ishoken gallery 松永圭太展 作家紹介

 私はここ十年、陶磁器意匠研究所の講師として卒業制作展の講評を行ってきたが、一昨年に辞退した。それは、意匠研の卒業制作賞の審査基準が私には理解できなかったからである。もう少し踏み込んで言えば職員講師と外部講師の授業に一貫性を感じなかったからである。そんな折、はからずも今年度からその意匠研に所長として赴任することとなった。

 三年前の講評会でのこと、私は卒業制作賞候補の松永圭太を厳しく批判した。「9回の裏、3点負けているが満塁のチャンスに君に回ってきたんだ。ヒットを狙うような、当てに行く作品は見たくもない。三振でも良い。バックスクリーンをめがけて満塁サヨナラホームランを狙え、振り切れ!」と、完成度が高くセンスの良い作品に、荒削りでも熱を感じる若さを期待したのである。

 技術やセンスだけではだめだ。だからと言って、若さにまかせてバットを振り回すだけでもだめだろう。造形力を背景に、土の可塑性と親和する自分を冷静に見つめること。それも意匠研の研修の一場面であると思ったからだ。

多治見市陶磁器意匠研究所 所長 中島晴美