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高カリウム血症 hyperkalemia

病態
 細胞内の電位は細胞外液に対して負の電荷になる。これを静止膜電位(resting membrane potential) と言う。この膜電位が浅くなるのが脱分極(depolarization)である。心筋の収縮や心筋の収縮を調節する洞房結節(sinoatrial node)の興奮はこの脱分極でなされる。
 静止膜電位が小さくなると洞房結節の興奮の伝導が遅れる。また脱分極の程度が大きくなる。洞房結節の興奮の伝導が遅れは心電図でPR間隔の延長とQRSの幅の広がりとなって表れる。脱分極の程度の大きさは高いT波として表れる。
 静止膜電位は主として細胞内外のカリウムの比率で決まる。正常の場合、細胞内カリウムが約120mEq/L 細胞外カリウムが約4mE1/Lである。120:4=30:1の比率である。細胞外カリウムが6になれば、120:6=20:1となり、比率が大きく変わる。細胞外カリウムは細胞内カリウムに比べ非常に少ないため、細胞外カリウムの少しの変化は、細胞内外のカリウムの比率の大きな変化となって表れる。つまり細胞外のカリウムの少しの変化は、細胞内外のカリウムの比率の大きな変化となり、この細胞内外のカリウムの比率の大きな変化は静止膜電位の大きな変化となる。静止膜電位の大きな変化(静止膜電位が非常に小さくなる)は洞房結節の興奮の伝達を非常に遅らせる。これがため心臓が十分に動かなくなり、人間を死亡に至らしめる。細胞外カリウムが7mEq/L以上の時、何も治療しなければ7割近くが死亡する。だから、細胞外カリウムが7mEq/L以上の時(通常の血液検査で測定されるカリウムは細胞外カリウムである)、あるいはそれ以下でも心電図変化が目立つ高カリウム血症は緊急に治療を要する。
 塩化カリウム製剤をワンショットで注射すると、1000mEq/Lから2000mEq/Lの濃度のカリウムが心臓に行くことになり、心停止が起こる。塩化カリウム製剤は必ず希釈して使う。
 高カリウム血症の原因は、カリウムを摂取しすぎたか、カリウムが十分体外に排出されていないか、細胞内のカリウムが細胞外に移動したか、あるいは検査のミスかのどれかである。
 血球の溶血、駆血帯による筋肉からのカリウムの放出、白血球が50000以上、血小板が1000000以上は、検査すると高カリウムとなる。これは真の高カリウム血症でなく、治療を要しない。無症状の患者の検査が高カリウムの時は必ず再検査をする。
 カリウムは8〜9割が尿から排出される。腎機能が正常であればカリウムが多いもの(果物、野菜)を多くとりすぎて高カリウム血症になることはまずない。ただしカリウム製剤のとりすぎは注意する必要がある。
 細胞内カリウムの細胞外への移動は種々の薬剤が関与している。血清浸透圧が高い時、細胞内の自由水が細胞外に流出し、細胞内のカリウムが高くなる。それで細胞内のカリウムは細胞外に出ようとする。糖尿病性ケトアシドーシスの時の高カリウム血症の一因はこれである。

検査
  1. K
    5.5 mEq/L以上を高カリウム血症という。
  2. 心電図
    重症の高カリウム血症は心毒性による心停止が一番怖いことであるから、心電図検査は必須である。重症の高カリウム血症はただちにモニターをつける。 最初の変化はテント状の高いT波である。V2 V3でよくわかる。次にP波が低くなりPR間隔が長くなる。次にP波が消失しQRS間隔が長くなる。次にQRSが長くなり、T波と結合しサイン様の波となる。
  3. 血糖
    糖尿病性ケトアシドーシスによる高カリウム血症の診断に必須で、インスリン、ブドウ糖液の治療をする時にも必要である。血糖が250以上なら、インスリンを投与した時ブドウ糖液は投与しない。
  4. 尿中K
    高カリウム血症の原因がカリウムの排出障害であるか、細胞内カリウムの細胞外への移動あるいはカリウムの摂取過剰によるものかを区別するためにする。30mEq/L未満なら尿からの排出障害である。30mEq/L以上なら細胞内カリウムの細胞外への移動か、カリウムの摂取過剰である。
  5. 血液ガス
    アシドーシスを診断するためにする。
