孤独と我侭



溜息が零れた。

それは硬質な塊で、ころころと平面の床を転がっていく。

見えないソレをハウルは目で追って、それも飽きるとぼんやりと窓の外の蒼を見上げた。



「魂、抜けてるぞ。ハウル。」



散歩から戻って来たカルシファーがからかい混じりに話し掛けても、応えは無い。

この炎の悪魔に肩が有ったならば、きっと器用に竦めて見せただろう。



「ソフィーが居ないと、おまえ本当に駄目だなぁ。」

「ああ、そうさ。カルシファー。彼女が居ないと僕は火が消えたランタンみたいなモノさ。」

「まるで役に立たない?」

「熱が無い、という事さ。」



その心は?の答えはハウルにはお気に召さなかったらしい。

きっちり訂正を入れてから、力無くテーブルの上に彼は状態を崩折れさせた。

金髪は丁寧に手入れされている為、さらさらと音も無く肩を滑り落ちる。

天使の輪が浮かぶその美しい髪に、手櫛を通したいと思う乙女は多いだろう。



「ソフィーは何時戻って来るんだろう?」

「さぁなぁ。でも日が暮れてからだろ。」

「そんなに待てないよ!」



叫び声と共に長身を跳ね起こすと、ハウルは見えない何かを威嚇するように宙を見据えた。



「ソフィーはちっとも僕の事を構ってくれない。マルクルやマダムやヒンや、下手したらカルシファーよりも僕はソフィーにとって下なのかな?!」

「知るかよ。」

「ああ、あんたは心臓を共有していた僕になんて冷たい炎なんだろう?僕が今どんな気持ちで居るか分かってるかい?働き者のソフィーに朝から晩まで放って置かれ、夜は夜で僕を尻目に一人でさっさとベッドに潜り込む。たまに家事を休むかと思えば、可愛い妹に会いに出掛けて行ってしまう!!!ああ、一体何処に僕の入り込む隙があるっていうんだい!これは立派な苛めだよ!」

「あんた、煩いよ。良い年した大人がみっともない。」

「みっともないとかそういう問題なもんか!重要なのはソフィーが僕の事をどう思っているかなんだ。」



悲劇の主人公みたいに嘆くハウルに、カルシファーは聞えない様にぼそりと呟く。

ソフィーがハウルをどう思ってるかだって?

そんなの明白じゃないか。

大事にしてるに決まってるし、愛しいと思ってるに決まってる。

ソフィーがハウルを避け気味なのは、それは単に恥かしがってるだけ。

人でさえ無いカルシファーにだって分かるのに、何故こんな簡単な事実が目の前の優秀な魔法使いには分からないのか、それはきっと世界最大の謎なんだと、カルシファーは呆れるばかり。



「迎えに来るなだなんて、ソフィーはきっと僕を疎ましく思ってるに違いない!あんなに綺麗な僕のソフィーに悪い虫でも付いたらどうしてくれるんだい!」

「おいらが知るもんか。」

「カルシファー!僕は禁止されてるからあんたがソフィーを迎えに行くんだ!」

「はぁ?!」

「それが良い。ちゃんとしっかりソフィーの回りに変な男が群がらない様に見張っておくんだよ。それから夜道は寒いからソフィーが凍えてしまわないようにちゃんとその炎で温めてやってくれ。良いね?」

「・・・行きたいんだろ?ハウル?我慢しないで迎えに行けば良いじゃないか。」



カルシファーの声にハウルはとんでもないという顔で手を一振りした。



「迎えに来るなという言い付けを破る事になるじゃないか!カルシファーはソフィーに僕が嫌われろと言っているのかい。そんなの絶対御免だね。」

「ソフィーはそこまで狭量じゃないぞ。」

「危ない橋は渡らない主義なんだ。僕は弱虫だからね。さぁさぁ早く行き給え!ソフィーが待ってるよ。」

「待ってないと思うぞ。それに未だ日も暮れる気配が無い。」

「あんたが迎えに行ったらちょっとは早く帰ろうかなぁという気になるだろ?ほら、早く!」

「結局の所、あんたはおいらを使ってソフィーを早く取り戻したいだけなんだ。」



ぶつぶつ言いながらも、魔法を使われちゃ堪らないと、カルシファーは軽やかに宙を舞い窓から飛び出した。

痛いほどハウルの視線が突き刺さる。



寂しさのあまり溶けだしかねない魔法使いの結構切実な願いを受けて、笑みを浮かべながらカルシファーはソフィーの元へと急いだのだった。









end