現代陶芸の地平から 2

美術評論家 外舘和子

 反転を繰り返しながらムクムクと成長し、増殖するかのような有機的な形。外側と見えた面は内側へ、内側の面は外へ、文字通り“表裏一体”の状態でアーチを築くように立ち上がる。青と銀の水玉模様はフォルムの緩急に沿って大小に変化する。
 20世紀に入り、「生命形態的」といわれる立体造形は彫刻の世界にまず現れたが、中島晴美の作品は、手びねりにより土の壁を立ち上げていくという、土の生理と陶芸の基本構造に即して成立している。 ブロンズ彫刻が脊椎動物的であるとすれば、中島の作品は軟体動物的である。
 転写紙による、形に即した水玉も、銀は上絵、青はイングレーズという陶芸の材料・技法に基づいている。 釉薬の下に模様を描く下絵付け(アンダーグレーズ)、釉薬の上に模様を描く上絵付け(オーバーグレーズ)に対し、釉中にわずかに沈み込む絵付けの技法として《イン》グレーズは開発された。上絵よりも摩擦に強く、鉛毒なども防ぐことができるという点で量産食器においてメリットを持つ技法である。
 中島作品では、水玉模様が釉中に入り込むことで、形と模様の一体感が強調されている。また転写紙は地元業者に大小や濃淡を作家が指示して作らせたもの。作家はピンセットで1枚ずつそれを貼ってゆく。貼る作業はアナログながら、発注した転写紙を使用することで作品に適度な均一性や統一感も生まれている。
 イングレーズ技法の普及に貢献したのは、中島が27年勤めた岐阜県の多治見市陶磁器意匠研究所。多治見を含む美濃地方は全国でも有数の量産陶磁器の生産地。産地における技術の蓄積は、産業のみならず陶芸作家の表現世界にも活用される。1950年、岐阜県に生まれた中島晴美は、現在も同地で制作。産地の力を最大限に生かし、躍動する磁器に挑み続けている。