  6. BUN   クリアチニン
    腎機能を評価する。
  7. カルシウム
    低カルシウム血症は不整脈を悪化させる。
  8. 尿沈渣
    腎機能悪化の原因を探る。
  9. ジコキシン血中濃度
    ジゴキシンによる高カリウム血症を除外する。
  10. コルチゾール、アルドステロン血中濃度
    ミネラルコルチコイド不足による高カリウム血症を除外する。
治療
カリウムが7mEq/L以上あるいは心電図変化が目立つもの
  1. カルチコール(calcium gluconate) (10mL) 1 A 3分以上かけて静注
    効果は1〜3分でモニター上に現れる。効果は20〜60分継続する。効果が現れないなら、5分後にもう一度カルチコールを10mL投与する。2回投与して効果がないなら、3回投与しても無駄である。
    即効性があるためこれが第一選択の治療である。ただしジギタリス中毒による高カリウム血症の場合は禁忌である。血清カルシウムを急に上昇させると、心筋細胞内カルシウムの濃度が上昇して、ジギタリス中毒が悪化するからである。ジギタリスを服用している人は、カルチコール10mLを生理食塩水100mLで希釈して20〜30分かけて点滴で落とす。
    カルシウムは高カリウムの膜電位に対する影響に拮抗する作用がある。
  2. ヒューマリンR(regular insulin) 10単位を10%ブドウ糖液500mLに混注して1時間以上かけて点滴投与
    あるいはヒューマリンR(regular insulin) 10単位+50%ブドウ糖液 50mLで静注する。
    効果は30分で現れ、4〜6時間持続する。
    インスリンは細胞外カリウムを細胞内に移行させる。ブドウ糖を加えるのは低血糖を防ぐためである。しかし血糖が250以上の時はブトウ糖液を投与すべきでない。血清浸透圧が高くなり高カリウム血症を悪化させる恐れがある。血清浸透圧が高い時は、細胞内の自由水が細胞外に流出し細胞内のカリウム濃度が高くなる。それでカリウムは細胞外に出ようとする。
  3. メイロン(sodium bicarbonate)を1mEq/kgでゆっくりと静注する。100mEq以上は投与しない。
    メイロンは7%と8.4%がある。メイロンの化学式はNaHCO3であり、分子量は23+1+12+3×16=84gである。NaHCO3は1価だから、分子量と当量は同じになり、当量も84gである。8.4%=8.4g/100g=84g/1000g=84g/1L=84mg/1mL=1mEq/1mLとなり、8.4%のメイロンは1mLに1mEq(1ミリ当量)入っている。計算がしやすい。7%の時は7%=7g/100g=70g/1000g=70g/1L=70mg/1mL ここで70mgは70/84=0.83から0.83mEqである。よって7%=0.83mEq/1mLとなる。7%メイロン50mLで約42mEqとなる。
    この治療はPHが上がるとカリウムが一時的に細胞内に入ることを狙っている。しかしこの治療は以下の理由で勧められない。
    ① メイロンによる細胞外カリウムの減少は少なく、一定しないという最近の研究がある。
    ② アシドーシスになる原因は腎不全が多いが、腎不全による高カリウム血症に対しては、インスリン、ブドウ糖投与のほうがずっと効果がある。
    ③ メイロンはカルシウムに結合するため、カルチコール投与の後で投与することができない。
  4. 食事等による経口カリウム摂取、点滴によるカリウム投与の制限
    生理食塩水、1号輸液(ソルデム1号等)はカリウムが含まれていない。乳酸リンゲル液(ラクテック等)は少しカリウムが入っている。3号輸液(ソリタT3等)はかなりカリウムが含まれている。高カロリー輸液(PNツイン等)はかなりカリウムが含まれている。
  5. 多くの薬剤が高カリウム血症を起こしうる。疑わしい薬剤は中止する。
    ACE inhibitor(レニベース等)
    ARB (angiotensin receptor blocker) (ミカルディス等)
    beta blockers(インデラル等)
    cyclosporine(ネオーラル等)
    digitalis(ラニラピッド等)
