問題無い
 
 

 天界より遣わされし4番目の使者は、街はともかく、少年と少女に強烈なダメージを与えており、

 魔界より遣わされし3人目の少年も、少女のフォローだけで手一杯で有った。
 
 
 
 
 

第20話 シンジ 立会
 
 

「おいミサト、もう朝だぞ。イイ加減に起きろ!」

「ん〜〜、夕べは報告書の作成で徹夜だったのよ。その変わりって訳じゃないんだけど、
 今日は夕方迄に出頭すれば良いの、だから寝かせて〜〜」

「しょうがないな。じゃ僕は学校に行くから、ちゃんとゴミは出しとけよ」

「行ってらっさ〜い」
 

 シンジの最後の台詞 「学校」 を 「会社」 に置き換えれば、何となくしっかりものの亭主と、

 駄目女房の会話にも当てはまりそうな2人のやり取りであったが、

 その雰囲気を見てみると、むしろ楽しんでいるような節が伺える。

「対 使徒」 専門機関、ネルフの作戦部長と、

 その使徒に対抗できる唯一の存在であるエヴァンゲリオンのパイロット。

 一旦事が起これば、この2人はいやがおうでも 「非日常」 へと向き合わなくてはならないのだ。

 だからこそなのだろうか?

 シンジとミサトは別に何という事無い、こういった 「日常」 生活をとても大事にしており、

 こういった何気ない会話の所々から幸福が滲み出ているように感じられるのだった。
 
 

 シュッ

「うわっ」

 ドタッ

「「イテテ」」

 シンジは玄関を出た所で何かにつまずいて転んでしまった。

 まさかこんな所に石でも落ちていた訳でもあるまいに、と思いながら玄関の方を振り返ってみると、

 黒いジャージの少年が頭を抑えてうずくまっており、

 かたわらには、その様子を心配げに眺めているメガネの少年がいるのが目に入ってくる。

 確か名前は鈴原トウジ、そして相田ケンスケとか言ったと思うが、

 人の家の出口に当たるこんな所でいったい何をしていたのであろうか?
 

