二度寝 another
ステレオ

 窓枠で区切られた小さな外界。
 昨夜の月から今朝の太陽へと、主役は順調に交代したようね。
 
「・・・眩しいわ。」
 
 暴力的に眠りの世界から呼び覚ます陽光に、わたしは小さく呟いてみた。
 目覚まし時計は天然物に限る・・・カーテンを開いたまま床についたのは、それが理由。
 柔らかい朝の日差しが、それでも容赦無く低血圧の脳髄を掻きむしって不愉快。
 目覚めた今、もう光はいらないの。
 朦漠とした意識を総動員して、壁の時計に目を走らせる。
 
「・・・今日は・・・間にあったのね?」
 
 わたしの隣り・・・一つベッドの上に、タオルケットの端から覗く赤毛を確認。
 
「今日は・・・勝ったのね?」
 
 寂しさと悔しさにまみれた敗北の日々にさようなら。
 同衾の好敵手まで起こすことの無いよう、静かにベッドを抜け出し、カーテンを締めた。
 
 胸の奥に、熱い物がこみ上げる。
 彼女よりも、碇くんよりも、誰よりも早く目覚める・・・ただそれだけの為に払った労力は大きかったわ。
 努力と失敗の連続だった・・・。
 ガレージの青い車から取り外したクラクションで、特製の目覚ましを作ったけれど・・・。
 目覚めたわたしの前には、不必要に巨大な胸を怒りに震わせる、黒髪の鬼がいた。
 ベッドの上に吊り下げた金属製の洗面器を、タイマーで落下させてみた時なんて・・・。
 目覚めたわたしの前には、なぜか洗面器を頭に被った、赤毛の鬼がいた。
 時限融解型のカプセルにミサトさんのカレーを詰め、口に含んで寝た時に至っては・・・。
 目覚めたわたしの前には、見慣れた病室の天井があった。 
 
 苔の一念、という言葉があるらしい。
 何故この言葉を思い出したのかしら・・・わたし自身、よく判らないの。
 
 ・・・ともかく、勝利の玉座たる彼のベッドへと、凱旋しなければならないわ。
 乏しい知識の中から、勝利の行進に相応しい旋律を探し出す。
 なぜだか、古典ハードロック・・・レッド・ツェッペリンの『移民の歌』が浮かんできて。
 
「ぁぁぁ〜ぁぁ〜、ぁぁぁ〜ぁぁ〜。」
 
 ベッドの中のアスカを起こさぬように、イントロの雄叫びを小さな声で歌いながら、わたしは勇ましい気持ちで碇くんの眠る部屋へと向かった。
 
 ・・・あるいは、異なる未来も有ったのかも知れないと、わたしは後に振り返る。
 この時、わたしは気付くべきだったの?
 シーツから覗く赤毛から、如何なる寝息も聞こえなかった事に。
 確かに触れた筈の彼女の身体から、如何なる体温も感じなかった事に。
 
 ・・・あるいは、異なる未来も有ったのかも知れない・・・。
 
 
 彼の部屋に潜り込むと同時に、わたしの視界が歪んだ。
 
「これは・・・涙。
 そう・・・わたし、泣いているのね?」
 
 嬉しい涙もやはり塩辛いのだと、新たな知識を手に入れた。
 歪む世界では、物が二重に見える。
 既に何度か経験した知識を確認しながら、わたしは一つの発見をした。
 視覚が二重にぶれるとき、聴覚も同様、二重にぶれるものなのね。
 
「不思議・・・寝息が二つ聞こえる。」
 
 碇くんが二人いるようで、喜びも二人分・・・オトクな感じ。
 これからはいつも泣いていよう。
 ステレオで鑑賞する碇くんは、きっと素敵に違いない。
 もっと泣いたらサラウンド?
 ・・・想像するだけで気絶しそうだわ・・・。
 
 よろける足元に力を込めながら、彼の枕元に辿り着いた。
 頼りない視界のせいで、タンスの角に小指をぶつけたけど。
 碇くんのタンスだと思えば痛くはないわ。
 ・・・変、サラウンドにはならないの?
 
 震える指でシーツをめくると、立体映像な碇くんが居た。
 黒い碇くんと赤い碇くん。
 わたし、ホントは赤と青じゃないかと思うの。
 だって、立体絵本の付録は赤と青の眼鏡だもの、これでは飛び出して見えないわ。
 今度、碇くんに教えてあげよう・・・きっと頭を撫でてくれるはず。
 
 とりあえず、手前の赤い碇くんに狙いを定める。
 そっと頬に手を添えて・・・。
 
 ちゅっ♪
 
「ん・・・ぅん・・・。」
 
 ・・・色が違うと、匂いも違うのね?
 でも、柔らかくて暖かい唇は同じ。
 
 ちゅっ♪
 
「んっ・・・んん〜っ!?」
 
 
 ふふっ、起こしちゃってごめんなさい、碇くん。
 でも、一つだけ聞いて?
 赤い髪と青い瞳では、ステレオグラムにならないと・・・。
 
 
 
 
 ごすっ!!
 
 ・・・・・・。
 
 
 
 
 涙に滲んでよく見えないけど・・・。
 
 お星様がきれい・・・。 
 
 
 
 
 後刻。
 
 アスカとわたし、共有のベッドに横たわる『アスカ人形:1/1』を発見して。 
 あるいは、異なる未来が有ったのかも知れないと、わたしは深く後悔した・・・。
 
 
 
 
 
 


 聡明そうなレイちゃんの天然ボケが、なんともプリチー♪

 はうぅぅぅぅ!(^-^)/
 
 >古典ハードロック・・・レッド・ツェッペリンの『移民の歌』が浮かんできて。
 「どんどこ、どんどこ、どこどこどんどこ……」
 ふっ、出陣に相応しい曲ですね。(^^;
 
 そ、そして、なんとレイちゃんがアスカさんと………
 きゃぁ〜〜〜!(ぽっ)(@^^@)
 
 ふぅ。堪能しました。(笑)
 
 でも、なんで、アスカさんとレイちゃんが一緒のベッドなのだろうか?
 それはそれで、萌えるんですけれど。(廃)
 
 
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