広い・・・ただ広い無機質な空間。その中央に置かれた無味乾燥な机の前に、一人の男が座っている。 その瞳に、決して後ろを振り向かず目的に邁進する力強さを秘めて。 男は、その空間に佇んでいた。深い憂いをその身に纏って。 その傍らに、影の様に佇むもう一人の男。 その物腰には、長い年月を生きてきた人生の重みが感じられる。 「碇・・・。本当にそれでいいのか?」 黙して何も語らぬ男に問い掛ける。自分でも答えは分かっているのだが、もう一度聞かずには居れなかった。 「冬月副指令・・・。もう僕達には、これしか道が無いんですよ・・・」 そうだな、と諦めたように溜め息をつく冬月。その目は、隣に座る男の手元に向いていた。 その手の中に在るもの・・・「父さんへ」と書かれた一通の手紙。そこから、全てが始まるのだ・・・。 G-Impact! Volume1 誰が為に君は闘う 『ただいま、第三新東京市全域に非常事態宣言が発令されました。住民の皆様は速やかにシェルターへ・・・』 駅のスピーカーから、放送が高らかに鳴り響く。 そんな中、電車がホームに入ってきたかと思うと、一人の男がゆっくりと降りてきた。 かなりの身長があり、体格もがっしりしている。だが、真に人目を引くところは他にあった。 ・・・サングラスである。しかも黒ではなく薄めの赤。怪しいことこの上ない。 さらに特徴的なのが顎全体を覆う髭。真っ黒なその髭は、サングラスと相まって何人も近寄りがたい雰囲気を醸し出している。 ・・・はっきりいって、あまりお近づきになりたくないタイプであろう。本人はあまり気にしていないようだが。 「ふっ、公衆電話もだめか」 ためしに電話を持ち上げてみたところ、スピーカーから流れる声と同じセリフが繰り返されるだけ。 携帯はすでに試してある。しかし、こんなことで動じる男ではなかった。 何気なくポケットに手を入れる。中に入っていたのは一通の手紙。本来宛名がくる部分には、「父さんへ」とだけ。 封筒の中には、一枚の便箋と写真。もう一度じっくりと写真を眺める。 「むぅ・・・」 思わず唸り声を上げる。 写真に写っているのは一人の少女。あまりにもありふれた構図。しかし、ありふれているのは構図だけであった。 少女が持つ、透き通るような蒼い髪。全てを見通すかのように輝く真紅の瞳。 少女の無表情さが、それらを神秘的なものに昇華させていた。 「ふっ、シンジめ。なかなか・・・」 男が何か呟こうとする。だがその呟きは最後まで続くことは無かった。 ドカーーーーーーン! 爆発音とともに衝撃波がやってくる。何事かと見渡すと近くに戦闘機が落ちたようだ。 「ふん。物騒だな、最近は・・・」 仕方ないので避難をはじめる男。だが、駅を出たところで男は目を疑った。 ビルの合間に存在する異形のモノ。身の丈は数十メートルはあろうか。 周りを取り囲む戦闘機に攻撃されているが、まったく効果がないようである。 ギューーーーーン! 突然迫ってきた爆音に空を見上げると今にも墜落しそうな戦闘機がこちらへ向かってくる。 不味いと判断した男はとっさに身構える。 ドカーーーーーーーーン!!! 再び巻き起こる爆音、だが衝撃が彼を襲うことは無かった。 「碇ゲンドウさんね!?乗って!!」 何が起こったのかと前を見るといつのまにか青いルノーがとまっていた。どうやらこの車が爆風を防いでくれたようだ。 「確かにそうだが・・・。君は?」 車の中には黒髪も麗しい美女が一人、助手席のドアをあけてこっちを見ている。 「私は葛城ミサトっ!いいから、早くっ!」 「あ、ああ・・・」 なんだか分からないがとりあえずここにいては危険と判断し、車に乗り込む。 ドアを閉めきる前にホイルスピンを起こしながら勢いよく飛び出していくルノー。 あっという間に駅が遠ざかっていく。 「葛城君・・・といったな。あれは何だ」 駅からかなり離れ、危険は無いと判断したゲンドウは、ミサトに質問をぶつける。 「あれは・・・我々は、あれを『使徒』と呼称しています」 「使徒・・・だと?なぜあんなものが街を破壊している」 「それは・・・」 と、言いかけたとき、彼女の視界に使徒近辺の上空から散っていく飛行機が映る。 「なっ!N2を使う気!?まずいわっ!ゲンドウさん、伏せて!!」 彼女が言い終わらないうちに、N2が投下される。 ドーーーーーーーーン!! 巻き起こる爆風。そのあまりの激しさに、ルノーはあえなく横転してしまうのであった・・・。 「いっせーのーでっ!」 ミサトの掛け声とともに起こされるルノー。しかし、その損害は甚大である。 「なぜ私がこんなことをせねばならんのだ」 文句を言いつつも手伝わされたゲンドウ。