岐阜新聞 朝刊 2016年1月19日

素描
「風に聞いてくれB」


 昨年まで務めた教育大学での講義中の事である。「陶磁器とは狭くは施釉陶器と施釉磁器とに分けられるが、その違いは磁器には透光性があるが、陶器にはない。他に?」と問うと「磁器には磁石が入っている」と返ってきた。「瀬戸焼、美濃焼、有田焼。他に?」と問うと、「大判焼き」と返ってきたこともある。まだ今川焼きや鯛焼きでなくて良かった。秀逸は飲食器を問うた時である。土瓶と急須が出てこない。「お茶飲まないの?」との私の問いに、女子学生が自信に満ちた大きな声で「尿瓶!」と答えてくれた。さもありなん、彼らの生活に急須は身近なものではない。

 大学に赴任してすぐに、学生が歓迎会を開いてくれた。陶芸専攻の学生が紙コップと紙の皿での歓迎会であった。「説教コンパ」になったのは当然である。そんな折も折、信楽の「陶芸の森」に講師として呼ばれたが、打ち合わせの会に出てきたお茶は、ペットボトルと紙コップであった。学生に「生活に根差していないのは僕かもしれない」と話したことを思い出す。
 
 赴任したばかりのころは、お茶を飲みながら講義を聴く学生を厳しく叱ったが、教授会では学長がぺットボトルを口にしながら話していた。講座会議では、昼食を取りながら参加する教授も多数いた。

 今日、職員会議を一人コーヒー飲みながら開いている私がいる。「進んでいるのか、ただの無礼者なのか?」時代の変化に自分の位置が測れない。

♪The answer is blowin’ in the wind