「大丈夫か、トウジ?」

「ああ、別になんて事あらへん! 良いなケンスケ?」

「O.K」

 状況を飲み込めないシンジが、しばし2人の様子を眺めていると、

 この言葉に続いて最初にトウジが、それにつられるようにケンスケが、

 今だ上体を起こしたのみで、尻餅をついたままのシンジの前に2人してひれ伏すのであった。

「いったい何の真似だ。これは?」

「碇さん! ワイは、ワイとケンスケはあんたに謝りにきたんや」

「謝りにだと?」

「アンタの苦労も知らんと殴ってもうた上に、戦闘の際にはえらい迷惑かけてもうて、
 ホンマにスイマセンでした」

「スイマセンでした」
 

 ようやくシンジも得心がいった。

 この2人は自分に謝罪するために、恐らく最初から玄関の前で土下座して、

 自分が出てくるのを待っていたのだろう。

 そのため足元にいたトウジに、引っかかるようになってしまったのだ。

 まあわかってみれば何という事も無いわけで、お互い色々な意味で衝突はあったけれども、

 とりあえずは事無きを得たので、まずは重畳と言った所だろう。

 その上シンジは物事に対して割とキッチリとケジメをつけられるタイプなので、

 今までの事はこれで水に流す事にした。
 

「別に何の問題無い。気にするな」

「い〜や、そういう訳にはいきまへん。碇さん、ワイを1発どついてくれまへんやろか」

「何だと?」

「そうしないとワイの気ィがすまへんのや・・・ どうかお願いしまっさ」

 そう言われてシンジはちょっと考え込んでしまう。

 確かにこの少年からは1発良いパンチを貰っていたが、お返しはまだだった筈なので、

 この場でそれを精算しても良いか、という考えも浮かんだのだが、

 そこは結構ひねくれ者のシンジの事、

 こういうおもしろい奴にはアドバンテージを取って置いた方が良い。と結論づける。
 

「止めとくよ!」

「な、なんででっか?」

「お前には貸しを作っておいた方が、後々何かと都合が良さそうだからな」

「そんな殺生な!」

 やっぱり性格の悪いシンジであった。

 しかしトウジの方も仲々めげない性格のようで、しからばと、

 交換条件という訳でも無いが、シンジに対してすぐさま新しい提案を出してくる。

「ほなせめて、碇さんの事をこれからは先生と呼ばせたって下さい。
 こればっかりは拒否しても無駄でっせ、ワイは必ず碇さんの事をセンセと呼びますさかいに」

「僕からもお願いしますよ。良いでしょう碇さん」

「好きにしろ」

 ほんの軽く『碇スマイル』を浮かべたシンジは、そう言って立ち上がったかと思うと、

 トウジとケンスケをそのままにして、自分は足早にエレベーターの方に向かってしまう。

 おいてきぼりを食う形となったトウジとケンスケは、慌ててシンジの後を追う。

「あ、センセ、待ってよ、センセ〜」
 

 自分に追いすがる足音を聞きながら、このトウジという少年に対して、

 シンジはまたしても奇妙な感覚を感じ取っていた。

『昔っからそうだったな、毎度毎度暴走するアイツをなだめるのはいつも僕の役目だった。
 ベーゼなんかはそんな僕達2人をいつもあきれたような感じで見ていたっけ。
 まさかこっちに来ても同じ役割を負わされるとはな、やれやれ』

 これ迄何度となく感じ取ったこの感覚、デジャブにある種近いと言っても良いだろう。

 以前はその度に思い悩んだのだが、さすがにこう何回も何回も繰り返されると、

 悩むのが馬鹿らしくなってくるようで、当面はなりゆきにまかせる事を決めたシンジであった。
 
 
 
 
 

 第四使徒の残骸が残る近辺には、無数の巨大テントが設営されている。

 どうやら中では第四使徒の検証が行われているようであり、

 時折クレーンや、運搬用であろうか? 工作用の車両の行き交う音が響いてくる。

 元々人間の数十倍の身長を持った使徒は、例え横たわったとしても、

 人の身長を軽く凌駕しているので、そのままの状態で検証を行うのは、

 かなりの困難を伴うため、テントの中には足場が組まれている。

 その上では今もリツコが頭に白いヘルメットをかぶったまま、

 何やら熱心にメモを取っている最中である。

「成る程ね、コア意外は殆ど原形を留めているわ。本当、理想的なサンプル。ありがたいわ!」
 

 純粋なる科学者としての探求心を揺り動かされたからなのだろう、

 とても嬉しそうな口調でリツコは下に居るシンジに語りかける。

 それに反してミサトは危機感を感じていた。

 大体にして自分はこういった研究だとか、調査だとかが大の苦手なのだ。

 第三使徒の時は使徒自体が自爆してしまったため、

 その痕跡が余り無いせいも有って調査はごく短時間で終了したのだが、

 今回はそういう訳にはいかないだろう。

 リツコの性格からすると、ほっとけばそのまま何時間でも作業に没頭してしまいかねない、

 その雰囲気を感じ取ったミサトは、一刻も早く調査を終了して貰おうと結果のお伺いをかけた。

「で、何かわかった訳?」
 
 

 ミサトがリツコの事を良く知るように、リツコもミサトの事はよくわかっているので、

 とりあえず一旦調査を中断し、今までの分析結果をミサトに提示するべく、

 そのためのワークステーションが置いて有る所に、彼女とシンジを連れて移動する。
 

「何これ?」

「解析不能を示すコードナンバー」

「つまり、訳わかんないって事?」

「そう、使徒は粒子と波、両方の性質を備える光のようなもので構成されているのよ」

”601”

 ディスプレイ上に写し出された謎の数字に、ミサトが疑義の声を出すが、

 それに対するリツコの答えは、ミサトにとっては、予想外れの内容であった。

 100%は当然無理にしても、いくらかは参考になるデータが抽出出来るのでは無いか?

