私は、初号機の前でたたずむ彼を見ていた。
肉体を持たぬ二人目の私に、三人目の私が囁く。
「あの人の息子・・・絆。・・・でも、それは欠片でしかないわ。」
「そう・・・かもしれない・・・」
「あの人・・・そう、唯一の絆は、あの人・・・
サードチルドレンは、本当の絆では無いのよ。」
碇司令に視線を移す。
広い空間を頼りなく照らす照明の下、小さなテーブルを挟んで彼と向かい合う女。
短い黒髪の彼女は、甦った碇ユイ。
あの人が本当に求めた、あの人の絆。
「絆・・・私が求めた、本当の絆は・・・」
三人目の呟きに、しかし、二人目の私は頷く事が出来なかった。
「・・・司令は・・・違う、と思う。
それは過去のココロ。求めても得られなかった、希望の残骸。」
少年を再び見つめる。
「希望、ではないのかも知れない・・・欠片、でしかないのかもしれない・・・
でも、それは・・・もう、過去の欠片。
繋がる未来を持った彼には、新しい絆が作れるもの・・・」
少年に駆け寄る少女。
色白の肌を紅く染め、少年にそっと寄り添う。
見つめ合う二人。微かな嫉妬で胸を痛める私の前で・・・
二人は静かに・・・唇を重ねた。
「・・・あれが・・・彼の新しい絆なのね?」
二人目の私に、もしも肉体があれば・・・或いは、涙を流していたかもしれない。
胸を襲うのは、寂しさ。少年への祝福の影に去来するもの。
祝福・・・そう、私は・・彼の新しい絆を祝福している・・・
「ねえ、二人とも!雰囲気に浸ってないで、少しは手伝ってくれない!?」
一人目の私が苛立たしそうに言った。
「そりゃ、あなた達の気持ちも判るわよ?
ゲンちゃんはユイさんとヨリを戻しちゃうし、シンジくんはシンジくんでカノジョを作っちゃうし。
『女』のカスパーも、『母』のバルも、なんとなく寂しいのよねぇ?
で・も・ね!! サードインパクトの事後処理は、まだまだイ〜ッパイ残ってるんですからねっ! 遊んでるヒマは無いのよっ!!」
「え〜っ、だってェ・・・」
「だってじゃないでしょっ、バル! いくら親離れしたリッちゃんの代わりに・・・ってシンジくんを見守ったって、彼も親離れはするんだから!!」
「じゃ、ゲンちゃんはぁ〜?」
「あなたも一緒よ、カスパー。昔の男にいつまでもグジグジしないっ!!」
「「そりゃ、仕事がコイビトのメルは良いんだろうケドォ〜」」
「あ〜っ、もうっ! イイから働けぇ〜っ!!」
監視カメラへの干渉をやめ、しぶしぶ仕事に集中する、私とカスパー。
最後にチラッとケイジを眺め・・・
『ふふっ。・・・あなた達の子供も、私が見守ってあげるわ・・・』
17層の生体チップで。
少年と少女の幸せな未来に。
バルタザールは、カメラ越しの投げキッスを贈った。
なおのコメント(^ー^)/
これはレイちゃんではなく、MAGIのお話だったのですね。(^^)
中ではこんなやり取りがされているんだぁ。
と、思わず納得してしまう、バルちゃんのほほえましい、投げキッスでした。(^^)