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マグネシウム不足症と低マグネシウム血症 magnesium deficiency and hypomagnesemia

病態
 マグネシウムが不足するとなぜいけないのだろうか。マグネシウムは人間の体で3000以上の酵素の補酵素として働く。それでマグネシウムが不足すると人間のほとんどすべての臓器が正常に働かない。
 神経細胞は軸索(axon)と言われる突起を持っている。マグネシウムが不足すると軸索が刺激されやすくなり、刺激の伝導速度も速くなる。それで振せん(tremor)や筋肉の攣縮(筋肉のぴくつき、fasciculation)が起こる。反射も亢進する。脳細胞も興奮されやすくなり、いらいら感、攻撃性が増したり、めまい、運動失調、うつ、失見当識が見られたりする。
 マグネシウムが不足すると、Na-Kポンプが正常に働かなかったり、Kポンプを通して細胞内からのKの流出が増大する。それで不整脈を起こしやすい。ジギタリスとマグネシウム不足が一緒になると、ジギタリス中毒を起こしやすい。
 マグネシウムが不足するとコレステロールが上昇し高血圧となる。これがため動脈内に脂質が沈着し、心筋梗塞などを起こしやすい。マグネシウム不足はまた血小板の凝集を増大させ血栓をできやすくしたり、心冠状動脈の収縮を強めたりして心筋梗塞を起こしやすくする。
 マグネシウムが不足すると副甲状腺ホルモンの分泌が障害されたり、副甲状腺ホルモンへの反応が悪くなる。また骨からのカルシウムの放出を減少させる。それで血清カルシウムが減少する。
 マグネシウムが不足すると、インスリンの分泌が減少し、インスリンへの感受性が低下する。最近2型糖尿病が増えているのは、マグネシウムの豊富な穀物の摂取が減少していることが原因となっているのかもしれない。また糖尿病で血糖コントロールが悪いと、高血糖のため尿が増加するためさらにマグネシウムが失われる。
 このようにマグネシウムは人間の健康を維持するのに重要であるが、マグネシウム不足症はよく見られる。一般人の2%、一般病棟の10〜20%、ICU病棟の50〜60%、糖尿病の25%はマグネシウム不足症と言われる。
 人間の体には、約1モルのマグネシウムがある。マグネシウムの原子量は24であるから約24gである。99%のマグネシウムは細胞内にあり、細胞外にあるのは、1%に過ぎない。骨に53%、筋肉に27%、軟部組織に19%、赤血球に0.7%、血漿に0.3%しかないため、血漿のマグネシウムが基準値内であっても、体全体のマグネシウムが不足していることが起こりえる。血漿を検査する時に使われる抗凝固剤に、マグネシウムに結合するクエン酸塩などが入っていることがあるため、マグネシウムの検査は通常血清でなされる。血清マグネシウムの基準値は1.4〜2.0 mEq/Lである。
 マグネシウム不足症の原因は薬剤、摂取量低下、胃腸の吸収障害(下利など)、腎臓よりの排泄増加がある。
 利尿剤はナトリウムの再吸収を阻害するが、マグネシウムの再吸収も阻害するため、マグネシウム不足症になる。ループス利尿薬(ラシックス(furosemide)など)が多いが、サイアザイド利尿薬(ナトリックス(indapamide)など)でも老人では起こる。カリウム保持利尿薬(アルダクトンA(spironolactone)など)では起こらない。
 アミノグリコシド(ゲンタシン(gentamycin sulfate)など)はヘンレ上行脚のマグネシウム再吸収を阻害する。アミノグリコシドを投与されている人の3%にマグネシウム不足症がみられる。
 サンディミュン(ciclosporin)、ファンギゾン(amphotericin B)、ブリプラチン(cisplatin)は尿よりのマグネシウム排泄を促進する。
 Gitelman症候群は腎臓からのマグネシウム排泄が増大することにより低マグネシウム血症になる遺伝疾患である。
 アルコール依存症では、栄養不足、慢性下痢、尿からのマグネシウム排泄増大のため、マグネシウムが不足する。アルコール依存症の入院患者の30%、振せんせん妄の85%にマグネシウム不足があると言われる。マグネシウムはチアミン(thiamine ビタミンB1)をチアミンピロリン酸に変換するのに、必要である。それでアルコール依存症でマグネシウムが不足すると、十分なチアミン(thiamine ビタミンB1)を投与しても、チアミンピロリン酸に変換できないため、ビタミンB1不足と同じことになる。ビタミンB1を投与しているアルコール依存患者はマグネシウムが不足していないか注意する必要がある。
 下痢には10〜14mEq/Lのマグネシウムが入っているため、下痢が続くとマグネシウムが不足することがある。嘔吐は1〜2mEq/Lのマグネシウムであるため、マグネシウム不足になることはない。

