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高マグネシウム血症 Hypermagnesemia
病態
高マグネシウム血症だとなぜいけないのだろうか。
高マグネシウム血症は神経伝達を妨げる。それで筋肉の麻痺が起こる。ひどくなると呼吸筋が麻痺し呼吸不全となる。
高マグネシウム血症は房室ブロック、心停止も起こす。
心筋はそれぞれが統一なく勝手に収縮したのでは、心室としてのまとまった収縮、拡張ができなくなる。 心室としてのまとまった収縮、拡張ができなくなると、心室が血液を十分にためるほど拡張したり、心室が血液を全身に送り出すほど十分に収縮したりすることができなくなる。それで洞結節(sinus node)(洞房結節 sinoatrial node とも言う)の刺激を心室に伝え、その刺激で心室をつくる心筋が統一して拡張したり、収縮したりする仕組みになっている。この洞結節の刺激を心臓全体に伝える機序を心臓刺激系(cardiac conduction system)と言っている。
マグネシウムが過剰になるとこの心臓刺激系の速度が遅くなる。それで房室ブロックや心停止が起こる。
血清マグネシウムの基準値は1.5〜2mEq/Lである。症状が出始めるのは3.5mEq/L以上である。房室ブロック、呼吸不全、心停止という重篤な状態は10mEq/L以上で起こる。
高マグネシウム血症になることは少ない。なぜなら腎臓が正常ならばマグネシウムをすみやかに排泄するからである。
高マグネシウム血症になるのは、腎機能が障害されている場合が多い。しかし腎不全でもマグネシウム摂取が増大しない限り高マグネシウム血症の程度は高くならない。ただしマグネシウムは薬として投与することが少なくないので注意すべきである。制酸剤のマーロックスには1g中に0.4gのマグネシウムが含まれている。下剤としてよく使われる酸化マグネシウムもマグネシウム製剤である。
マグネシウムの静脈内投与も高マグネシウム血症の原因として多い。投与したマグネシウムの総量よりも、投与したマグネシウムの濃度と投与速度が高マグネシウム血症の発生に関係する。
マグネシウムは細胞内には、40mEq/Lと多い。ショックや広範囲な熱傷で組織が破壊されると、細胞内のマグネシウムが細胞外に流出し高マグネシウム血症になることがある。黄紋筋融解症、腫瘍崩壊症候群も同様に高マグネシウム血症になることがある。
リチウム中毒で高マグネシウム血症になることがある。リチウムが尿からのマグネシウム排泄を減少させることが原因のようである。
糖尿病性ケトアシドーシス、副腎不全、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症で軽度の高マグネシウム血症になることがある。
抗コリン薬や麻薬により胃腸の動きが減少したり、腸閉塞や慢性便秘で腸の動きが悪くなったりすると、腸管からの排泄が減少するために、腸管からのマグネシウム吸収が増大する。それで高マグネシウム血症になることがある。
検査
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血清マグネシウム
高マグネシウム血症を知りたいのだから当然の検査である。
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BUN(blood urea nitrogen) クレアチニン
腎障害が高マグネシウム血症の原因となることが多い。クレアチニンクリアランスが30mL/分以下になると、血清マグネシウムは上昇する。
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血清カリウム、血清マグネシウム
高マグネシウム血症は高カリウム血症、高カルシウム血症を伴うことが少なくない。
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血液ガス
呼吸筋の不全で呼吸性アシドーシスになることがある。
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CPK(creatinen phophokinase) 尿ミオグロビン
黄紋筋融解症が高マグネシウム血症の原因になることがある。
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TSH(thyroid stimulating hormone) free T3 free T4
甲状腺機能低下症が高マグネシウム血症の原因になることがある。
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コルチゾール ACTH (adrenocorticotrophic hormone) (血清)
副腎不全が高マグネシウム血症の原因になることがある。コルチゾールは朝に高くなるため、朝にする。ACTHはコルチゾールの産生を促すホルモンである。
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PTHインタクト
副甲状腺機能亢進症が高マグネシウム血症の原因になることがある。PTH(parathyroid hormone)は副甲状腺より出るホルモンである。PTHは84個のアミノ酸からなるが、蛋白分解酵素により簡単に切断され、N末端、中間部、C末端に分解される。これをフラグメントと言う。フラグメントに分解されていない完全分子型をPTHインタクトと言う。活性のあるのは、N末端フラグメントだけだが、N末端フラグメントは半減期が2〜5分のため測定するのが困難である。それでPTHインタクトを測定する。
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血糖 尿ケトン体
糖尿病性ケトアシドーシスが高マグネシウム血症の原因になることがある。
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深部反射
高マグネシウム血症は神経の伝達を妨げるから、深部反射は減弱する。これは最初に出現する所見である。
治療
まずマグネシウムの投与をやめる。中程度までの高マグネシウム血症の治療はこれで十分なことが多い。
腎機能が輸液ができる程度であれば、生理食塩水あるいは乳酸リンゲル液(ラクテックなど)を1Lほど輸液する。また利尿剤のラシックス(furosemide)を20〜80mg投与する。マグネシウムを希釈することと、尿から排出することを狙っているのである。
心臓や呼吸に影響が出ている高マグネシウム血症の患者はカルチコール(calcium gluconate)の輸液をする。
カルチコール 10mL(Ca 78.5mg) を2〜3分で静注
あるいは
カルチコール 15〜25mL(Ca 118〜196mg) + 5%ブドウ糖液 100mL を1時間で落とす。
カルシウムがマグネシウムに拮抗するため、症状はすぐに改善することが多い。これは血液透析開始までのつなぎとしても使える。
高度の高マグネシウム血症には血液透析をする。
参考文献
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Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p. 668-670.
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Arthur C. Guyton, John E. Hall. Textbook of Medical Physiology eleventh edition. ELSEVIER & SAUNDERS, p.116. p.878.
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eMedicine. Hypermagnesemia. https://emedicine.medscape.com/article/766604-print (2009/4/20アクセス)
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eMedicine. Hypermagnesemia. https://emedicine.medscape.com/article/246489-print (2009/5/23アクセス)
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三菱化学メディエンス株式会社. 内分泌検査 副甲状腺. https://data.medience.co.jp/compendium/main.asp?field=03&m_class=03&s_class=0002(2009/3/20アクセス)
2009年5月23日作成
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