ヨレたシャツの胸ポケットから、馴染みのヤツを取り出した。
両切りのラッキーストライク。もちろん、ソフトパッケージだ。
赤いテープを引っ張ってシュリンクパックを剥がし、スパイダルコの刃を親指で弾き出して、封印紙を切り裂く。
一日一回・・・デスクワークの日には一日二回のこの動作を、俺は何回くり返しただろう。
彼女の部屋のベランダで、雨に叩かれる夜景を見おろしながら。
湿度のせいか、普段より自己主張の強い紫煙を、溜め息と共に吐き出した。
夜のベランダから覗く室内は、微かな疎外感とセットになって、いつもより華やかに見える。
雨の夜に相応しい、濡れたように輝く、黒い髪。
夜昼の区別無く、太陽の眩さをふりまく、赤い髪。
晴雨の如何に関わらず、澄み切った空で周りを包む、蒼い髪。
リビングで思いのままに散らばって咲く、愛しい女性達を眺めながら・・・俺は再び・・・・・・
溜め息と煙を吐き出した・・・・・・
雨音に混じって、水たまりを蹴散らすタイヤの音が囁くように届いた。
平和と共に、テクノロジーは社会にばらまかれる。
・・・すっかり普及した民用S2機関は、かつて地上に君臨した内燃機関を、その個性的な排気音と共に古い地層へと放逐した。
・・・仕事のしにくい時代になったな・・・・・・
エンジン音で持ち主が判った古き良き時代を偲びながら、ガラス戸の向こう、玄関へと駆けて行く蒼い髪を見送る。
・・・そうか、今の音はシンジくんか・・・・・・
落ち着きを無くした赤い髪は、それでもソファを離れない。
二人の妹のいつもの姿に、俺は優しく微笑んだ。
右腕に蒼い髪の妻をぶら下げて、リビングにシンジくんが現れる。
二人の赤い顔から察するに、どうやら出迎えのキスは済んだらしい。
黒い髪の姉の頬に、恥ずかしそうに口づけよう・・・とするや否や、赤い髪の妻に割り込まれる。
シンジくんの顔が赤黒くなるまで続く、赤い妻の情熱的なキス。
酸欠で喘ぐシンジくんを、アスカが厳しく叱咤する。
困った顔のレイは、それでもアスカを止めようとしない。
我が妻ミサトがアスカをなだめ、ベランダの方を・・・つまり、俺を指さす。
ガチャリ!
アスカはシンジくんを引きずって、ベランダのカギを解錠し、開けたガラス戸から蹴り出して・・・
ガチャリ!
・・・再び、俺ごと閉め出した。
「キスさえしなけりゃ、誤魔化せるのにな。」
「はは・・・はぁ・・・仕方ないですよ・・・」
窓の向こうでは女が三人。
一人の妻と、二人の妻達が、愛おしそうに腹をさすっている。
「父親の自覚が足りないって、怒られちゃいました。」
「ふ・・・ん。二人とも身重じゃなぁ。」
手元の煙草を差し出す俺に、シンジくんは無言で頭をさげ。
「・・・スモーカーには、辛い雨だな・・・」
「でも、寒くは無いですよ。
・・・加持さんだって、そうでしょう?」
冷たい雨に震えながら。
ラッキーストライクをくわえた彼は、にっこり笑ってそう言った。
なおのコメント(^ー^)/
加持の「K」にしてしまいました。
蛍族……とも言いましたね。(笑)
最近、友人の一人が、子どもが生まれるので、とうとう禁煙に踏み切ったらしいです♪