「よぉ、シンジ君じゃないか」
加持は如雨露の先をくい、と持ち上げ、丸々と育った西瓜への水遣りを中断した
シンジは何も言わず、俯いたまま立ち尽くすだけ
加持はおやおや、といった感じで両肩を軽く上げると、西瓜へと向き直り水遣りを再開した
如雨露から流れ落ちる水が、光に反射してきらきらと輝く
西瓜から跳ね返った水滴がズボンの裾に染みを作っていくのも構わず、加持は水を撒き続けた
「・・・・・彼女に会ったのかい?」
シンジの方を見遣る事もなく、加持は問い掛ける
だが、シンジは相変わらず無言のまま
最後の一滴が地面に吸い込まれていくのを見届けた後、加持は静かに如雨露を置いた
そして、ポケットからヨレヨレになったパッケージを取り出し、中からタバコを一本咥える
紫煙が、風に乗ってふわりと浮かび上がり、消えていく
タバコの火がフィルターを焦がすまで近づいた時、ようやくシンジはその重い口を開いた
「・・・・・どうして・・・・・・」
「・・・・・ん?」
「・・・・・どうして彼女は戻ってきたんですか?」
「それが彼女の望みだからさ。
そして、それは君の望みでもある・・・・・違うかい?」
「それは・・・・」
「『霧島マナ』はあの日限りでこの世を去った。
彼女は生まれ変わり、新しい人生を手にする事が出来たんだ。
最早彼女は彼女ではない・・・・・だが、間違いなくシンジ君が好きになった彼女であることに変わりはないよ」
「・・・・・」
「『人生でまず学ぶべきは、決して上辺だけで判断しない事』
小説に出てきた台詞だけどね、それは真理でもある。
君は彼女の上辺だけを見ていたわけじゃないんだろう?
それとも、彼女の変わり様に愛想を尽かしたとでも言うのかい?」
「そんな事・・・・・ないですけど・・・・・」
「ならいいじゃないか。
愛する男性(ひと)の傍に居たい、そんな彼女の気持ちに答えてやるのが男ってモンだよ」
「でも・・・・・でも、でも、でも!
このままじゃ・・・・・僕は・・・・・・・」
シンジは拳を握り締めた
声が、肩が細かく震える
加持は黙ったまま、シンジを見つめていた
「シンジぃ〜〜〜、どこぉ〜〜〜〜?」
ビクっ・・・・・とシンジの肩が跳ね上がる
その拍子に、身体を支えていた松葉杖から手が離れた
「あ、シンジみ〜〜〜〜〜っけ♪」
足音が近づいてくる
微かに地面が揺れる
それでもシンジは振り向かない、否、振り向けない
そして、次の瞬間
「シ〜〜〜〜ンジぃ〜〜〜〜〜♪」
ドカぁっ!!
「げふぅぅぅっ!!!」
シンジはマナに押し倒されていた
「ンもう・・・・ダメじゃないシンジ!
病室を抜け出したら治る怪我だって良くならないんだよ?
ホラぁ、あたしが愛情をた〜〜〜〜〜っぷり込めて看病するからサ、戻ろ?
ネ、シ〜〜〜ンジ♪」
チュッ♪
マナはシンジに軽く口付けた
だが、シンジは何の反応も見せない
「・・・・・シンジ?」
マナは半身を起こし、シンジを見た
そこには、白目を剥いて完全に失神しているシンジの姿が・・・・・
「もう、ホンのちょっとだけキスしたくらいで気絶するなんてシンジってば♪」
「・・・・・・い、いや・・・・・キスしたから気絶したとは到底思えないぞ?」
「あ、加持さん!
ダメじゃないですかぁ、怪我人をこんなところに連れ出してぇ!」
ひょい、と軽くシンジを肩に担ぎ上げ、起き上がるマナ
呆然と立ち竦む加持に軽く頭を下げると、にっこりと加持に微笑みかけた
「じゃぁ、シンジ君は連れて帰りますね♪」
「あ、ああ・・・・・お手柔らかにな?」
「失礼しますっ♪」
ドンっ、という衝撃音とともに、地面を抉るように駆け出していくマナ
彼女はあっという間にトップスピードへと達し、土煙だけを後に残して視界から消えていった
EVAの技術を駆使した、リツコ謹製の白い甲冑を身に纏ったマナ
自らを護る鎧を武器とし、第三新東京市に戻るまでに二個大隊を壊滅させた彼女
最早、彼女をと止める者は誰も居ない
「シンジ君、死ぬなよ・・・・・・」
加持の呟きを聞いたのは、黙ったまま横たわる西瓜だけだった
コレでも鋼鉄と言ってやるぅ(壊)
最近『鋼鉄』のmap_sさん(謎)から、『鋼鉄少女』のKISSを頂きました。(^^)
パワフルです。(^-^)/
リツコさん特製の武器を装備したマナは間違いなく最強でしょう。(^^;
一度アスカと戦わせて見たいなぁ。(ぼそっ)(笑)