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低ナトリウム血症 Hyponatremia

病態
 血清ナトリウムが135mEq未満を低ナトリウム血症と言う。低ナトリウム血症はなぜいけないのだろうか。低ナトリウム血症だと血清浸透圧が落ちる。血清浸透圧は、血清ナトリウムが大きな役割を演じているからである(「高ナトリウム血症」参照、ただし低ナトリウム血症であっても血清浸透圧が低下しない場合がある。これは後で述べる)。ナトリウムイオンは血管壁を自由に行き来するから血清浸透圧は細胞外浸透圧にほぼ等しくなる。血清浸透圧が低下しているということは細胞外浸透圧が低下しているということである。水は浸透圧を一定にしようとして浸透圧の低い所から浸透圧の高い所へ流れる。だから低ナトリウム血症だと水は細胞外から細胞内に流れる。それで細胞内浮腫になる。肝臓や心臓 で細胞内浮腫が起こったとしても、肝臓や心臓は比較的自由に大きくなれるから大きな害はもたらさない。ところが脳は頭蓋骨におおわれている。それで脳が細胞内浮腫になると、自由に大きくなれないから腦に障害が出る。つまり脳症が起こる。この脳症は意識レベルの低下、けいれん、呼吸抑制をもたらす。脳の細胞内浮腫(つまり脳浮腫)がひどいと、後頭孔から脳の一部が逸脱することになる。これを脳ヘルニアと言う。脳幹が逸脱すると昏睡、呼吸抑制が起こり死ぬことになる。
 低ナトリウム血症となった速さは大事である。ゆっくりと低ナトリウム血症になった(48時間以上)のであれば脳に代償機構が働く。脳細胞は細胞内溶質を細胞外に出し、細胞内浸透圧を下げようとする。脳細胞内浸透圧が細胞外浸透圧まで下がれば、脳細胞内に水は入ってこなくなる。ゆっくりと低ナトリウム血症になったのであれば、この代償機構のおかげで、脳ヘルニアは起こらない。脳浮腫の程度も軽い。
 血清ナトリウムは血清の水相に含まれている。脂質(中性脂肪など)や蛋白は血清の非水相に含まれる。脂質や蛋白がたくさん増えるとナトリウムの血清に対する割合は減少し低ナトリウム血症になる。ところがナトリウムの水に対する割合は変わらない。問題となる低ナトリウム血症はナトリウムの水に対する割合が減少している場合(つまり血清浸透圧が落ちている場合)だけである。それで脂質、蛋白の増加により低ナトリウム血症となっているのを偽性低ナトリウム血症と言う。非水相は血清の7%しかないから、脂質や蛋白がかなり高くならないと偽性低ナトリウム血症にならない。
 高血糖の時、血糖により細胞外の浸透圧が高くなる。水は浸透圧が高いほうへ流れるから、細胞内の水が細胞外に出てくる。細胞外の水が増えるのだからナトリウムはうすめられ、低ナトリウム血症となる。この低ナトリウム血症は高血糖による低ナトリウム血症であり、血糖を下げれば低ナトリウム血症はなくなる。高血糖による低ナトリウム血症も血清浸透圧は低下しない。
 血清浸透圧が低下している真の低ナトリウム血症は体液が減少している場合、体液が変化していない場合、体液が増加している場合の3つに分けられる。
 粘膜の乾燥、体重の急な減少、BUN クレアチニン比が20以上は体液の減少を示す。出血の時に見られる指標である、脈が100以上、血圧低下、意識障害、尿量減少も体液減少の指標として使える。もし低アルブミン血症がないのに、浮腫があれば体液は増大していると考える。腹水も体液増大を示す。
