それは秘密



「ねぇ、ハウル。」

「なんだい?ソフィー。」



暖かな暖炉の傍で二人は椅子に座って向かい合っている。

カルシファーは眠っているのか先ほどからあの特徴ある声で二人の会話に入っては来なかった。



「あの時、ハウルは気付いていていたの?」

「あの時ってどの時?肝心な所が抜けてるじゃないか、ソフィーってば。」



指摘された内容に、ソフィーは少し顔を赤らめた。

勿論今更ハウルの白皙の美貌に目が眩んだからではない。

自分の言葉の足りなさを恥じての事だ。



「私がチェザーリのお店に向かう途中に、絡んできた軍人からハウルが助けてくれたでしょ?あの時の事。」

「『絡む』って・・・ソフィー。あの時の軍人が聞いたら泣く様な事さらっと言うね、君。あれはちょっとばかり強引だったけど、『ナンパ』じゃないか。」



ハウルは面白そうにそう訂正すると、彼女の反応を見る為にソフィーの顔を覗き込んだ。

ソフィーはなんだか熟れていない果実をうっかり口にしてしまったかのように何かを我慢するような複雑な表情を浮かべていた。



「・・・そうなの?」

「そうだよ。ああ、何て事だ!鈍感なソフィーはそんな事も分かってなかったのか。」

「悪かったわね。鈍感で。」

「これからはちゃんと気をつける事だね、ソフィー。君はちょっと無防備なところがあるから。街を歩いていて知らない人間に声を掛けられても付いて行ってはいけないし、何かあったら自分一人で解決しようとしないで、必ず僕を呼ぶ事。良いね?」

「・・・私子供じゃないのよ。」

「ああ、これだからソフィーは!!だから心配なんじゃないか。」



片手で前髪をぐしゃりと握り潰すと、ハウルはぶつぶつと、僕は心配でおちおち出掛けられやしないだとか僕にはさっぱりなのに他の男には無意識で誘うような行動をするからソフィーはずるいだとか不満を零す。

ソフィーは面と向かって言われていない分、釈然としない様子でそんなハウルを眺め、気付かれないようにこっそりと溜息を吐いた。



「それでさっきの答えだけど。気付いていたの?」



重ねて問うと、ハウルはちょっと考える素振りを見せて、さぁと手を広げた。



「それ、どういう意味?」

「助けた女の子が、『未来で待ってて』と言った女の子と同一人物だと気付いていたかどうかなんて、どうして知りたいの?」

「う。・・・なんとなく。」

「ふ〜ん。じゃ、秘密。」

「え?!」



まさかそんな風にかわされるとは思っても居なかったソフィーは口を開きっぱなしでハウルの顔を見返した。

面白そうに笑うハウルは一向にそれ以上の言葉を紡ごうとしない。



「な、なんで秘密なのよ!」

「少しくらい秘密があった方が面白いじゃないか。」

「そういう問題じゃなくて!教えてくれても良いじゃない。」

「駄目。どうしても知りたいんなら・・・そうだなぁ。ソフィーに何をしてもらおうか?」

「何よそれっ!」

「何してもらおうかなぁ。なんだかそういう事を考えるだけで楽しいね。」

「未だ何かするなんて言ってないわ!」

「それじゃあ、一生言えないな〜。」



楽しげな様子のハウルにソフィーは内心悪魔と罵りながら、秘密を教えてもらう為にハウルの願いを叶えるべきか否か、大変頭を悩ませる羽目となった。







end