2020年5月30日 中日新聞夕刊
やきものnote
前田剛

*中島晴美

 現代陶芸を眺める際に重要なのは、「やきものの魅力」と「作家」との関係である。私は制作に向き合う作家の態度を参考に、陶芸作品を鑑賞する。そして、作家が選択したであろう「やきものの魅力」を軸に、作品の向こうにいる人間に思いを巡らす。このような見方をするようになったのは、陶芸家中島晴美との出会いが大きい。
 中島は一九五〇年、岐阜県恵那市生まれ。大学卒業後、信楽(滋賀県)の製陶所で陶磁器デザイナーを経て、七六年に岐阜の多治見市陶磁器意匠研究所(意匠研)の職員となった。二〇〇三年からは愛知教育大学に赴任、教授として学生を指導した。十六年の大学退職を機に、所長として意匠研に戻り、現在に至る。
 意匠研での三十余年を振り返り、「研究生には立場上、先生と呼ばれたが、実態は教えられることが多く、彼らは今も、陶芸を勉強する仲間です」と話す。意匠研と愛知教育大の教え子たちの多くは、いま陶芸家として世界を舞台に活躍している。
 中島の作品は、白地に青のドットが特徴だ。技法の選択にはこだわりがあり、〇二年には、素材を陶器から磁器に変えた。
 磁器土での手捻り成形は非常に難しい。陶器土に比べて形を保つ力が弱く、また焼成時に成形の癖が蘇りやすい。しかし中島はあえて磁器土を選択する。「私の求める白は、化粧土によるうわべの白ではない。芯から表面まで全体を支配する白でありたい」と言う。
 そして、人の心を惹きつける陶芸家の最も重要な魅力として、粘土の可塑性を強く意識する。粘土が見せる有機的な表情を通し、人間の本性と社会との折り合いの不条理にまで思いを巡らせ、自らの人生と重ねるのだ。
 素材を重要な要素と位置付ける工芸の中でも、陶芸の粘土は独特な性質を持ち、「やきものの魅力の正体とは、粘土の可塑性が人間の魂に語りかけてくる」ところにあるという。粘土の可塑性や記憶現象は、「人間の魂に語りかけ、心の奥底にある原始の本能刺激し、人間の倫理観を炙り出す」と話す。
 しかしその一方で、そうした魅力にひっぱられ、やきものの表情にもたれ過ぎた作品になることを警戒する。感情を吐き出すだけの作品を、理想としないからだ。中島は、粘土の可塑性に心を揺さぶられながらも、それに抗う。生まれた作品からは「やきもの」との関係を明確に自覚する作家の態度が感じられる。