検査
  1. 血清マグネシウム
    低マグネシウム血症を知りたいのだから当然の検査である。マグネシウムイオンだけが活性があるが、血清マグネシウムの30%はアルブミンと結合して不活性になっている。それで血清アルブミンが低いと血清マグネシウムは低く出るが、マグネシウムイオンは低下していないことが起こりえる。
  2. 尿マグネシウム
     体にマグネシウムが足らなければ体は自衛反応として、尿から排泄されるマグネシウムを減らす。体にマグネシウムが過剰にあれば体は尿から排泄されるマグネシウムを増加させる。それで尿のマグネシウムを見て、体にマグネシウムが不足しているか、過剰か推定できるはずである。尿のマグネシウムが低値であれば、マグネシウムが不足していると考え、尿のマグネシウムが高値であればマグネシウムが過剰と考える。
     しかし尿からマグネシウムが多量に排泄されることで、マグネシウム不足症になっていることがある。この場合は尿中のマグネシウムは多いが、体のマグネシウムは不足している。血清マグネシウムが低下しているのに、尿のマグネシウムが多ければ、尿からの排泄によるマグネシウム不足症である。蓄尿でマグネシウムを測定する時は、血清マグネシウムが低下しているのに、尿マグネシウムが1mmol以上ならば、尿からの排泄によるマグネシウム不足である。随時尿でマグネシウムを測定する時は、次の式でマグネシウム排泄率を求める。
    (UMg/(PMg×0.7))/ (UCr/PCr)
    UMg 尿マグネシウム    PMg 血清マグネシウム    UCr 尿クレアチニン    PCr 血清クレアチニン
    血清マグネシウムに0.7をかけるのは、マグネシウムの30%はアルブミンと結合していて、腎糸球体でろ過されないからである。血清マグネシウムが低下しているのに、マグネシウム排泄率が3%以上ならば尿からの排泄によるマグネシウム不足である。
  3. 心電図
    PR延長、QRS幅延長、QT延長、T波減高、少しのST低下、U波、心房性不整脈、心室性不整脈を見る。
  4. 血圧
    高血圧とマグネシウム不足症の関係が示唆されている。マグネシウム不足が血管抵抗を増加させるようである。
  5. 血清カリウム
    マグネシウム不足により低カリウム血症になることがある。
  6. 血清カルシウム
    マグネシウムが不足すると、副甲状腺ホルモンの分泌を妨げること、副甲状腺ホルモンに対する反応が悪くなること、骨からのカルシウムの遊離を減少させることのために血清カルシウムが低下する。
  7. 血清リン
    低リン血症はマグネシウムの腎排泄を増大させ、マグネシウム不足症を起こす。
  8. BUN  血清クレアチニン
    腎不全を見る。腎不全がある時マグネシウムの補正量は少なくすべきである。
  9. 空腹時血糖  HbA1c
    糖尿病患者はマグネシウム不足症になることが少なくない。
  10. アルドステロン
    アルドステロン増加によりマグネシウム不足症になることがある。
  11. アミラーゼ
    急性膵炎でマグネシウム不足症になることがある。
  12. 血清マグネシウムが基準値内でも、マグネシウム不足症になっていることがある。マグネシウム不足の原因が尿からの排泄でない時には、マグネシウムを負荷してマグネシウム不足症を判断する方法がある。マグネシウムを負荷した時、マグネシウム不足がないならマグネシウムを再吸収する必要がないから尿からたくさんのマグネシウムが出るはずだし、マグネシウムが不足しているなら尿からのマグネシウムの排泄は少ないはずである。点滴されたマグネシウムの50%以下が尿から出るならマグネシウムが不足しているとし、80%以上が尿から排泄されるならマグネシウムが不足していないとする。 具体的には次のようにする。
    硫酸マグネシウム 6g(24mmol)(マグネゾール 3A)+生理食塩水 250mL を1時間で点滴する。
    硫酸マグネシウムの点滴を開始した時から蓄尿を始める。
    24時間蓄尿でマグネシウム排泄が3g(12mmol)以下ならばマグネシウム不足症とする。
治療
 軽度の症状のないマグネシウム不足症には、酸化マグネシウムを200mg〜500mg用いる。酸化マグネシウムの化学式はMgOで分子量は24+16=40である。1mgに含まれるMgのmEqは1×(24/40)×1/12=1/20 だから200mgの中には200×1/20=10mEq になる。同様に500mgは25mEqになる。ひどいマグネシウム不足症には、1000mg(50mEq)ぐらいまで使う。しかし経口から投与した時吸収が不定であるため、ひどいマグネシウム不足症は静脈内投与がよい。
 マグネシウムの静脈内投与には硫酸マグネシウムを用いる。硫酸マグネシウムの化学式はMgSO4であるが、天然には7水和物として存在する。つまりMgSO4・7H2Oとして存在する。原子量はMg 24、S 32、O 16、H 1 であるから、24+32+4×16+7×(2×1+16)=246となり、硫酸マグネシウムの分子量は246になる。(24/246)×(1/24)×1000=4.07 より、1gの硫酸マグネシウムには 4ミリモル(mmol)のマグネシウムが含まれている。マグネシウムは2価だから1ミリモルは2ミリ当量(mEq)になる。それで 1gの硫酸マグネシウムには8ミリ当量(mEq)のマグネシウムが含まれている。
 リンゲル液(乳酸リンゲル液ならラクテックなど)にはカルシウムが含まれている。カルシウムはマグネシウムの働きを妨げるため、硫酸マグネシウムを希釈するには生理食塩水を用いる。
硫酸マグネシウムの点滴投与はThe ICU Bookによると次のようになる。
マグネシウムが1mEq未満や他の電解質異常を伴っている時
硫酸マグネシウム 6g(マグネゾール 3A)+生理食塩水 250mL または500mL
を3時間で点滴する。
次に
硫酸マグネシウム 5g(マグネゾール 2.5A)+生理食塩水 250mL または500mL
を6時間で点滴する。
次に
硫酸マグネシウム 5g(マグネゾール 2.5A)+生理食塩水 250mL または500mL
を12時間毎に点滴する。この12時間毎の点滴は5日間する。

