■"Anthology" The Cars (Rhino)

 近ごろライノ・レコードはアトランティックものの再発が一段落。ブレッドとか
ファイアフォールとかラヴとか、エレクトラ・レコードに残された遺産の発掘に取
り掛かった。でもって、いよいよカーズの登場。おなじみニューウェイヴっぽさを
まぶしたパワー・ポップが存分に味わえる。2枚組の実によく練れたアンソロジー
だ。未発表音源もあり。さすがはライノ。選曲も音もいい。一生ついていきます。
そういえばコンピュサーブのライノのフォーラムに、ビル・イングロットがリマス
ターするときのグラフィカル・イコライザーのフェーダーの図ってのが画像ファイ
ルでアップされてたな。興味のある方はどうぞ。ちなみに、日本ではライノの発売
元になっているイーストウェスト社と現在エレクトラの権利を持っているWEAと
の間で調整がつかないらしく、ライノのエレクトラ・マスター・シリーズは今のと
ころ出ずじまい。輸入盤屋さんで入手すべし。ラヴの2枚組アンソロジーもいいよ
ー。


■"The Best Of ..." The Jimmy Castor Bunch (Rhino)

 これもライノもの。66年のジミー・キャスター名義のヒットから、72年、ジミー
・キャスター・バンチを結成以降のヒット、全部を網羅。えぐいノヴェルティ・フ
ァンクがこれでもかとばかり楽しめます。


■"Anthology 1" The Beatles (Apple / Capitol)

 今さら紹介することもないとは思うけど。これ、日本語版ウィンドウズ95が出る
前日リリースだったでしょ。なんか95とこのアンソロジー、イメージがダブるんだ
よなぁ。ウィンドウズ95も宣伝に乗せられてパソコン初心者が次々手を出してイン
ストールに苦しんでいたりするみたいだけど、このビートルズのアンソロジーも宣
伝に乗せられてビートルズ初体験みたいな若いリスナーがいきなり手を出したら痛
い目を見そうだ。音のいい海賊版みたいなもんだから。もちろん、ずば抜けた才能
と勢いを誇っていた当時のファブ・フォーだけに、アウト・テイクといっても素晴
らしいものだったりするわけで。楽しめるけれど。それにしたって、この素晴らし
さをまるごと受け止めようと思ったら、んー、少なくともビートルズのオリジナル
・アルバム各100回聞いたあとでないと……ね。
 ただ、ひとつ。ジョンのボツ曲に残る3人が新たにバックを付け加えたという「
フリー・アズ・ア・バード」でのリンゴのドラム! この音だよねー。すごい。こ
の音、他のドラマーには絶対に出せない。感動しました。


■"Dangerous" Ronnie Spector (Raven)

 70年代後半以降のロニー・スペクターの活動をまとめたCD。輸入盤に解説を加
えた形で日本でもヴィヴィドからリリースされたみたい。内容は87年のアルバム全
曲に加え、スプ親分のバック・バンド、E・ストリート・バンドとの共演によるシ
ングル(「さよならハリウッド」/「ベイビー・プリーズ・ドント・ゴー」)や、
エディ・マネーとの共演曲「テイク・ミー・ホーム・トゥナイト(ビー・マイ・ベ
イビー)」、サウスサイド・ジョニー&ジ・アズベリー・ジュークスとの共演曲な
どを一気に収録したもの。ビリー・ジョエルがフィル・スペクター・サウンドを意
識して作った「さよならハリウッド」を、ロニー・スペクターがE・ストリート・
バンドをバックに歌う……なんてのは、もうむちゃくちゃイマジネイティヴで。出
た当時、異常に盛り上がったものだ。そんなにたいした出来じゃないんだけどね。
でも、好き。エルヴィス・プレスリーの「バーニング・ラヴ」のカヴァーもかっこ
いい。


■"Playback" Tom Petty & The Heartbreakers (MCA)

 CD6枚組ボックス・セット。基本的には76年から91年まで、彼がMCAに残し
たアルバムからのセレクションだけど、シングルB面曲や別ヴァージョン、ライヴ、
未発表曲などがたんまり。原盤のライナーも充実。トム・ペティ自身へのインタヴ
ューをもとにした全曲解説もむちゃくちゃ興味深い。ジェフ・リンのプロデュース
がうまくいかなかった裏話とか、いやはや、まさに“聞いてみたからわかったよ”
的な感じ。初期の、胸をえぐるような青く鋭いペティから、徐々にたくましさを増
し、南部的な感覚などを盛り込んだルーズなペティへと変化/成長していく様が味
わえた。かわいいバックステージ・パスのおまけも付いている。うれしい。




(c)1995 Kenta Hagiwara
kenta@st.rim.or.jp