KISSの温度「」Edition
2nd


 今日は、久しぶりにヒカリの家に泊まりに来ている。
 明日はバレンタイン。
 ヒカリが鈴原のヤツに手作りチョコをあげるんだって。
 ふ〜ん、感心ねえ。などと思っていたら。
「アスカ、碇君にあげるんでしょ? だったら一緒に作ろうよ」
 とのお誘いがあり、断る隙も無く、何故か一緒に作ることになっていた。
「あたしはヒカリに付き合って、作っているんだからね」
 何度も念を押したが、ヒカリは話半分にしか聞いてくれない。
「でも、アスカ。チョコ貰ったら、碇君きっと喜ぶわよ」
 ふ、ふん。
 そ、そりゃ、このアスカ様があげるんだもん、どんなオトコでも涙を出して喜ぶに決まっているわよ。
 でも――
 喜んでくれるかな?
 ――シンジ。
 そ、そうね。
 せっかく作ったチョコがもったいないもの。
 仕方が無いわ。
 シンジにあげよう。
 でも、義理だからね、義理。
 いつも、ご飯とお弁当を作ってくれるし。
 単なる、お礼よっ。
 
 と、心の中で言い訳をしながら、ヒカリの指導の元、無事、バレンタイン用のチョコレートを作り終えた。
 初めての手作りにしては、なかなか上手くいったのではないかと思う。
 あとはラップで綺麗に包んで――
 よし、と。
 
 ふんふん。
 上出来。上出来。
 と、ご機嫌で、お風呂から上がってきたら、ヒカリがなにやら単語帳みたいなものに、一生懸命何かを書いている。
 ひょい、と後ろから覗いて見てみると――『お弁当券』?
「ヒカリ――?」
「あ、えへへ。明日、鈴原にチョコをあげるときに一緒に渡そうと思って」
「渡すの? 何、それ?」
「バレンタインデーには、チョコレートの他にプレゼントを付けるのが最近の傾向なのよ。プレゼントによって、その人への愛情の深さを示すの。
 手編みのマフラーにでもしようかとも思ったんだけれど、まだあたし達付き合っていないし、いきなりそんな重いもの、鈴原も受け取りにくいと思うんだ。
 で、思い出したの。
 昔、あたしが子供の頃、あたし良くお父さんに、こういうものをプレゼントしていたの。
 その時は『お弁当券』じゃなくて、『肩たたき券』とか『お掃除券』で、それをお父さんがあたしに渡すと、あたしはそこに書いてある通りの事をしてあげるの。
 お父さん、凄く喜んでいたわ。
 で、これを鈴原にもあげようと思って。
 鈴原もこれならば気兼ねなく、お弁当をあたしに頼めて、あたしは鈴原のお弁当を作れる。一石二鳥なの」
 
 ヒカリ ―― あたしあなたが良く分からないわ。
 でも、ここは親友の為、何も言わないでおこう。
 いい、きっかけだわ。
 でも、何でヒカリはあんなジャージバカのことが好きなのかしら。
 ヒカリだったら、他にいくらでもいいオトコがいると思うんだけど――。
 ま、人を好きになるのなんて、理由なんてないからね。
 でも、それよりも、気になったことを聞かなきゃ。
「ヒカリ。それはわかったけど、何でそんなに何枚も書いているの?」
「あ、来年のバレンタインデーまで持たせなきゃいけないから。365枚書いているの」
 ヒカリは幸せそうに目を輝かせた。
 きっと自分のナイスアイディアに、拳をぐっと握り締めたのだろう。
 でも、ヒカリ。
 学校があるのは、一年で200日余りなんだけど ――。
 ―― もう既に300は越しているわね。
 
 
 でも。
 これは、使えるかも。
 もちろん、シンジ用に。
 それ位してあげても、バチはあたらないよね?
 うん、決めた。
 このチケット方式だったら、シンジも気兼ねなく、あたしに頼めるし。
 よし。
 あたしは、早速バレンタインデー用に買ったメッセージカードに、いそいそと書き込んだ。
 
 
 
 で、バレンタインデー当日。
 シンジを誘って帰ろうと思ったけれど、何故か今日に限って、あたし専用のブービートラップが校内のいたるところに仕掛けられていた。
 それを避けるのに精一杯で、気づいた時にはシンジは既に下校した後だった。
 これはレイね。
 明日、会ったらお仕置きをしてやる。
 
 仕方が無いので、一足早くマンションで待っていると、シンジが帰ってきた。
 何故か顔が赤い。
「シンジ、遅かったじゃない」
「あ、ご、ごめん、ちょっと寄り道を――」
「ま、なんでもいいわ。はい。これ」
 と、なるべくさりげなくチョコを渡した。
「あ、ありがと、アスカ――」
 何故か、怯えているのが気になるけれど ――。
「い、言っておくけれど、義理だからね。義理。恥ずかしいから、すぐに食べちゃってよ」
「う、うん、わかった。あ。これは――何?」
 と、シンジはリボンに挟んであるメッセージカードを見た。
「そ、それはシンジ用のチケットよ。
 それをあたしに渡せば、そこに書いてあることを、してあげるってこと。
 いつもお弁当を作ってもらっているお礼。
 す、好きなときに使いなさいよ」
 あたしは恥ずかしくて、そっぽを向いて早口でまくし立てた。
 そっとシンジを盗み見ると、カードを両手で持って目を近づけて見ている。
 いやだ、そんなに見つめちゃ。
 恥ずかしいじゃない。
 
「―― でも、アスカ」
 シンジは、カードから目を上げて、恐る恐る切り出した。
「―― これ、なんて書いてあるの?」
 
 
 
 ひゅるりらぁ〜〜〜〜
 
 
 
 シンジとあたしの間に、木枯らしが吹いた。
 ――ような気がした。
 
「ど、どうせ、あたしは、日本語が下手よ!
 ええい!問答無用♪」
「も、問答無用って ―― うぐぅ」
 
 ぶちゅう♪
 
 ま、ムダにはならなかったわ♪
 
 
 


あとがき
 バレンタインデー記念のKISS、第二弾です。
 ご賞味いただけたでしょうか?(^^;;;

2001/2/14
なお

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