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病気が増えること

 「うつ病が増えている」と言う。正確には「うつ病と診断されることが増えている」と言うべきである。「うつ病が増えている」ことと、うつ病と診断されることが増えている」こととは別である。うつ病であっても病院へ行かなければうつ病と診断されることはない。マスコミなどでうつ病が積極的に取り上げられると、うつ病が心配になり、病院を受診する人が増える。医者もうつ病を考えて診断するようになる。それでうつ病と診断されることが増えることになる。
 これは精神疾患だけでない。身体疾患でも同じことである。最近百日咳が流行した。これも、正確には「百日咳と診断される人が流行した」と言うべきである。「百日咳が流行している」というマスコミの報道がさらに百日咳を増やした側面がある。患者に百日咳でないですかと言われると医者も百日咳の検査をしなければならなくなる。また医者も百日咳が増えているという報道が頭にあるから、無意識に百日咳の検査をすることが多くなる。それでいつもなら単なる風邪の診断で終わったであろう疾患に百日咳の診断がつくことになる。
 受診した科が精神科や心療内科なら精神疾患を積極的に考えて診察する。内科なら身体的疾患を積極的に考えて診察する。それで同じ患者を診察しても、精神科医は精神疾患の診断名をつけることが多く、内科医は身体疾患の診断名をつけることが多い。だから精神科医が増えれば精神疾患が増え、内科医が増えれば内科疾患が増えるのである。その疾患の数はその疾患を専門とする医者の数に比例するのである。
 実際にその病気である人の数とその病気であると診断される人の数とは一致しない。実際にその病気である人の数が増えなくても、その病気であると診断される人の数が増えるとその病気自体が増えたような錯覚を抱く。その病気であると診断される人の数は、実際その病気である人の数が増えなくても、マスコミのその病気に対する報道で多くの人がその病気に関心を持つと増えるのである。またその病気を専門とする医者の数が増えると、その病気に診断される人の数も増えるのである。ある病気が増えているとよく言われるが、実際はある病気と診断されることが増えているのに過ぎないのである。

2007年7月2日作成

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