ishoken gallery 駒井正人展 作家紹介

 専門に美術の勉強したことのなかった駒井正人が、大学の商学部を卒業し意匠研究所に入所したのは、私が教育大学に転職をする半年前であった。わずかの期間ではあったが、私は彼の造形力に目を見張った。美大、芸大の出身者がほとんどだった教室の中で彼の造形力は傑出していたのだ。

 私は教育大学で、美大受験のためのデッサンをしてきた学生と、美術に関する小論文で入ってきた学生を同じ教室で教えたが、駒井正人との出会いの経験が私の授業に自信と活力を与えたと思っている。

 彼は数年後に国際陶磁器展美濃でグランプリを獲得した。その作品は急須であるが、急須ではない。正確に言えば急須であるが急須以上に美術品である。機能一辺倒ではなく美だけでもない「自分の精神の形態」を探ったのだろうか。それは日本の文化の中で育まれた日本人の精神のあり方と通ずる美意識を己に向かって定着させ、確認するような制作作業があったと私は理解する。他者との摩擦を起こしかねない彼の内なる「自己」は自分に向かう刃である。彼の作品には緻密な秩序があるが、その後ろに秩序を壊してしまいたい「エッジの効いた表現への欲求」をも感じる。それが美と機能を拮抗するように対峙させ、その試練の果てに生まれたであろう精神性の高い作品は凛とした空気を生むのだ。
 幸いにも彼は意匠研の職員である。研究生が先輩の背中から学んでくれることを願うばかりである。

多治見市陶磁器意匠研究所 所長 中島晴美