* NEVER END *


薫の日に日に大きくなっていくお腹を剣心は厳粛な気持ちで毎朝眺める。
本当は手を当てたり耳をくっつけたりして新しい生命の息吹を感じたいと思っていたが、何だか恥ずかしくて言い出せないでいた。
薫が時たま悪戯っぽく笑って触らせてくれる時もあり、そんな時は本当に自分達の周りの空気がきらきらと輝いている気がした。
「剣心?またボーッとしてんだろ?」
弥彦の揶揄するような声に現実に戻された剣心は、照れ臭いのをどうにも隠し切れずに眉を八の字に寄せた。
「済まんでござる。」
ここ最近ぐっと大人びてきた弥彦は手をひらひらと振り「別に良いけど」と軽い口調で言った。
弥彦の打ち込みの相手をしていた剣心は幸福な雑念を頭から追い払いキチンと弥彦に向かい立つ。
弥彦もすっと日が陰るように気を引き締めるとまた鋭く打ち込みを始めた。

「名前何にするか考えたのか?」
「まだでござる。何だか今はそういう事が考えられなくて駄目でござるよ。」
道場の壁に寄り掛かり稽古後の休憩を取っていると、外からは鈴虫の声が聞こえてきた。
何を喋るでもなく、でも心が満たされている。
既に拙者達は『家族』なんだと剣心はくすぐったいような気持ちで感じていた。
「薫はなんか考えてんのかな。」
「考えてるようなんでござるが、内緒と言って教えてくれないんでござる。」
「秘密主義だよなあ。大体女って秘密多すぎんだよ。」
そう思わねぇ?と真面目な表情で尋ねられ、剣心は吹き出してしまった。
弥彦が笑う剣心にムキになって詰め寄る。
「何だよ。何がおかしいんだよ!」
「いや、弥彦もそんな事を言い出すようになったんでござるなあと・・・」
「剣心!忘れてるかもしんねーけど、俺だって成長してんだ。それを笑うか普通!」
剣心が言外に、弥彦も女性の事を言うような年頃になったんだなぁと匂わせた事を正確に読み取ったらしく、弥彦は真っ赤な顔をして怒った。
なかなか笑いが納まらない剣心に「いつまでも笑ってろ!」と捨て台詞を残し、弥彦は道場を足音高く出ていってしまった。
「参った。怒らせてしまったでござる。」
剣心はさほど困っていない顔で呟いた。
「剣心?弥彦帰っちゃったの?」
薫が道場の戸の影から顔を出した。
「ちょっと怒らせてしまったんでござるよ。」
「へぇ。珍しいわね。剣心が人を怒らせるなんて。ま、弥彦の方もその理由だけで帰って行ったんじゃ無いと思うけど。」
「赤べこでござるか。」
「結構ちゃんとアルバイトやってるみたい。なーんか何時の間にか大人になっちゃってるんだもん。嫌になっちゃう。」
薫は頬を膨らませて剣心と同じような事を言った。
「拙者と同じような事を言ってるでござるなあ。」
「?」
薫はきょとんとした顔をしたが、意味を悟って蕩けるような笑顔を見せた。
「だって夫婦だもの。」
剣心はその邪気の無い無敵の先制パンチにノックアウトされ顔を覆った。
そうしないと赤くなった顔を薫に見られてしまうからだったが、薫はそんな事先刻承知とばかりに剣心の隣にそっと座った。
「まーだ照れてる。いい加減に慣れて欲しいなあ。」
「いや、慣れる慣れないの問題ではないんでござるが。」
「じゃあ、何?」
「つまり・・」
なんて言えばこの気持ちを上手く伝えられるんだろうと剣心は途方に暮れてしまった。
元々言葉を巧みに操るタイプの男ではないのだ。
「別に無理して教えてくれなくて良いよ。」
薫がほっそりとした手を剣心の手に重ねる。
仄かな体温が心地よくて、剣心は惹かれるように薫を見た。
「貴方が幸せならそれで良いの。」
その穏やかな口調が、今までの辛酸難苦の日々の結果なんだと剣心は胸の打たれるような想いが心の奥底から沸き上がった。
目尻がじーんとするのを隠すように俯いた剣心に薫が「どうしたの?」と優しく声を掛ける。
剣心は無言で薫の膨らんだお腹に耳を寄せ目を閉じた。
「幸せでござるよ。」
生まれてくるこの子も幸せであるように。
祈るような気持ちで剣心は確かに息づいている新しい生命の息吹を感じていた。

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*NEVER END*後書き*          

るろうに剣心の1作目。と言いつつも、
同人誌のほうに2作品ほど書いているので実質3作目です。
「幸せならそれで良いの。」という台詞を言わせる為に
書きました。
しかし剣心薫作品だというのに弥彦の良い男っぷり健在!
剣心もなんだか可愛くなっちゃって嘘臭いです。
次は是非新婚甘々を!(どこかで書いたフレーズ・・・)