これ、買おうと思ってる方、ヨーロッパ盤CDには注意したほうがいいっすよ。
最初ぼくもヨーロッパ盤を買ったんだけど、なんかインデックスの打ち方をミスっているみたいで。いきなり冒頭に妙なインストが聞こえてきて、それがぶつっと切れたあと、MCが登場して本編がスタート。でも、途中のインデックスもおかしくて、CDプレーヤーで何曲目とか指定しても変なところに飛ぶし。ラストに入っている「セイリン・シューズ」は途中でぶったぎれるし。
いち早くヨーロッパ盤を買ったという知人ふたりに話を聞いたら、どちらも同じ症状だって言ってた。もしかしてヴァン・ダイク・パークスだけに、わざとこういうのを作ったのかとも思ったものの。やっぱりおかしいからアメリカ盤を買い直したら、こちらは普通にMCでスタート。インデックスもそれぞれ曲アタマに打ってあるし、もちろんラストの「セイリン・シューズ」はきっちり最後まで完奏していました。
というわけで、アメリカ盤を入手してようやくまともに聞けるようになった本盤。1996年のライヴ音源だ。ピアノを弾く本人やコンサート・マスターをつとめるシド・ペイジを含め、総勢18人。リズム隊プラス・ストリングス・オーケストラという編成で、屈折の果てにたどりついた郷愁がむちゃくちゃ心地よい鉄壁のヴァン・ダイク・ワールドを構築している。何年か前、この人が日本にライヴやりに来たとき、ぼくはちょうどハワイかなんかに行っていて見ることができなかったんだけど、日本公演もこういう感じだったのかな。だとしたら、見たかったなぁ。
既発曲としては、『ソングサイクル』から「オール・ゴールデン」、『ディスカヴァー・アメリカ』から「FDRイン・トリニダード」とリトル・フィートのカヴァー「セイリン・シューズ」、『ジャンプ』から、タイトル曲の「ジャンプ」と「ホーミニー・グロウヴ」、『トーキョー・ローズ』から「カウボーイ」、『オレンジ・クレイト・アート』からタイトル曲「オレンジ・クレイト・アート」と「ウィングズ・オヴ・ア・ダヴ」と「セイル・アウェイ」。ピアノ一発で歌われる「オール・ゴールデン」と、ブライアン・ウィルソンのヴォーカルではなく自ら歌う『オレンジ・クレイト・アート』からの曲が特にうれしかった。
加えて、ミシシッピに捧げたジョン・ハートフォード、72年の佳盤『ダウン・オン・ザ・リヴァー』に収められていた「デルタ・クイーン・ワルツ」のカヴァーや、19世紀、ニューオリンズで生まれ、アメリカン・フォークのメロディやリズムを自らの作品へと昇華させながら世界的に名を馳せた初のアメリカ人ピアニスト/作曲家、ルイ・モロー・ゴットショーク(クラシックの世界ではゴットシャルクって読むみたいだけど)の曲も2曲取り上げている。
ヴァン・ダイク作の「チキン」って曲も入ってるけど、これ、新曲? 何かに入ってたっけ? ちょっとわかんないです(笑)。
カヴァーの取り混ぜ方も含めて、まさしくヴァン・ダイク流のアメリカン・ノスタルジア。こういうのを聞いていると、1966年、ブライアン・ウィルソンとヴァン・ダイクが組んで幻の『スマイル』で構築しようとしていた“世界”の輪郭がますますくっきりしてくるようだ。ロックンロールの誕生を契機によりヴィヴィッドな形で発展してきたアメリカン・ポップ・ミュージックが、ブライアンとヴァン・ダイクという希代のクリエイターの感性を媒介に、たとえばスティーヴン・フォスターやウッディ・ガスリーやレッドベリー、あるいはアイヴス、コープランド、ガーシュイン、バーバーあたりにも通じる、抗いようのないアメリカン・ノスタルジアと有機的な脈絡を結ぼうとしていたのが『スマイル』だったんだと、ぼくは思う。完成していてほしかったよね、やっぱり。
本盤はそんな夢に改めて思いを馳せさせてくれる、素敵な一枚だ。
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