 体液が減少している低ナトリウム血症は失われた体液をそれよりナトリウムの低い液体で補った時に起こる。体液が失われたのが腎臓か、腎臓外かでさらに2つに分けられる。ラシックス(furosemide)で利尿をかけた時、尿には75mEqのナトリウムが含まれる。その水分の減少を経口の水などで補った時体内のナトリウムが減少する。体内のナトリムが減少するから水も体内にとどまらない。体液の減少と低ナトリウム血症が起こる。これが腎臓から体液が失われた場合である。
 下痢や嘔吐でナトリウムが失われ、それを経口の水分などで補った時も体液の減少と低ナトリウム血症が起こる。これは腎臓外から体液が失われた場合である。
 腎臓外からナトリウムが失われ低ナトリウム血症となった時、腎臓から出る尿はナトリムは上昇していないはずだから、普通の尿のナトリウム濃度である。普通の尿のナトリウム濃度は摂取するナトリウムの量に影響されるが、だいたい10mEq以下である。腎臓からナトリウムが失われている時は尿ナトリウムは20mEq以上である。だから体液減少の低ナトリウム血症は、尿ナトリウムが20mEq以上ならば腎臓からのナトリウム減少(利尿剤)、10mEq以下(簡単にして20mEq以下)ならば腎臓外からのナトリウム減少(下痢あるいは嘔吐)と考える。
 体液が変わらない低ナトリウム血症は水が増えているのだけど、浮腫などの身体所見がないため体液が変化していないと考えられる場合である。水が5L以上増えなければ浮腫は出てこない。体液が変わらない低ナトリウム血症は水をたくさん飲んだ場合とSIADH(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone)がある。水をたくさん飲んだ時は、尿のナトリウムはうすめられるから10mEq以下である。尿浸透圧は100mEq以下になる。ADHが不適切に分泌されている時は、ADHのため腎臓で水がたくさん吸収されるから尿のナトリウムは高くなり20mEq以上になる。尿浸透圧は100mEq以上になる。
 体液が増加している低ナトリウム血症はナトリウムと水が体内に貯留し、水がナトリウムより多い場合である。心不全、肝不全、腎不全で起こる。心不全、肝不全の時は普通の尿で20mEq以下になる。腎不全の時は低ナトリウム血症にもかかわらずナトリウムが尿から出るから20mEq以上になる。
 甲状腺機能低下や副腎不全が低ナトリウム血症の原因となることもある。
 肺疾患(肺炎、結核、肺膿瘍、肺癌、喘息)や中枢神経の腫瘍、外傷に低ナトリウム血症がみられることがある。胃癌、膵臓癌、前立腺癌なども低ナトリウム血症の原因になりやすい。
 低ナトリウム血症は多くの薬剤が原因となりうる。次のような薬剤がある。
 acetazolamide (ダイアモックス)
 amphotericin (ファンギゾン)
 angiotensinⅡreceptor blocker (ディオバンなど)
 angiotensin converting enzyme inhibitor (レニベースなど)
 carbamazepine (テグレトール)
 carboplatin (パラプラチン)
 cyclophosphamide (エンドキサン)
 doneperil (アリセプト)
 haloperidol (セレネース)
 heparin (ヘパリン)
 indometacin (インダシン)
 opiate (塩酸モルヒネ等)
 pimozide (オーラップ)
 proton pump inhibitor (オメプラゾール等)
 selective serotonin reuptake inhibitor (パキシル等)
 ticlopidine (パナルジン)
 trazodone (レスリン)
 vincristine (オンコビン)
 zonisamide (エクセグラン)

