから」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
「魂は ―― 何処へ行くんだろう」
 シンジはアスカに抱かれながら、天空を仰いだ。
 白い雪の冷たさが、心地良い。
 そして、空は青く、何処までも続いていた。
「綾波、カヲル君、みんな。 そして、僕たちの子供 ――」
 ヒトは、その問に答える術を持たない。
 自分達の成してきた事に、意味を与えることが出来ないまま。
 
 
 
 それでも人は生きていかなければならない。
 
 
 
 神の生みたまいし混沌の過去から、永遠と続く未来に繋がる鎖を繋ぐため。
 荒ぶる魂の海からすくい上げ、絶望の現世へと召還する。
 だからヒトは、一人では生きてゆくことは出来ない。
 
「アスカ――」
 
 少年は愛しい人の名前を呼んだ。
 
「僕の、そばにいてくれ」
 
 素肌に、温もりを感じる。
 それはヒトであることのあかし。
 
「これから、ずっと――」
 
 少女の瞳は、純粋な水から創造された真珠で溢れていた。
 少年は地上に残った、唯一の希望を手にする。
 
「はい――」
 
 少女は、その背中の羽を羽ばたかせ、力強くうなずいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 


あなたに逢えたこと
信じあえてるもの
その一つ一つに心震えて
さえぎるもののない あなたへ続く道の上で
今愛を束ねて 届けたいと願う


あなたを愛する喜びと
苦しみを包み込むような
生命のきらめき想うとき

誰も一人では生きられぬ弱さが愛しくて

その手を繋いだ




『BE WITH YOU』
word by takuro


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

fin.

 
あとがき


『BE WITH YOU』 最後のお話をお届けします。
 いかがでしたでしょうか?
 あまりあとがきでお話するのも、雰囲気がぶち壊れるので短めにしたいのですが、今回は長いです。
 
 まず、あやまっちゃいます。
 ごめんなさい!
 
 この『pure soul』シリーズは『Luna Blu』壱万ヒット記念として企画されたものです。当初の予定では、最初の『冷たい花』完成後、一ヶ月以内に全てのお話を掲載する予定でした。
 それがもうすぐ一年が経とうとしています。
 これは全て作者が自分の力量を見誤った所為であります。
 
 本作『BE…』は当初のプロットではこんなに長くなるお話ではありませんでした。
 しかもオリキャラが出てくるなんてこともありませんでした。
 原因は『pure soul』第弐話『光の射す方へ』を脱稿後、『BE…』の詳細プロットを立てていく過程で自分なりに色々考えた結果、以前のプロットではどうしても納得できなくなってしまったのです。
 
『BE…』はアスカとシンジが結ばれるお話です。
 あの最悪の状態(EOE)の後、どうしたらこの二人は結ばれるのでしょうか?
 アスカがシンジと再会したらそれで結ばれるのでしょうか?
 僕はどうしてもそこがひっかっかてしまいました。
 そこで僕は以前のプロットを一度捨てて、過去の設定からオリキャラまで練り直した舞台を創り、二人を放り出しました。
 途中辛い表現が出てきたのもそうせざるを得なかったのです。
『BE…』を書くにあたり何度も再考しましたが、如何せん作者の力量が無いため、二人を十分に表現できていません。自分の才能の無さが歯がゆいです。
 でも作者が成長するまで待っていたら、完成するまでとてつもない時間が掛かってしいます。何よりそんなことをしたら完成すらおぼつかなくなってしまいます。
 しかし、今の時点での自分のせいいっぱいを出したつもりです。
 数ヵ月後、再読した時に苦笑するかも知れませんが……。
 
 上手く書けているかどうか、分かりません。
 それは読んだ一人一人の方が、その情熱を感じて頂けたらいいな、と思います。
 
 だらだらと言い訳をして申し訳ありません。
 もう少し作者の戯言にお付き合いくださいませ。
 ここから先は雑談です。
 
『pure soul』は、僕なりの『アフターEOE』の世界を書いたものです。
 そして具体的にはそれぞれのお話でお話の主になる女性を決め、それにしたがって進めると言う方法を採りました。
 
『冷たい花』――ヒカリ
『光りの射す方へ』――レイ
『BE WITH YOU』――アスカ
 
 各話のタイトルは、もうご存知とは思いますが、既存の曲のタイトルから採らせて頂きました。
 
『冷たい花』―― the brilliant green
『光りの射す方へ』―― Mr.Children
『BE WITH YOU』―― GLAY
 
 もし聞いたことが無く興味がある方は、一度聴いてみてください。
 イメージどおりになっていると嬉しいのですが……
 
 
 さて長々とお話をしてきましたが、これで最後です。
 
 実は『pure soul』には、続編の構想があります。
 シンジがもう少し成長したお話。
『BE WITH YOU』とはテーマも雰囲気も全然違うものになる予定です。
 ただ、作者は遅筆であり、しかも他にも(無謀にも)連載を抱えているため、今すぐに、と言うわけではありません。早くても数ヶ月先になってしまいます。
 (最近自分の書くスピードと言うものが分かってきまして、あまりムリなスケジュールにしないように心がけています。(汗))
 このように告知しておけば、遅筆でさぼり癖がある作者もちょっとはがんばるゾ、と言うわけで。(笑)
 
 
 それでは最後に――。
 このお話を気に入っていただけたら、とても嬉しいです。
 そして、辛抱強く待っていただけたなら、また次のお話でお逢いましょう。
 
 


2001/2/8
なお
 

△INDEX