地上へと向かって伸びる長いエスカレーター
僕は彼女を見つめていた
2段上に立つ彼女の背中を
初めて出逢ったとき
彼女は僕のずっと前を走っていた
遠く、小さい背中を
いつしか追い掛け始めていた
時が経つにつれて
少しずつ距離が狭まっていって
一歩、また一歩
近づくたびに彼女の事を知って
途中で寄り道もしたけれど
遠回りもしたけれど
ようやく肩を並べて歩けるようになった
それからどれくらい過ぎたのだろう
共に歩み始め
共に刻み始めたふたりの時間
こうして彼女の背中を見るのは
なんとなく久し振りのような気がする
艶やかな黄金色の髪
細い肩
半袖のシャツからすんなりと伸びた腕
引き締まったウェスト
腰からふとももまでを隠すスカートのライン
膝の裏
ふくらはぎから足首までのなだらかな曲線
見ているうちに触れたくなった僕は
両肘の裏側を手でとらえた
力が入り過ぎているかもしれない
でも、僕にはどうしようもない
訳のわからぬ衝動が
僕を衝き動かしてゆく
彼女の肩に頬を寄せる
シャツ越しに感じる彼女の感触
陽だまりのような暖かさ
ほのかに漂うコロンの香り
彼女の髪の中にある、彼女自身の香り
不意に彼女は僕の腕を振り払った
そして、身体を捻って僕に振り返る
巻きつけるようにして回された両腕
正面から重なり合う身体
僕も同じように彼女を抱きとめる
ごく自然に重なる唇
深く抱き合い
同じように深くくちづけを交わしている僕達を
エスカレーターはゆっくりと地上まで運んでいった