 そうミサトは思っていたのだ。

 無論それはリツコが優秀である事を知っているが故であり、

 だからこそ先程は検証を途中で打ち切らせるような行動にも出たのである。
 

「で、動力源は有ったんでしょ?」

「らしき物はね、でもその作動原理がまださっぱりなのよ」

「まだまだ未知の世界が広がってる訳ね!」

「とかくこの世は謎だらけよ」

 そういってディスプレイの前から立ち上がるリツコの口調に、

 自嘲するような雰囲気が感じられたのは、まだまだ己、と言うよりは、

 人類の知識の未熟さを感じ取ったせいであろうか? それとも・・・
 

 3人がそんなやり取りをしている脇をゲンドウと冬月の2人が通過していく、

 その様子に気づいたシンジがそちらの方に顔を覗かせると、

 上から第四使徒のコアの破片がクレーンに吊されて下ろされてくる所だった。

「これがコアか! 残りはどうだ?」

「それが、劣化が激しく、資料としては問題が多すぎます」

 普段は白い手袋をしているゲンドウであるが、やはり興味が有るのだろうか?

 冬月とコア担当の技術部員のやり取りを聞きながら、

 第四使徒のコアの破片を、素手であちこち弄りまわしている。

「かまわん。他は全て破棄だ」

「はい」

 しかしさすがに科学者のリツコとは違い、すぐさま興味は無くなったのか、

 ゲンドウはそう言うと、コアから手を放した。
 

 そんな男どものやり取りを、別に興味が有った訳でも無いが、ただ何とはなしに見ていると、

 後ろ手に組まれたゲンドウの掌に、火傷の痕が有るのをシンジは見つける。

 自分とゲンドウとの距離は10メーター以上は有るであろうか、

 にも拘わらず、その痕がはっきりと見て取れるという事は、相当ひどい火傷で有ったに違いない。

 シンジはその事を確かめるためにゲンドウの所へと移動していく。

 碇 シンジ、やはり彼は確実に変わってきているようである。
 
 

「やあ、父さん」

 ピクッ

「シンジか?」

「そうだ」

「何故、貴様がここに居る?」

「勿論、呼ばれたから来た迄さ。ところでその掌の火傷、どうしたんだい?」

「お前には関係の無い事だ。ここに用が無いのならとっとと立ち去れ!」

 一応は父親であるゲンドウの事を気遣ってやるシンジに対して、

 ゲンドウの方は全く大人げが無く、息子から差し伸べられた手を全くとろうとはしない。

『全く、困った親だな! もう少し素直になれよ』

 そう思いながらも、シンジはその事を実際に口に出す事は無く、

 この場はおとなしく引き下がる事にする。
 

「わかったよ父さん。けど、体には気をつけなよ」

問題無い

 自分を労るようなシンジの言葉に、ゲンドウは強がってそう返すが、

 はたで見ている冬月にはそのさまはすっかりバレバレであった。

『碇め、少しは素直になれば良いものを』
 
 

