岐阜新聞 朝刊 2016年12月3日

素描
「風に聞いてくれD」


 「よく〈ジショ〉られますね」と話したら、先生はきょとんとされた。地質学者の糸魚川淳二先生は、砂目石版画のコレクターであり、また現代陶芸の理解者でもある。近くにお住まいでもあるし、高校の先輩という事もあって、月に何度かお邪魔する。

 先生は会話のなかで少しでも気になることがあると、すぐに辞書を手にされる。言葉の意味を正確に掴んで論理的に話される先生との芸術談義は、いつも核心に迫って私の大切な時間となる。

 大学に赴任した当時、「シュウカツで授業欠席します」と申し出た学生に〈シュウカツ〉は就職活動だと教わった。「民芸運動ってなんですかぁー? 一応〈ググ〉ってみたんですけどぉ!」と、今の学生。

 携帯電話をガラケーからスマホに替えておいて本当に良かった。「トリセツ」が「取扱い説明書」だと知ったのもスマホで〈ググ〉ったからだ。何でもかんでも分かるのです。すぐに答えが出るのです。でも、〈ググ〉って分かるなら「質問するな!」と、すねても見たくなる。

 今日も先生は雑談のなかで、辞書を手にされる。〈あまりにも遠くにあるもの、もしかしたら無いかもしれない不確かなもの、美かもしれないもの〉を微かに感じながら弾む先生との会話。それは、書棚に並ぶ本の数々とコーヒーの香り、窓の外に見える雑木林があるからだ。辞書とGoogle。〈ジショ〉ったり〈ググ〉ったりした先に見えるもの? 答えは雑木林に吹く風の中。

 ♪Before she sleeps in the sand?