岐阜新聞 朝刊 2016年12月10日

素描
「風に聞いてくれE」


 ある専門学校から、「陶磁器産業の後継者育成について」のテーマでパネルディスカッション参加の依頼が来た。今、後継者育成はどの産地も大変な状況である。「誰か行ってくれないか?」と職員に話したが、「所長指名です」と引き受け手がない。重い腰を上げて出かけた。

 200人ほどの若者を前に、「アイデアを出せ。努力すれば道は拓ける」と、自分が若かった頃に習った価値観を振りかざして、知った風な顔で未来を語るパネラーと同じ檀上にいるだけで自己嫌悪に陥った。もし語ることがあるとしたら、それは長くこの仕事に携わった経験でしかない。

 たとえ、若き日に必死で生き、身に付けた自分の価値観が不変だと勘違いしても、時の経過とともに人は変わる。あの日に見た感動的な風景が、今は別の感情を生み保守的になるともいえる。未来の空気はまさに今を生きている若者にしか嗅ぎ分けられるはずがない。

 そろそろ説教ではなくて、今まで生きてきて経験したことを深める努力をすることだ。それを未来に繋げるためには若者に託すしかないことを知るべきであろう。不可視の未来は若者にある。

 などと力説しても、正直に言えばそんなことは今の私には興味ない。なぜならば、私も今の時代を生身の人間として生きているからだ。
私は最近大きな決心をした。それは、人生を振り返らずただ「今を生き切る」決心だ。過ぎ去った過去。♪振り返えってもそこにはただ風が吹いているだけ。

 ♪The answer is blowin' in the wind.