「どうしたの?」

「いや、父さんが掌に火傷しているみたいだったから、どうしたのかと思ってな」

 再びリツコ達の所に戻ってきたシンジに対し、ミサトから声がかかるが、

 シンジは澱みなく、ゲンドウ達の所へ行っていた理由を語る。

「火傷! 火傷って・・・ 知ってる?」

 心当たりの無いミサトは背後に居るリツコの所を振り返る。

 しかしミサトとシンジは知らなくて当たり前なのだ。

 先程も述べたが、これ迄ゲンドウはずうっと白い手袋をしていたのだから、

 その下がどうなっているか、などはそれをする以前の状態を知っている者で無ければ、

 わからなくて当然である。
 

「シンジ様がまだここに来る前、起動実験中に零号機が暴走したの。聞いてますでしょ?」

「ああ」

「その時、パイロット・・・ レイが中に閉じこめられて」

「レイが!?」

「司令が彼女を助け出したんです。加熱したハッチを無理矢理こじ開けて」

「父さんが!?」

「掌の火傷はその時のものなのです」

 全く意外と言って良い父親の行動に、シンジは少しゲンドウの事を見直してやる事にしたが、

 それ以上に彼には気にかかる事が発生していた。

 零号機の暴走事件を沈痛そうに語るリツコの表情は、10年来のつきあいの有るミサトですらも、

 ゲンドウの火傷の事を気にしていたものとして写っていたのだが、

 シンジの目にはその他にもまだ何かがあった事が見てとれていたのである。

 いったい何が? しかしリツコはそのシンジの疑念に気づいているせいなのか、

 はたまた単に偶然なのかはわからないが、急にガラッと話題を変えてしまう。
 

「ところでミサト、急な話しであれなんだけど、
 零号機の再起動実験、予定を前倒しして明後日に行う事が正式に決まったから」

「え、何で? だって予定では」

「もうしばらく先の筈だったんだけど仕方ないのよ。
 私が急遽、3日後にはドイツに行く事が決まってしまったから」

「ドイツ〜、いったい何しに出かけるのよ?」

 リツコとミサト、お互いにネルフの部長としての会話が続く。

 そこら辺の事はシンジもわかっているのか、決して会話の邪魔をするような事は無く、

 かたわらで2人の話を聞き入っている。
 

 零号機の再起動実験。

 言うまでもなくそのパイロットはレイで有り、前回の実験では暴走すら起こっているのだ。

 今まで特に気にも止めていなかったが、自分の初号機には母である碇 ユイが眠っている。

 となると零号機もおそらく誰かの意志が宿っていると思われるのだが、

 レイ自身は元々ユイの意志と、リリスの肉体を基本として生まれてきており、

 シンジを例外とすれば、彼女には他に肉親と呼べるような存在はいない筈だ。

 はたして零号機にはいったい誰が眠っているというのか?

 とりあえず今はすぐ側にミサトが居るので質問を控えたシンジであったが、

 当然、後でリツコに確認してみようと思っていた。
 
 

「実はドイツのエヴァ弐号機の最終調整なんだけど、それを私が実行する事になったのよ」

「何でよ、そんなもんドイツ支部にやらせとけば良いでしょうが?」

「そこはほら、司令がアレだから、なるべく技術を独占しておきたいんじゃないの?」

 エヴァ弐号機?

 当然ながらシンジは初耳の事なのでこちらの件については、すぐさまリツコに質問をする。

「リツコ、エヴァ弐号機とはどういう事だ?」

「シンジ様、零号機、初号機に次ぐエヴァ弐号機については、既にネルフドイツ支部において、
 完成しているんですが、まだ最終調整という手順が残っているんです」

「そのためにわざわざリツコがドイツに行くという事か」

「ええ、ドイツ支部の技術力をもってすれば、十分自分の所だけでも可能なのですが、
 ただ1点だけ、どうしても不足しているデータが有るんです」
 

 リツコはそう言うとチラッとシンジの方に視線を走らせる。

 それを受けてシンジの方も何か閃く事が有ったらしく、リツコの後を引き取る形で言葉を続ける。

「成る程、実戦のデータだな、そして父さんはそれを支部に渡したくない。と」

「その通りです。
 第三使徒、第四使徒との戦闘で得られたデータというのは、確かにとても貴重な物で、
 弐号機はそれを元に最終調整を行った後、実戦配備される予定なのです」

 あの髭ととサングラスで誤魔化しているが、ゲンドウが本当は小心者であるという事が、

 こういった点から伺える。

「ま、父さんらしいといえばらしいか」

 シンジは今だ第四使徒のコアの周囲をうろついているゲンドウに視線を走らせながら、

 そう言ってこの場を締めくくった。
 
 
 
 
 

