真夏の東京オリンピックと資本主義社会の暗部

 2020年の東京オリンピックは7月24日から8月9日に開催される。日本の最も暑い時期である。前回の1964年の東京オリンピックは、10月10日から10月24日までの季節のよい時になされた。どうして今回はこんな暑い時に開催されるのか。
 学校の運動会を真夏にする学校があるだろうか。学校の運動会は9月中旬から10月中旬が多い。しかし最近は5~6月に開催する所も多くなった。その理由の一つは、9月中旬から10月中旬の開催だと、まだ残暑が厳しい時期から運動会の練習を始めなければならず、熱中症対策が不可欠になることである。運動会を真夏にするなどは、とんでもないことだと思う。熱中症で亡くなる児童生徒、父兄が出る可能性があるし、またそんな暑い中に運動会をしても楽しくないだろう。
 ところが世界の運動会たるオリンピックを真夏にすると言うのである。どうしてこういうことになったのか。その理由はIOC(International Olympic Committee 国際オリンピック委員会)が2020年の夏季オリンピックを、7月15日から8月31日までの間に開催することを求めたからである。IOCはなぜ開催時期を夏に限定したのか。米テレビ局の希望に配慮したからである。米国では10月はNFL(National Football League ナショナル・フットボール・リーグ)のシーズンが始まり、MLB(Major League Baseball メジャーリーグベースボール)のプレーオフがある。10月にオリンピックKをすると、NFL、MLBと競合するため、オリンピックの視聴率が落ちる。テレビ局は視聴率が高いほど、高いCM料金をスポンサーに請求できる。つまり視聴率が高いほど、テレビ局の利益が増える。テレビ局の利益を増やすために、真夏にオリンピックをしているのである。
 選手は、オリンピックのために、日々厳しい練習に励んでいる。選手は、よいタイムを出し、よいプレーをするため、日々厳しい練習に励んでいる。選手がよいタイムを出し、よいプレーをするのは、スポーツに適した季節である。真夏にオリンピックをしたのでは、屋外のスポーツでは、世界記録のようなよいタイムが出ることは望み薄である。選手は日々懸命に練習に励んでいるのに、テレビ局の利益のために、真夏にオリンピックをするというのは、いかにも不合理である。
 ある食品会社が一億個の製品を製造した。ところが一個だけ誤って毒物が入った可能性が高いとする。この会社が毒物が入った可能性が高いというだけであり、確実に毒物が入ったのでないとして、そのまま製品を売り続けたらどうだろうか。その製品を食べ、混入した毒物で一人の人が死亡したら、この会社は厳しく断罪されるだろう。毒物が入った可能性が高いなら、一億個の製品をすべて回収しなければならない。たとえ一億分の一の確率でも、毒物を食べさせて一人の人を殺すことは許されないのである。
 真夏の十七日間オリンピックをすると、選手、観客の何人かが熱中症で死ぬ確率が非常に高い。人が死亡する確率が高いのに、時期をずらさずに真夏にオリンピックを行うのは、毒が入った可能性が高いのに、製品を回収しなかった食品会社と同じである。利益のために人の命を軽んじているである。これは人の命よりも、利益が大事という資本主義社会の暗部をよく示している。