    K-sparing diuretics(アルダクトンA等)
    heparin(ヘパリンナトリウム等)
    NSAIDs(オステラック等)
    pentamidine(ベナンバックス等)
    potassium penicillin(ペニシリンGカリウム等)
    succinylcholine(サクシン等)
    sulfamethoxadole-trimethoprim(バクタ等)
  6. ケイキサレート(sodium polystyrene sulfonate) あるいはカリメート(calcium polystyrene sulfonate)
    30gを水50mLにとかして経口投与、あるいは30gを水100mLにとかして注腸投与 ケイキサレートは腸管でナトリウムをカリウムと交換し、カリメートはカルシウムをカリウムと交換して対外に排出する。
    効果は1〜2時間で現れ、4〜6時間続く。
  7. ラシックス(furosemide) (20mL) 1〜2 Aを静注する。
    効果は1時間で現れる。
  8. 血液透析
    腎不全による高カリウム血症には一番効果的である。
カリウムが7mEq/L未満で心電図変化が少ないもの
  1. 食事等による経口カリウム摂取、点滴によるカリウム投与の制限
    生理食塩水、1号輸液(ソルデム1号等)はカリウムが含まれていない。乳酸リンゲル液(ラクテック等)は少しカリウムが入っている。3号輸液(ソリタT3等)はかなりカリウムが含まれている。高カロリー輸液(PNツイン等)はかなりカリウムが含まれている。
  2. 多くの薬剤が高カリウム血症を起こしうる。疑わしい薬剤は中止する。
    ACE inhibitor(レニベース等)
    ARB (angiotensin receptor blocker) (ミカルディス等)
    beta blockers(インデラル等)
    cyclosporine(ネオーラル等)
    digitalis(ラニラピッド等)
    K-sparing diuretics(アルダクトンA等)
    heparin(ヘパリンナトリウム等)
    NSAIDs(オステラック等)
    pentamidine(ベナンバックス等)
    potassium penicillin(ペニシリンGカリウム等)
    succinylcholine(サクシン等)
    sulfamethoxadole-trimethoprim(バクタ等)
  3. ケイキサレート(sodium polystyrene sulfonate) あるいはカリメート(calcium polystyrene sulfonate)
    30gを水50mLにとかして経口投与、あるいは30gを水100mLにとかして注腸投与 ケイキサレートは腸管でナトリウムをカリウムと交換し、カリメートはカルシウムをカリウムと交換して対外に排出する。
    効果は1〜2時間で現れ、4〜6時間続く。
  4. ラシックス(furosemide) (20mL) 1〜2 Aを静注する。
    効果は1時間で現れる。
  5. 血液透析
    腎不全による高カリウム血症には一番効果的である。
参考文献
  1. Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.652-659.
  2. David Weiner, Charles S. Wingo. Hyperkalemia. Journal of the American Society of Nephrology (1998); 9: 1535-1543
  3. eMedicine. Hyperkalemia. https://www.emedicine.com/emerg/topic261.htm (2006/11/24アクセス)
  4. 内田俊也『2001今日の治療指針』(2000) 医学書院 p. 582-583
  5. 和田孝雄 近藤和子『輸液を学ぶ人のために 第3版』医学書院
2006年12月10日作成
2009年5月29日更新
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