検査
  1. 血清ナトリウム
    血清ナトリウムで低ナトリウム血症を判断するのだから当然の検査である。
  2. 血清浸透圧
    高中性脂肪、高蛋白による偽性ナトリウム血症や高血糖による低ナトリウム血症を鑑別するためにする。これらは血清浸透圧が低下していない。
  3. 血糖
    高血糖による低ナトリウム血症の除外のためにする。
  4. 中性脂肪
    偽性低ナトリウム血症の除外のためにする。
  5. 総蛋白
    偽性低ナトリウム血症の除外のためにする。
  6. アルブミン
    体液量を判断する時に浮腫が目安になる。低アルブミン血症による浮腫でないことを確認するためにする。
  7. コルチゾール ACTH (血清)
    副腎不全による低ナトリウム血症を除外するためにする。コルチゾールは朝に高くなるため、朝にする。ACTH(adrenocorticotrophic hormone)はコルチゾールの産生を促すホルモンである。
  8. Free T3  Free T4  TSH
    甲状腺機能低下症による低ナトリウム血症を除外するためにする。
  9. 尿ナトリウム (随時尿)
    低ナトリウム血症の原因を知る上で役に立つ。20mEqより多いか少ないかが目安になる。
  10. 尿浸透圧
    尿浸透圧が100mOsm以上であればSIADHの可能性が高い。
  11. レニン活性
    レニンはアンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンⅠに変換する。アンギオテンシンⅠはアンギオテンシン変換酵素によってアンギオテンシンⅡに変換される。アンギオテンシンⅡは副腎皮質球状帯に作用してアルドステロンの分泌を促進する。アルドステロンは腎臓でナトリウムイオンの再吸収を増やす。体内のナトリウムが増加するから、循環血液量が増えることになる。SIADHはADHが分泌され、水が増えている状態であって、ナトリウムが減っているわけでない。だからSIADHの時は腎臓でのナトリウムの再吸収を増やす必要がないから、アルドステロンを分泌する必要がない。アルドステロンを分泌する必要がないから、レニン活性は低くなる。よってSIADHはレニン活性が低くなる。
治療
 体液が減少している低ナトリウム血症は生理食塩水を点滴投与する。
 体液量が増加していない低ナトリウム血症は水制限をして、生理食塩水を点滴投与する。さらにラシックス(furosemide)を投与することもある。
 体液量が増加している低ナトリウム血症は水と食塩を制限する。症状がない時はラシックス(furosemide)の投与だけでよい。症状がある時はさらに生理食塩水を点滴投与する。
 ナトリウムの補正が速すぎると橋の脱髄を来たす。補正の速度は0.5mEq/L/時以下にする。
 生理食塩水の点滴投与のかわりに高張液を点滴投与することもある。生理食塩水500mLに10% NaCl 20mL を5 アンプルを混注する。生理食塩水は0.9%だから500×0.009=4.5g の塩化ナトリウムが500mLに含まれる。20mLの10% NaClには20×0.1=2g の塩化ナトリウムが含まれるから5 アンプル 100mLには2×5=10g の塩化ナトリウムが含まれる。だから生理食塩水500mLに10% NaCl 20mL を5 アンプルを混注すると600mLに14.5gの塩化ナトリウムが含まれる。塩化ナトリムの分子量はNa の原子量が23、Clの原子量が35.5だから 23+35.5=58.5g である。塩化ナトリウムは1価だから1当量も58.5gとなる。よって14.5/58.5=0.2478等量(Eq)=247.8ミリ等量(mEq)となる。600mLに247.8mEq 入っているから、1Lには247.8×1000/600=413mEq になる。よって生理食塩水500mLに10% NaCl 20mL を5 アンプルを混注すると413mEqの食塩水が600mLできる。
 生理食塩水を点滴投与する速さと量は次のように決める。
① 補正に必要な時間=(130−現在の血清ナトリウム)/0.5 で補正に必要な時間を決める。血清ナトリウムの単位はmEq である。130を使うのは補正目標の血清ナトリウムを低めの130mEqに設定しているからである。
② 体の通常の水分量を出す。男性は体重の60%で、女性は体重の50%である。水分量の単位はLで出す。
③ 不足のナトリウムを次の式で計算する。 不足のナトリウム=体の通常の水分量×(130−現在の血清ナトリウム)
   ここでナトリウムの単位はmEq、水分量の単位はLである。
④ 生理食塩水量=(不足のナトリウム/154)×1000 で必要な生理食塩水量を求める。必要な生理食塩水量の単位はmLである。154mEqは生理食塩水1Lに含まれるナトリウムである。
④で出た生理食塩水量を①で出した時間で点滴投与する。
 具体的に考える。今60kgの男性が血清ナトリウムが120mEqとする。
① (130−120)/0.5=10/0.5=20時間
② 60kg×0.6=36kg=36L
③ 36×(130−120)=36×10=360mEq
④ (360/154)×1000=2.338×1000=2338mL
だから生理食塩水2300mLを20時間以上かけて点滴投与する。

生理食塩水あるいは生理食塩水+10%生理食塩水 100mL(5アンプル)により補正する時の投与量と投与時間の計算
性別と補正輸液を選択し、体重と血清ナトリウムに半角数字で入力して下さい。「計算」をクリックすると補正にかける時間と投与量を計算します。

性別:

体重: kg

血清ナトリウム: mEq

補正輸液選択:

補正にかける時間: 時間   小数点第1位で四捨五入しています。

投与量: mL   小数点第1位で四捨五入しています。


参考文献
  1. Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.643-645.
  2. eMedicine. Hyponatremia. Last Updated: January 4, 2006 https://www.emedicine.com/emerg/topic275.htm
  3. eMedicine. Hyperkalemia. https://www.emedicine.com/emerg/topic261.htm (2006/11/24アクセス)
  4. 石橋秀生、岡田 郎、越田俊也、小畑達郎、小松孝充、近藤克則 編著『当直医マニュアル Ver.3.0』(1994) 医歯薬出版株式会社 p. 194-197.
  5. ウィキペディア. レニンーアンギオテンシン系. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AC%E3%83%8B%E3%83%B3-%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%82%AA%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%83%B3%E7%B3%BB1(2009/1/17アクセス)
2009年1月17日更新
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