■ チャンネル ■





「良い月夜でござるなぁ・・・」

障子を細く開け、雲一つない夜空に浮かぶ黄金色の月に目をやって剣心はほぅと感嘆の溜め息を吐いた。

傍らには幼子を寝かし付けてそのまま一緒に眠ってしまった今は妻となった薫が居る。

長い髪は変わらず頬にあどけなさを残しつつもすっかりと色香の漂う大人の女性に変貌を遂げた佳人は未だ神谷活心流の看板を背負っている。

剣心は自分が門下生に稽古を付けられぬ事を申し訳なく思いつつも、細腕で頑張ってくれている薫に感謝の念が絶えなかった。

指先を伸ばしてさらりと肩口から流れ落ちる黒髪を撫でる。

起きる気配の無い薫の柔らかな頬を辿り優しい稜線を描く唇を辿り決め細やかな肌を辿る。

愛しい人。

月明かりにほんのりと光を放ち剣心の瞳を釘付けにする存在。

「薫殿・・・?」

呼べばいつだって応えてくれる愛しき唇はその夜もその事実を知らしめてくれた。

「・・・剣心?」

「あっ。起きてしまったでござるか・・・」

そんなつもりは毛頭無かったのに。

今更言い訳じみた言葉を口にするのもおこがましく思え申し訳無さそうに頭を掻く。

「済まぬでござる。薫殿は疲れているというのに・・・」

「大丈夫よ。これくらい。」

にっこりと大輪の花が開くように微笑むと、幼子を起こさぬようにそっと上体を起こす。

寝乱れてしまった衿をそっと直す仕種がとても剣心艶やかで剣心は目を奪われた。

「・・・やだ、剣心。何処見てるの?」

さほど怒ってはない口調。

子供を窘めるように優しく咎める薫に剣心は困ったように頬を染めた。

我が子をちらりと伺うと起きる気配もまったく無く良く眠っている。

これならばきっと大丈夫。

「薫殿・・・?」

求める声は震えこそしてはいないがか細くて少し情けなかった。

それでも彼女は其れをからかう事無く視線で応えてくれる。

伸ばした指先は白魚のような細い指に絡め取られ近づけた唇は違う事無く柔らかな桜色の唇に着地した。

「・・ん」

熱い吐息を漏らさぬように優しく口付ける。

チャンネルを切り替えるようにたまには恋人の顔を見せて欲しい。

我侭な剣心の心はそう望んでいて・・・

其れを見透かしたように望みを叶えてくれる薫にふわりと剣心は微笑みを浮かべた。



■ END ■



  

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