内緒







机の中央には半分ほどの背丈になった蝋燭。

赤々と燃える火をカルシファーと比べるのは可哀想だが、その明るさはマルクルの手元の紙を照らすには充分だった。

向かい合った席にはソフィーが座り、手元をせっせと動かしている。

寒い冬に備えておばーちゃんのショールを作っておこうという優しい気遣いが、編み込む毛糸がしっかりと目が詰まっている事からも窺えた。



「ソフィー。」

「はい。」



互いに伏せていた顔を上げ視線を交わすと、マルクルは鉛筆をことんと机の上に転がした。

それは課題に取り組むのを一時止める、つまり休憩するという事の合図だった。

ソフィーはマルクルに冷たい飲み物を出す為に立ち上がり、用意しておいたフレッシュジュースをガラスのグラスに注いだ。

やがて床に付かない両足を振り子時計の振り子のように振りながら、大人しく待つマルクルの目の前にグラスが置かれた。

美味しそうに飲むマルクルを見ながら、ソフィーも自分用に注いだグラスから一口それを飲む。

濃厚な甘さが喉をとろりと潤した。



「僕達って家族だよね。」

「そうね。家族よね。」



心地好い沈黙を破ってマルクルが口を開き、ソフィーがそれに答えた。

その言葉を口にする時、マルクルは未だに恥ずかしそうにはにかむし、ソフィーは胸に込み上げる温かな気持ちに促され柔らかく微笑む。

指先で、課題が書かれた紙の角を弄りながら、マルクルは深呼吸を一つしてソフィーを真っ直ぐに見詰める。

マルクルがちょっとした緊張状態にあるのを、ソフィーは気付いた。



「ねぇ、ソフィー。ヒンの事、好き?」

「好きよ。」

「おばーちゃんは?」

「勿論、好き。」

「カルシファーは?」

「好き。色々助けて貰っちゃってるのは抜きにしてね。」

「僕は?」

「好きよ。」



答えを聞いて頬を緩めるマルクルに、ソフィーはくすっと声を零して笑った。

言葉遊びのような問い掛けを繰り返す無邪気なマルクルに、ソフィーは過去の自分もそうだったっけなどと考えながら付き合う。



「隣の国の王子様は?」

「カブの事?そうね、好きよ。だって命の恩人だもの。」

「ソフィーのお母さんの事は?」

「色々有ったけど、母親を子供が慕うのは当然だから。好きよ。」

「ソフィーの妹は?」

「昔は手が掛かったけど、今は逆に私が心配されてるわね。レティーの事、好きに決まってるわ。」

「じゃ、ハウルさんは?」

「・・・」



ソフィーはちょっと考える素振りを見せ、それを見たマルクルがぎょっとした表情をする。

妙な緊張がマルクルの体を一瞬で包んだが、ソフィーはそれに気が付いているのかいないのか、未だ上目遣いに天井を見詰めながら考え込んでいる。

数秒が、数十秒になり、時計の長針が動いた頃、マルクルは泣きそうな顔になった。



「ソ、ソフィー。」

「う〜ん。分からないわ。もしかしたら、私、ハウルの事あんまり好きじゃないのかしら?」

「ソフィー!」



悲鳴のようなマルクルの叫び声に重なって、二階からガタタタタンッという大音響が鳴り響いた。

重いものが木の床に落ちたようなその音に、マルクルの足元で丸くなって寝ていたヒンが飛び起きる。

ソフィーは慌てず騒がず、首を上げて二階の方を見遣ると、小さく息を吐いて「やっぱり。」と呟く。



「マルクル、ハウルに頼まれたんでしょ?その質問。」

「・・・はい。」



お見通しだったのかと、マルクルは観念して小さく身を縮めた。

大好きなソフィーに嫌われたのだろうかと、つぶらな瞳でこちらを窺う様子に、苦笑が零れ落ちる。



「そして、それをハウルは二階でこっそり聞いていたのね?」

「・・・はい。」



でも魔法じゃないですよ!と何故かマルクルが必死になって擁護しているのが、師弟の絆かしらとつい微笑ましくなる。

それとも、『男同士』という方なのかしら?

小首を傾げて、ソフィーは机の上に肘を突いた。

可憐な印象の少女は、もう一度二階を眺めて、ごそごそと這い擦り、床を突き、そして歩き出す何かの気配を感じる為耳を澄ませた。

よたよたと危なっかしい足音を耳にして、ソフィーはマルクルの耳に内緒話をこっそりと吹き込んだ。

きっとこの声はハウルには届かない。



「ハウルって本当に臆病よね?自分で聞けば良いのに。」



楽しそうにソフィーが笑って、マルクルはじゃあ・・・と続ける。



「ソフィーはハウルさんに聞かれたら、『好き』ってちゃんと言ってあげるの?」

「さぁ。どうかしらね?」



悪戯っ子の瞳でソフィーはそう返し、階段の一番上の段に見えた靴先に視線を転じた。









end