冷たいと思わないかい?







「ソフィーってさ。冷たいと思わないかい。」



ぼそっと呟くハウルさんは、僕に同意をしてもらいたい訳ではなくて、どうも愚痴りたいだけみたいだった。

ソフィーが来る前と来た後では段違いにその綺麗さが違う部屋の中で、これまた綺麗に表面が拭かれた木の机に向かい合って僕とハウルさんは座っている。

ハウルさんは愁いを帯びた表情で、振り向かないソフィーの背中を見て、肘を突いて手の平に形の良い顎を乗せた。



「僕が呼んでも返事をしてくれるのなんて、10回に1回だし。」



それは・・・

用も無いのにソフィーの事呼んでばかりだからソフィーが怒っちゃって、それにも懲りずにソフィーの事呼ぶもんだからソフィーがハウルさんの声を聞き分けるようになっちゃって、本当に用事がある時にしか返事しないからだと思う。

つまり、ハウルさんは10回に1回しか必要でソフィーを呼んでないって事なんだけど。

ハウルさん気付いているのかな?



「手を繋ごうとしたら振り解かれるし。酷い時なんて突き飛ばすんだよ?!信じられる?」



それも・・・

ソフィーは凄く恥ずかしがりやだから、外でハウルさんと手を繋ぐの我慢出来ないくらい恥ずかしいからだと思うな。

ただでさえハウルさんって人目を引く格好良さだから、何処に行っても目立っちゃうし、ソレに加えて手を繋ぐだなんて「注目して!」って言ってるようだし。

そういうの、ソフィー凄く苦手だって前に言ってたから。

突き飛ばしたのは、ソフィーがやっぱりやり過ぎだと思うけど。



・・・本当にそれ、手を繋いだだけなのかな?

ハウルさんってソフィーに対しては抱き付き魔でキス魔だったりするから、そういう事したんじゃないかな〜。



「僕が買ってきたプレゼント、開けるだけで使ってくれないし。」



う〜ん。

僕も前にソフィーの部屋で見た事あるけど、ハウルさんのプレゼントって色々問題があるからな〜。

家事をするには不向きのフリルが一杯付いてるドレスでしょ?

悪い虫がソフィーにくっつかないようにするお呪いが掛かった置物は、ちょっと飾っておくには怖い形相の石像だったし。

あ、でも、手が荒れないようにってプレゼントされたクリームはソフィーちゃんと使ってるし。

嬉しそうに話していた綺麗な紅い石が付いたネックレスは、ドレスの下に隠れてるけどちゃんと身に着けてるし。

見えないから、ハウルさんきっとソフィーがちゃんと着けてるって知らないんだ。

今度教えてあげなきゃ。



「冷た過ぎるよ。ソフィーは。ああ、僕は今世界一不幸な恋する男に違いない。」



ハウルさんは怒鳴ってる訳でも叫んでいる訳でもないけど、凄く通る声だから、その言葉は僕だけじゃなくて水周りの掃除をしているソフィーにも筒抜けだった。

僕に愚痴っていると見せかけて、実は間接的にソフィーに対して愚痴を言っている事になる。

ソフィーは反応らしい反応も見せずに黙って掃除を続行している。

ハウルさんはそれと確認して、恨めしそうに天井を仰いだ。



「・・・反応無しだよ。マルクル。この作戦は失敗だ。」



今度は本当のひそひそ声。

まるで作戦会議みたいな雰囲気で、ハウルさんは机の上に身を乗り出し僕の耳にだけ届くようにボリュームを下げたくすぐったい声で囁いた。

これ、作戦だったのか。

僕はちょっと驚いていた。



「敵は手強いなぁ。さすがの僕もちょっと打つ手が見付けられない。」



そうは言いつつも、ハウルさんはとても楽しそうで、僕は何故かほっと安心してしまった。



「マルクルに何か考えはないのかい?」



本気なのか冗談なのか判断出来なくて返事に詰まっていると、ハウルさんは勝手にうんうんと頷いた。



「マルクルにも考えが浮かばないか。これは困ったね。」



ちっとも困ってなさそうな雰囲気でハウルさんが笑う。

僕も釣られて笑ってしまって、二人でこっそりソフィーの振り向かない背中を眺めた。







ああ、家族って良いな。









end