 今や常夏の国となってしまったこの日本においては、

 体育の授業における水泳という課目が年中行事となってしまっていた。

 人間誰しも暑い時には涼を取りたいもので、その意味からも、

 あるいわ中学生という思春期真っ最中の少年少女達の異性に対する興味の度合いからも、

 この水泳という授業はすこぶる好評を得ていたのである。

 ここ第一中においてもそれは例外ではなく、実際に今もプールの中で泳いでいる者、

 プールサイドで嬌声を響かせている者など、フェンスで囲まれたそのエリアの中では、

 女子生徒達の笑顔の飛沫で溢れている。
 

 それに対して男子生徒達の方だが、

『何でこのクソ暑い中、しかも屋外でバスケットをしなくちゃならないんだ!』

 と、殆どの生徒が思いながらも、実際に試合をしている連中は、

 教師の目を気にしてか、少なくとも表面上は真面目なフリをしてプレイしていた。

 さてプレイしている連中は良いとして、はたして休んでいる連中はどうかというと、

 これが全く逆で、土手に寝転がっている者はまだましな方で、

 大半の連中はプールサイドに佇む女子生徒達を、羨望の眼差しで見続けていた。
 

 1部の者にとっては垂涎の的となる紺のスクール水着。

(待て、コラ!)

 それを身に纏った女子生徒達の肢体は、

 今まさに子供から大人へと脱皮を図ろうとしているもので有り、

 その両方の魅力を併せ持っているこの時というのは、

 一生の内でも最も生命感、あるいわ躍動感に溢れていると言えるだろう。

 そんな魅力に溢れた彼女達に男子生徒の目が惹きつけられるのは当然の事で、

 むしろ興味を覚えないのは、男として失格で有ると断言する。

(イイ加減にしろ、このオヤジが!)
 
 

 あのシンジにしても、いやシンジだからこそだろうか?

 自分のゲームが終わった後は、ずうっとプールの方を眺めていたのだが、

 その様子に気づいたトウジとケンスケが、早速と言った感じでツッコミを入れる。

「お、センセ、何熱心な目で見とるんでッか?」

「綾波ですか〜、ひょっとして?」

「まあな」

「おー、というとやっぱり、綾波の胸、綾波の太股」

「「綾波のふ・く・ら・は・ぎ〜」」

「それも有る。だがそれだけじゃ無い」

 更にケンスケ迄もが悪のりし、最後は2人でのファンファーレとなったのだが、

 シンジには全く動じる様子は見られなかった。
 

「と言うと、他に何を見てたんですか」

「ワシの目は誤魔化されまへんで〜」

「別に誤魔化すつもりは無い。理美の唇、麻紀の背中、ヒカリの腰・・・ その他にも色々有るが、
 どれを取っても甲乙つけがたいので判断に迷っていた所だ」

「さ、さいでっか・・」

 どう聞いても健全な中学生にはふさわしく無いシンジの言葉に、毒気を抜かれるトウジ。

 しかしシンジは、今現在間違いなく第一中での女子生徒の人気はbPなので、

 その彼の口から自分の名前が出た事をその生徒が知ったとしたならば、

 喜びこそすれ、決して怒る事は無いであろう。
 

「と、ところで先生、今日出てくる時は1人だけでしたけど、
 綾波と一緒に暮らしてるんじゃないんですか?」

「色々事情が有ってな。まだ当分の間は一緒に暮らすのは無理だ」

「スイマセン。出過ぎた事でした」

問題無い

 シンジの返答に引いてしまったトウジに代わり、

 今度はケンスケが場に新たな話題を提供したのであるが、

 これまたシンジには不評と判断したようで、すぐさまこの話題を打ち切ろうとする。

 しかしシンジはケンスケが思っている程、この事を深刻には受け止めておらず、

 それよりもプールサイドでポツンと1人、

 みんなが泳ぐ様子を見学しているレイの事の方が気にかかっていた。
 

 今日はこの後、零号機の再起動実験が実施される予定になっている。

 前回の起動実験の際、零号機は暴走したあげくに、

 レイがエントリープラグに閉じこめられるという事態に陥っているのだ。

 もしかしたら、その時を思い出して不安になっているのかもしれない。

 そう思ったシンジは、実験の始まるまでの間、なるべくレイを元気づけてあげようと思うのだった。

 しかし、シンジはまだ知らないのだ。

 再起動実験に備え、レイがナーバスになっているのは確かだが、

 それは前回の事を思い出しているからではなく、3人目の綾波レイである彼女

 エヴァに搭乗するのは初めてだからという事を。
 
 
 
