東京国立近代美術館工芸館
開館30周年記念展 II 工芸の力―21世紀の展望コメント
軟弱者
中島晴美


 素材を磁器に変えて5年になる。 焼き物の世界に入って以来、一筋に手捻りよる立体造形を制作してきたが、いつのころからか磁器への憧れが芽生えてきた。 動機は確かに、陶器の制作で味わってきた私の経験の中にある。 それは、さながら土器から陶器、磁器へと、より焼き締めてガラス化を求めた焼成の歴史を辿るようでもある。 

 私の求める白は、化粧土によるうわべの白ではない。 芯から表面まで全体を支配する白でありたい。 私の求める質感は、もっと硬質で光を透すほどに焼きしまり、凛としてありたい。 そんな磁器への憧れが抑えきれなくなったのである。

 この5年間は悪戦苦闘の日々であった。 陶器での制作で獲得した成形技術や、焼成技術が通用しないのである。 素材を一つに限定して制作する陶芸の造形は、その不自由さをも受け入れ、素材の声を聞くことが不可欠である。 しかし、それにしても磁器の記憶現象は手強い。 紐で積み上げていく過程を形体の奥深くに記憶し、どんなに綺麗に仕上げをしても、押さえ込んでも、なだめすかしても焼成と共に顔を出してくるのである。

 頑固なまでの記憶現象や、我侭で決して媚びない素材の魅力に負けないで、私自身を織り込まないと私が制作する意味がない。 あくまで主役は私なのだ。 とはいえ「素材の魅力にもたれて漫然と制作してはならない」と、肺腑をえぐる自問の最中に「磁器にだって生身の温かい血が流れている証じゃないか」と、惚れた弱みが顔を出す。


 押さえ込むことばかりに躍起にならず、少しは大人になって磁器の魅力を生かしてみよう。

 遠くで「軟弱者」との声が聞こえる。