チリンチリ〜ン………

そよそよと流れる風に揺らされて、風鈴が涼しげな音を立てる。
実際、9月に暦が代わってから急に風が冷たくなり、過ごしやすい日々が続いていたのだけれど。
「気持ちいい風ね………」
「薫殿」
背後に優しい気配を感じて振り仰ぐと、陽射しに目を細めつつ、眩しそうに外を眺めて薫がいる。その手には、きっと冷えているだ。
ろう麦茶の入った湯呑みが二つ乗っているお盆がある。
「隣座ってもいい?」
「もちろんでござる」
何を今更遠慮しているのか?と笑いながら隣を指すと、薫は先にお盆を下においてから、小さく笑って隣に腰を降ろした。
「薫殿、どうしたでござる?」
「ん?別に?はい、麦茶。井戸で冷やしておいたから冷たい筈よ。」
「有り難う……………よく冷えているでござるな」
「そうでしょう?」
自分の感想に嬉しそうに微笑んでから、薫も麦茶を一口含む。
「冷たいでござろう?」
「うん。やっぱり夏は冷たい麦茶が一番ね!」
本当に嬉しそうな笑顔を見て、自然と自分の頬も緩まる。
「で、薫殿。先程は何故笑っていたのでござる?」
「え?ああ。あのね、怒らないで聞いてね?」
「ああ。」
「さっき、ふと思ったの。縁側で外を眺めながらお茶を飲むなんて、なんか長年つれそった老夫婦みたいだな、なんて……………」
「……それは、拙者がジジクサイって事でござるか?」
違う事は分かっていても、敢えて少し気落ちした声で問うと、案の定薫は慌てて身を乗り出してくる。
「だから怒らないでね、って言ったのに〜!(汗)そうじゃなくって、ゆったりと好きな人と二人で過ごせるのが幸せだな、って事を言いたくて………あの、その……………」
思わず言ってしまったらしい言葉に頬を染めておろおろしている。
薫が可愛く、そしておかしくて、我慢しきれずに笑いが漏れて出る。
「っく……くっくっく(笑)」
「け〜んし〜ん………」
「すまんでござる。薫殿が余りに可愛くて………」
「え?」
途端に更に顔を赤くする薫。
「………っくっくっく(笑)」
「剣心!」
からかわれたと思って手を振り上げる薫のその手を取り、ニッコリと駄目押しの言葉を告げる。
「からかってないでござるよ。今のは拙者の正直な気持ちでござる。」
「……………や、やあね、剣心ったら!何か悪いものでも食べたの?」
慌てて手を引き戻そうと力の込められた手を逆に引き寄せて、至近距離でその視線を捕らえる。
「昨夜から薫殿と同じ物しか口にしてないでござるし、暑さにボケているわけでもないでござるよ。他に知りたい事は?」
自分でも「意地悪い笑みをうかべているな」と思いつつ、薫の瞳を真っ直ぐに見つめる。
薫は普段にない自分の態度に瞳を揺るがせている。余りに急すぎたか?
「薫殿?」
「……………」
「か、薫殿?!」
突然はらはらと涙を流し始めた薫に驚いて、思わず捕らえていた手を放し、麦茶のった盆をどかしてから薫の身体を引き寄せて抱き締める。
「剣心の意地悪〜………」
「……………」
自分の腕の中で涙を流す薫の言葉に、自分は何も返せない。確かに、少し事を急いたやもしれぬ。泣かせるつもりなんてなかったのに……………。
『参ったでござるな……………』
予想外な反応にトホホと項垂れたその時。
「意地悪な人にはこうよ!」
「?………!」
突然、薫が微かに濡れた瞳のまま顔を上げたと思ったら、頬に訪れる柔らかな温もり。
「か、薫殿………?」
驚きに抱き締めていた腕を片方解き、温もりの訪れた頬を抑えると、薫が自分の腕から逃れつつ、小さく笑った。
「人を驚かせた仕返しよ!」
「……………」
「麦茶、片付けてくるね。」
言うが早いか、薫はお盆を持って立ち上がり、歩き始める。
『やられたでござるなぁ……………』
薫の方から初めてしてもらったとはいへ、頬への口付けくらいで慌ててしまう自分が妙におかしくて、自然と苦笑が漏れる。
「あ、剣心!片づけ終わったら、一緒に買い物行こうね!」
ふと気付いたように、薫が立ち止まって自分を振り返る。
その笑顔には、もう既に先程の出来事の影はない。
「………承知したでござる。」
小さくクスリと笑ってから、頷きを返すと、薫はニッコリと笑ってからまた歩き始めた。

「まったく………適わないござるな、薫殿には……………」
自然とこみ上げてくる小さな笑いを止めもせずに、そう呟いてから上体を倒して寝転がる。
『一回り近く年の離れた少女にこうも弄ばれようとは………』
「ふがいない、でござろうか………?」
呟いてみて、そのおかしさにまた笑いがこみ上げる。
べつに構わないではないか。幸せを感じられるのならば、例え誰かにふがいないと思われようが、そんな事は全然問題ではない。
ただ、頬への口付けくらいでとまどう自分を可愛く思って笑えばいいだけだ。
「さて、それでは出掛ける用意をするでござるか。」
よっ!と勢いをつけて上体を起こし、立ち上がる。

チリ〜ン……………

爽やかな風がまた、神谷家の風鈴と戯れて流れていった……………。

 

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春日様、小説有難うございましたvv