 
 

「レイ」

「お兄ちゃん。どうして?」

 エヴァ零号機の再起動実験のため早退するレイが、下駄箱の所にやって来たところ、

 以前に比べると、大分喜怒哀楽を言葉上では表現出来るようになった彼女は、

 そこに佇むシンジの姿を見つけ、思わず驚きの声を上げてしまう。

 再起動実験は本来レイが行うべきもので有り、

 シンジはそのまま授業を受け続けなければならない筈なのだが、

 プールでの彼女の様子が気になった彼は、自分も早退して一緒に付き従う事にしたのである。

 全く、どこ迄も妹に甘い兄貴である。
 

「再起動実験、これからなんだろ? つきあうよ」

「でもお兄ちゃんは」

「確かに、僕がいても出来る事は何も無いかもしれない。けど近くにいてやってもいいだろ」

「うんわかった。あ、ありがとうお兄ちゃん」

 残念ながらそういうレイの表情は、その言葉の度合いに対して、

 さほど変化の度合いは見られないのだが、それでも以前と比較すると大分ましになっている。

 シンジはその様子に満足げに一つうなずくと、レイと一緒にネルフに向かうため、

 靴を履き替え始めるのであった。
 
 
 
 
 

「レイ」

「お兄ちゃん。どうして?」

 女子のA級勤務員更衣室において、プラグスーツに着替え終わったレイが、

 扉を開けて一歩廊下へ出た所で、またまたシンジからの声がかかる。

 はっきり言って一歩間違えばストーカー行為になりかねないシンジの行動だが、

 むしろレイにはそんなシンジの行動が嬉しく感じられていた。

「いや、ちょっとな。どうだ、調子は?」

「うん。だ、大丈夫よ」

 レイはそう言うが、たったこれだけの言葉なのに、緊張が漏れ出てくるのを抑えきれていない。

 その様子を見ながらシンジは自分が初めてエヴァに乗った時の事を思い出していた。

 あの時ははっきり言ってどさくさ紛れ、といった感じで深く悩む暇など無かった訳で、

 そういう意味からするとむしろ自分はラッキーだったのかもしれない。

 そう思うシンジの表情には、いつか自然に 『碇スマイル』が浮かび上がっていた。
 

「どうしたの?」

 シンジの表情につられたのか、レイもわずかではあるが表情を綻ばせながら、

 そう言って彼が笑みを浮かべた訳を尋ねる。

「いや、問題無い。レイを激励(洒落では無い)しようと思ってな」

「激励?」

「ああ」

 しかし、そう言ったもののシンジは別段何をする訳でも無く、

 ただじっとレイの事を見つめ続けているだけである。

 それに対してレイは自分の頬が自然と熱くなってくるのを感じていた。

『何この感じ? ただ見つめられているだけなのに、どうして恥ずかしいの?』

 初めての感覚にとまどいを覚えるレイであるが、決してそれは不快な物ではなく、

 むしろ嬉しさに満ち溢れていた。
 

「さ、もうそろそろ時間だろ」

「あ、うん。じゃお兄ちゃん、行って来るね」

 固まってしまっていたレイだったが、実験に臨むようにとのシンジからの促しの言葉に、

 ハッと我に返ると、そう言って実験場に向かおうとするのだが、

 そんな彼女に対してシンジからの最後の言葉がかけられる。

「大丈夫、きっとううまくいくよ、きっとね」

 一つ一つの言葉をゆっくりと、まるで言い含めるように語るシンジに対して、

 レイは大きく、そしてしっかりとうなずくと、

 彼女にとっては初めてのエヴァの起動実験に臨むため、零号機に向かって歩み始める。

 その胸中からはさっき迄有った不安、心配などは一切取り除かれており、

 安心感と同時に積極的な意欲に満たされていた。
 
 









!特報!

