大切な人だから





「ねぇ、レティー。今日の仕事終った後会わないか?」

「レティー、今日も綺麗だね!」

「君の為なら毎日でもチョコレートを買いに来るよ。」



今日も私の周りは人だかりで、常に私は大忙し。

勿論それは私が望んだ事で、毎日忙しく働いていると充実した生活だなぁと嬉しくなる。

私の名前はレティー・ハッター。

カフェ・チェザーリの看板娘。

コレは多分、自惚れじゃないと思うの。

お母さんが器量良しに産んでくれたから、元は良かったし、ソレに加えて努力もうんとしたわ。

何時でも笑顔、仕事は要領良くてきぱきと。

簡単なようで難しい事を常に念頭において心掛けたから、結果に繋がったんじゃないかなって思ってる。







そんな私の心配事はおねーちゃんの事。



私の自慢のおねーちゃんは、長女だからという理由だけでお父さんが遺した帽子屋を継ごうとした程、固定観念に捕われた頑固者。

それに、なんというか・・・

褒め言葉は率直に聞き入れてくれないくせに、理不尽な要求や場違いな非難は何故か受け入れてしまったりする、人生損をしてるんじゃないかと心配になる人で。

私はいつもなんだかじれったくてやり切れなかった。



おかーさんも悪いのよ。

全部おねーちゃんに押し付けて若い男の人と遊び回って、家の事なんかお構いなしで、おねーちゃんは我慢して強くならざる得なかったんだから。

おねーちゃんは妹には凄く甘いと思う。

怒る時は滅茶苦茶怖いけど、私が泣いたら必ず飛び切り美味しい手作りのお菓子と甘い蜂蜜入りのミルクを入れてくれた。

雷が鳴る夜は一緒のベッドで寝てくれたし、お気に入りの熊の縫い包みを破いてしまった時は器用な手先で繕ってくれたし。

本当に何でも出来る自慢のおねーちゃんなんだから。







そのおねーちゃんが、なんとあの『ハウル』と一緒に暮らしてると知った時の、私の衝撃って分かる?



その驚愕の事実を告げられる前にも、沢山の驚きはあったの。

おねーちゃんの髪の毛が肩までに切り揃えられていたり。

その髪が凄く綺麗な銀色に染まっていたり。

おねーちゃんの趣味らしからぬ明るい色合いのドレスを着ていたり。

表情が全体的に豊かになって、魅力的な笑顔が零れ落ちる回数が増えてたり。



今思えばあの驚きは可愛いモノだったわ。

喜ぶべき変化に吃驚していた私を、一瞬にして混乱に陥れたおねーちゃんの問題発言が、つまり悪名高き魔法使いハウルとの同居宣言だって訳。







ああ、おねーちゃん?!

何でハウルなのよ?

珍しいとは言いつつも、探せばそこそこ魔法使いなんて見付かるというのに、よりによってあの『ハウル』だなんて!



悪名高き魔法使い。

美女の心臓を喰らうという噂は誰もが一度は耳にしている。

若い女が大好きで、彼の仕事は女と付き合う事だなんて、やっかみが混じるものもあれば、その若さと美貌を保つ為の呪いに女の心臓が必要なんだという狂人じみた噂までバリエーションは多いけど。

つまり若くて綺麗な娘さんは気を付けなさいという教訓が付いて回るこの噂を、おねーちゃんには何度も何度も言い聞かせたというのに?!



全然おねーちゃん分かってなかったんだ!

私の心配は大的中・・・ああ、全然嬉しくない!



おねーちゃん、男の人に全然免疫がなかったから騙されちゃったのかしら?

・・・有り得る!



でもな〜。

おねーちゃんを見初める男の人は結構多くて、(そりゃ私よりは少なかったけど)、そういう人たちに言い寄られた事だってあるのに、おねーちゃんはとても頑なにソレを拒んだ。

「長女だから」って、おねーちゃんソレ全然理由になってないから!

その事実からすると、おねーちゃんは甘い言葉にぽぉっとなるような事は無いと思うしな〜。



じゃあどうして?

もしかしたら、おねーちゃんは凄くしっかりしてるし、帽子屋としてお客さんとのやり取りだって数多く経験してるから、人を見る目は養われてる訳で。

そのおねーちゃんが、噂は噂、本人はそういう人間じゃなかったって、見極めたという事かな?

そっちも有り得る。



・・・ああ、らちがあかないっ!

あたしが実際に会って確かめれば良いんだわ!







おねーちゃんがハウルの外見や魔法に惑わされて一緒に暮らしてるなら、おねーちゃんは奪い返す。

懇切丁寧に根気良く説明すれば、おねーちゃんだって目が醒めるってものよ。



でも。

『ハウル』が噂とは違う人物で、だからこそおねーちゃんが一緒に暮らしているなら・・・

おねーちゃんに相応しい人物かどうか、私が品定めする。

大事なおねーちゃんを、そんじゃそこらの男にはやれないもの。

ちゃんとおねーちゃんを幸せにしてくれる人じゃなきゃ。











「ねぇ、おねーちゃん?何時遊びに行っても良い?」



あの衝撃の日から2回目の訪問時に、胸を張って勧められるチェザーリのチェリーパイを二人で向かい合って突付きながら、そう切り出した。

ちょっと困ったようにおねーちゃんは笑う。



「レティー忙しいでしょ?お休み取れるの?」

「勿論!おねーちゃんの為だもの。お休みもぎ取るわよ。その分は普段働いているし。」

「そう?ん〜。一応ハウルとマルクルとおばーちゃんに確認取らないと。」

「あ、おねーちゃん。言っておきますけど、ちゃんと皆が揃ってる時に呼んでね。特にハウル!あたしが来るからって追い出したりしないでね。」



図星を指されたのか、おねーちゃんは黙り込んでティーカップを持ち上げて誤魔化している。

ああもう!やっぱりあたしに見せられないような人間なのかしら?

猛然と闘志が沸いて来た。

でも何処かドキドキワクワクしてる。

だってもしかしたら『お義兄さん』になるかもしれないんだもの。

だからあたしは弾んだ声でこう宣言した。



「おねーちゃん。覚悟決めておいてね。」



さぁ闘うわよ!







end