サングラスにも少しヒビが入ったようである。 「ま、まあまあ・・・。そ、そんなことより今は車を動かすのが先決です」 「ふっ、そうだな。しかし、この状態では動かんだろう」 確かに、あれだけの衝撃を受けた車がすんなり動くとは思えない。 しかし、ミサトの表情はどこか生き生きとしていた。 「まっかせてください!」 ・・・10分後。辺りにあった車から手当たり次第にパーツを盗み、何とか動けるようになったルノー。 多少サスの具合が悪いのはご愛嬌といったところか。 「葛城君、しかし・・・いいのかね?」 「だーいじょうぶですって!これでも私、国際公務員なんで!」 「ふっ、そうか。なら問題ない」 問題大有りのような気もするがそこはゲンドウ、得意のセリフで方をつける。 「ところで、この車はどこへ向かっている」 「ジオフロント・・・そこにあるネルフ本部です」 「ネルフ・・・だと?なんだそれは」 記憶に無い名称を出され訝しがるゲンドウ。 「詳細は、これを・・・」 そう言うと緑色の小冊子を取り出すミサト。表紙には、「極秘 ようこそネルフ江」とかかれている。 「ふん・・・」 さして興味もなさそうにぱらぱらとページを捲る。 その間にルノーはゲートを通過し、ジオフロントへと入っていった。 「む・・・これがジオフロントか」 その広大な空間に多少驚きを隠せないゲンドウ。 ルノーを乗せたエレベーターは眼下の黒いピラミッド型の建物につながっているようだ。 しばしの後、下降が止まり、車から降りるよう促される。 「こちらです、どうぞ」 ミサトに先導されて道を歩いていく。 ・・・10分経過。 「・・・葛城君、まだ着かんのか」 「え?あ、えーっと、多分こっちだったような気がするんですけど・・・あははは」 「・・・迷ったのか。・・・葛城君、君には失望した」 ゲンドウの目が厳しいものへと変わって行く。 その目に見据えられ、葛城ミサト(29歳独身)は心の底から恐怖した。 「だ、大丈夫です!このエレベーターに乗ればきっと・・・!」 内心冷や汗を100リットルくらい流しながら壁のスイッチに手を伸ばすと、突然エレベーターのドアが開いた。 「あら、こんな所に居たのね。また迷ったんでしょう。・・・無様ね」 「げっ、リツコ・・・いたのね」 辛辣なセリフとともに登場した金髪の女性。眉が黒いので染めているようだが・・・ 『金髪黒眉か・・・ふっ、趣味が悪いな』 本人が聞いたら怒り狂うようなことを平然と考えるゲンドウ。当然口にするようなことはしないが。 たははと頭を掻きながらエレベータに乗り込むミサトにゲンドウも続く。 「で、この人がサードチルドレンの碇ゲンドウさんね?」 そういってゲンドウを見つめるリツコ。 「そうだ」 相変わらず無愛想に答えるゲンドウ。だがそれを見つめるリツコの瞳は怪しく輝いている。 『ああ・・・写真で見るよりずっと渋くていいわぁ・・・ゲンドウさぁぁん(はぁと)』 ・・・妄想の世界にどっぷり浸っているようだ。・・・放って置こう。 「だが、サードチルドレンとはなんだ」 先ほどのセリフにまたも聞きなれない言葉が混じっていたのを見逃さず尋ねる。 『あーん、声も渋くてす・て・き♪』 まだ妄想の世界から脱出できていないリツコ。 「ちょ、ちょっとリツコ!?どうしたの!?」 なにやらイっちゃってる目をしている親友の様子を見て慌てて肩を前後に揺さぶるミサト。 「はっ!・・・わ、私は何を?」 ようやくあっちの世界から帰還したリツコ。だが、まだ目は虚ろだったりする。 「サードチルドレンとはなんだと聞いている」 そんなリツコに厳しい目を向けるゲンドウ。相変わらず無駄に人を脅えさせる目である。 『ああ、そんな目で見つめられたら・・・!』 ・・・どんな世界にも例外はあるようだが・・・。 「は、はい!せ、説明が後ほどありますので、そのときに!」 ゲンドウに見つめられ(と本人は思っている)緊張し、どもりながら答えるリツコ。 そんなリツコに、ミサトは親友の始めて見る姿に目を丸くするのであった・・・。 「こちらです」 リツコに案内されてやってきたのは、真っ暗な空間であった。照明が落とされているので何一つ見えない。 「む・・・なんだ、ここは」 訝しがるゲンドウに答えるかのようにライトアップされる空間。 目もくらまんばかりの光に、薄目を開けて辺りを見渡すと・・・。 「!!」 そこには、紫色の巨大な物体があった。人型で肩より下は液体に使っている様だ。 だが、最も目を引くのはその顔にあたる部分・・・。鬼のような凶悪な顔をしたその姿は、見るもの全てに畏怖の念を与える。 