 巨大ロボットを駆使し、地球征服をたくらむ魔界より遣わされし少年を、

 なんとか阻止せんと結成された秘密の地下組織SEELEは、

 少年の野望を阻止するべく、見た目は醜悪であるが内実は天使である

「使徒」 と呼ぶ素体を、彼との闘いに赴かせるのだが、

 最初に闘いに臨んだサキエル、次に闘いを挑んだシャムシェルとも、

 少年の持つ圧倒的な力の前に、ことごとく破れ去ってしまう。

 はたしてSEELEは少年の野望を阻止する事は出来るのか?

 それとも、人間を遙かに超越した能力を持つ少年の前に心ならずも屈し、

 地球征服の後に彼が必ずや実施するであろう、”地上に存在する全ての女性を自分のモノにする”。

 という事を目の当たりにし、無念の涙を流してしまうような事になるのか?

 人類の行く末を描いた近未来ハイパースペクタクルアクションストーリー、「問題無い」。

 製作−G○IN○X、監督−○野○明、脚本−業師、主演−碇シンジ、は、

 製作快調! 近日公開!! 乞うご期待!!!

(するか! 馬鹿!!)
 
 

 本部とは違って専用の視聴覚室を設置していないここ、ネルフドイツ支部では、

 会議室の一角に設置されたプロジェクタースクリーンに、

 特別先行公開としてこの映像が映し出されており、(ンな訳あるか!)

 1人の美女と1人の美少女が黙ったままその映像を見続けている。

 2人が今見ているのはエヴァ初号機と第四使徒との戦闘の様子であり、

 先程迄は第三使徒とのそれが映し出されていた。
 

 こういった方面に興味の有る男性諸氏であれば、こぞって映画館につめかけるだろうが、

 さほど魅力を感じない、特に女性の場合は普通この作品は退屈に感じられる筈な上に、

 音声も効果音も一切無いその模様は、尚更迫力に欠けていたが、

 この2人の女性はどうも例外のようで、

 オープニングで製作会社のロゴに続いて少年の本性が現れる所から、

 エンディングの水槽のシーン迄、(劇場版なので次回予告は無い)

 食い入るようにその映像を見つめ続けていた。

(だから、エエ加減にせいって!!!)
 

 やがて映像が全て終了し、スクリーンがオールブルーに変わって少しした後、

 先に美女の方が少年に対する感嘆の言葉を口にする。

「たいしたものね! 初号機のパイロット」

全然!! たいした事ないわよ!!!

 それに反論するように、美少女の発する綺麗なソプラノが、会議室全体に大きく響きわたった。
 
 
 
 
 

 天界より遣わされし5番目の使者は、今だその姿を見せる気配は無く、

 魔界より遣わされし3人目の少年も、この時だけは妹の事を気にしていれば良かった。
 
 

                                                         
 
 

 ネルフドイツ支部。本部以外では唯一エヴァを所有するそこに、ライバルは居た。

 サードチルドレンが自分の運命の相手である事を知らないまま、少女は反感を募らせていく。

 そして老人達は歪んだ欲望を成就させるために、己の持つ権力を有効に活用する。

 次回 問題無い  第21話 シンジ 深慮

 さ〜て、この次も サービスしちゃうわよ
 
 
 


 いよいよ、アスカさん登場ですね?!(^-^)/
 オーバー・ザ・レインボーの甲板での対面が楽しみです。
 
 おっと、そこまではまだ時間があるみたいですね。
 しかし、アスカさんをとりまくナニやら妖しい影。
 杞憂に終わると良いのですが…
 
 それにしても……理美の唇、麻紀の背中……ときたら、
  カナちゃんのふとももでしょう!?(爆)
 
 ホント、いつもへんなコメントでごめんなさい。m(_ _)m
 
 それにしても……三人目?(汗)
 何やら、レイちゃんだけではなく、この世界ではいろいろと秘密がありそうです。
 
 
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