低マグネシウム血症があり、不整脈や全般けいれ発作を伴う時
硫酸マグネシウム 2g(マグネゾール 1A) を2分以上かけて静注する。
次に
硫酸マグネシウム 5g(マグネゾール 2.5A)+生理食塩水 250mL または500mL
を6時間で点滴する。
次に
硫酸マグネシウム 5g(マグネゾール 2.5A)+生理食塩水 250mL または500mL
を12時間毎に点滴する。この12時間毎の点滴は5日間する。

eMedicine は次のような補正法を示している。
硫酸マグネシウム 6g(マグネゾール 3A)+生理食塩水 500mL  を8時間〜24時間かけて点滴する。
血清マグネシウム 0.8mEqを保つようにこれを繰り返す。
血清マグネシウムが基準値内の時は、上記の点滴を毎日1回、3〜5日継続する。

 マグネシウムの補正をしている時、呼吸抑制や反射消失のような高マグネシウム血症が出ていないか注意すべきである。
 血清マグネシウムは1〜2日で正常化するが、体全体のマグネシウムが正常化するには4〜5日かかる。
 腎不全の時低マグネシウム血症になることは少ないが、下痢で低マグネシウム血症になることがある。この時投与するマグネシウムの量は正常の腎機能の時の半分量にする。

参考文献
  1. Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.660-670.
  2. eMedicine. Hypomagnesemia. https://emedicine.medscape.com/article/246366-overview (2009/2/2アクセス)
  3. eMedicine. Hypomagnesemia. https://emedicine.medscape.com/article/767546-overview (2009/2/22アクセス)
  4. LyteMyster Online. EKG Changes of Hypomagnesemia. https://www.meistermed.com/mobile/lm/Supporting_Files/Hypomagnesemia/ekg_changes_of_hypomg.htm# (2009/2/21アクセス)
  5. ウィキペディア. 硫酸マグネシウム. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A1%AB%E9%85%B8%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0 (2009/2/21アクセス)
2009年2月21日作成
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