「人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。人類の最後の希望です」 「・・・ふん、なるほど。これもシンジが関係しているのか?」 リツコの言葉に、半ば悟ったような口調で問うゲンドウ。 だが、その言葉に答えたのは彼女ではなかった。 「そうだよ、父さん」 声がしたほうを仰ぎ見ると、そこには一人の少年が立っていた。 艶やかな黒髪と中性的なその顔立ちは、少女といっても差し支えが無いほどだ。 その瞳に強い輝きを秘め、少年は言葉を続けた。 「父さん、来てくれたんだね・・・」 「・・・シンジか。何の用だ」 久しぶりの対面・・・そのはずなのに喜びを欠片も見せないゲンドウ。 威圧的な面持ちで息子の姿を見据える。 「手紙に詳しいことは書けなかったんだけど・・・今から説明するね」 ドガッ!ガーーーーーーン! シンジがそういったとたん、辺りを轟音と衝撃が包む。 「ちっ!ここに気づかれたわね!」 舌打ちをし、唇を噛むミサト。 「仕方ないね・・・。出撃の用意を!」 「そんなっ!パイロットが居ないのに!」 シンジの命令に食って掛かるミサト。 だが、シンジは冷静に言い放った。 「父さんに乗ってもらう」 「なっ!・・・無茶です!今着いたばかりなのに!」 納得できないと噛み付くミサト。 だが、親友の言葉は無情であった。 「他に方法が無いの。ゲンドウさんにやってもらわなければ私たちに未来はないわ」 ズガーーーーーーーン!! その時、更なる衝撃が襲い掛かる。衝撃に耐え切れず、鉄骨がゲンドウに向かって降り注ぐ。 ガガーーーーーン! 鉄骨がぶつかる衝撃音。だが、鉄骨がぶつかったのはゲンドウでは無く・・・ 「?!エヴァが、ゲンドウさんを守った?!・・・いけるわ!」 「そんな!?エントリープラグも挿入してないのよ!動くわけが・・・」 そう、鉄骨がゲンドウにあたる直前、初号機の腕が彼を庇ったのだった。 「ゲンドウさん、やって・・・くれるわね?」 「ふっ、下らん。何の用かと思えばそんなことか。私には関係ない」 期待を込めてたずねるミサト、だがゲンドウの反応は冷酷だった。 「そんな!父さん、お願いだよ!」 慌てて父を説得するシンジ。だが、ゲンドウがそんなことで考えを曲げるはずも無い。 「シンジ。おまえには失望した。このくらい自分で何とかしてみろ」 「なんとかって・・・。じゃあ、どうしてもだめだって言うの?!」 「くどい」 そう言うと通路に向かうゲンドウ。 「くっ・・・。仕方ない、綾波を呼んで!」 その声に、まるで待ち受けていたかのように運ばれてくるベッド。 その上に寝ている少女は、何とか体を起こそうとするが、怪我がひどくうまくいかないようだ。 「くっ・・・」 少女のうめき声にその目を向けるゲンドウ。 「むうっ!」 驚きのあまり声も出ないゲンドウ。 『こ、これが綾波レイかっ!・・・うむっ!』 少女は看護婦に抱き起こされ、何とか立つもののすぐに崩れ落ちる。 「レ、レイっ!」 だが、ゲンドウのその声に反応することも無く少女は苦しそうにうめいている。 『わ、私のレイになんということを!シンジ、失望したぞ!』 「シンジ!レイを、レイを乗せると言うのか!」 シンジに食って掛かるゲンドウ。 「・・・だって、仕方ないじゃないか!父さんが乗ってくれないんなら、綾波しか居ないんだよ!」 「そうか。なら、私が乗ろう」 さっきの態度はどこへやら、いつのまにかやる気満々のゲンドウ。 「え!?ほ、本当に乗ってくれるの!?父さんっ!」 「ああ、問題無い」 そう言い放ちニヤリと笑いを浮かべるゲンドウ。 「ありがとう、父さん!よーし、出撃用意っ!」 時に、西暦2015年。人類の未来は、一人の男に委ねられたのだった・・・。 続く あとがき みなさん、こんにちは。integralと申します。初投稿なんでちょっと緊張しておりますが、これからもどうぞよろしく。 さて、今回読んで頂きましたこの話、読んでのとおり本編再構成物です、が・・・ シンジとゲンドウの立場が入れ替わっている、というものです。 と、いうことは・・・LAG(アスカ×ゲンドウ)やLRG(レイ×ゲンドウ)なんてこともっ!? ・・・いや、新参者でこの設定は危なすぎるんでたぶんありませんが。 私の電波的妄想の中で始まったこのお話、どんな話になるか自分でもさっぱり分かりませんが、 徒然なるままに書いていきたいと思います。 それでは、何とか最後まで終わらせられることを祈って・・・。 P.S.メール頂けたら嬉しいなぁ・・・。もちろん返信率99.99999999%ですっ!(100億通来たら一回出さなくていいのか・・・)