Kenta's ... Nothing But Pop

Live At Carnegie Hall
Stevie Ray Vaughan
and Double Trouble

(Epic)


4th August, 1997



 もう7年が過ぎてしまったんだなぁ。

 忘れもしない1990年8月27日。突然の訃報だった。ウィスコンシン州イースト・トロイ近郊のリゾート地に設置された野外コンサート・ホール、“アルパイン・ヴァリー・ミュージック・シアター”に観客3万人を集めて行なわれたコンサートへの出演を終えたレイ・ヴォーンは、次の公演地であるシカゴに向かってヘリコプターで移動中、濃霧のために人工スキー場の斜面に激突。その瞬間から、あの、スピーディで、スリリングで、ガッツあふれる、無敵のテキサス・ロードハウス・スタイルのギター・プレイを、もう二度と生で味わうことができなくなってしまった。享年35歳。レイ・ヴォーンの訃報を受け、彼の本拠地でもあったテキサス州オースティンのジルカー・パークには無数のロウソクが飾られ、多くのファンがその死を悼んだ。

 1954年10月3日、テキサス州ダラス生まれ。元ファビュラス・サンダーバーズの名ギタリスト、ジミー・ヴォーンが実兄にあたる。幼いころ、まずジミーがギターを手にし、後を追うようにスティーヴィーも7歳になったころからギターを弾きはじめた。1970年、ジミーは“ストーム”というバンドを組んで、同じテキサス州内のオースティンへ。クラブ・シーンでプロ活動を開始した。すでに学校をやめ、ダラスのクラブなどでバンド活動していたスティーヴィーも1972年に兄の後を追い、オースティンへと向かった。クラブ・サーキットでブルース・セッションなどを繰り返し、それぞれにワザを磨いた二人だが、やがてジミーは1977年にファビュラス・サンダーバーズを、スティーヴィーは1981年にダブル・トラブルを結成。本格的なメジャー活動へと突入した。83年にデヴィッド・ボウイの「レッツ・ダンス」にゲスト・ギタリストとして参加しロック・ファンにも衝撃を与え、やがてスターダムに。

 1983年リリースの『テキサス・フラッド〜ブルースの洪水』、1984年の『テキサス・ハリケーン』、1985年の『ソウル・トゥ・ソウル』、1986年の2枚組ライヴ『ライヴ・アライヴ』など。彼が残したアルバムはどれも素晴らしい。けっして派手な仕上がりではないけれど、ロックンロールやブルースが本来持っている人間臭さをたっぷりと放っている作品ばかりだ。Z・Z・トップにせよ、ジョージア・サテライツにせよ、ファビュラス・サンダーバーズにせよ。テキサス出身のアーティストの音を聞くたびに思うのだけれど。テキサスってところは、州外の現在進行形の状況からまるっきり隔絶されてるみたいだ。実際にはそんなわけないのだが、でも、ついそう思えてしまう。彼らテキサス出身アーティストのアルバムには、それほどガンコに、脈々と、泥臭いブルース・フィーリングが生き続けている。レイ・ヴォーンのアルバムも同様だ。時の流れからぽっかりと取り残されたような臭さを実にいい形で真空パックしたような仕上がり、とでも言えばいいのだろうか。シカゴ・ブルースからデルタ・ブルース、ブリティッシュ・ホワイト・ブルース、さらにはジミ・ヘンドリックスまで。あくまでもブルースに根差した様々なギター・スタイルを軽々と融合させながら、レイ・ヴォーンはヒューマンでパワフルでスピーディなグルーヴをつむぎあげていく。爽快だ。

 でもって、今回突如リリースされた本盤は、彼がもっとも勢いに乗っていたころ、1984年の10月4日、ニューヨークのカーネギー・ホールで行なわれたT・J・マーテル基金のベネフィット・コンサートの模様を収録した怒濤のライヴ・アルバムだ。どこに隠してたんだよ、こんなかっこいい音を。ジミー・ヴォーン、ドクター・ジョン、ルームフル・オヴ・ブルースのホーン・セクションなどを従えて、格調高いカーネギー・ホールをテキサスのロードハウスにしてしまう。ギターを弾く人なら誰でも一度は挑戦してみたはずの自作インスト「Scuttle Buttin'」で幕を開けて、それからはえんえんぶりぶりの弾きまくり。すっげーかっこいい。ジミー・ヴォーンとギター・バトルを展開する、ギター・スリムの「The Things That I Used To Do」のカヴァーもすごい。

 ご存じの通り、レイ・ヴォーンは、1986年、ドラッグとアルコールの常用からロンドンで倒れてしまったことがある。そのせいで、一時期、シーンの最前線から姿を消してしまうことになるわけだが。本盤はそんな苦闘の時期に突入する以前、ピークめがけて爆走していた当時のレイ・ヴォーンの姿をくっきりとらえた1枚だ。このライヴ演奏の隅々にまで詰まっているルーツ・ミュージックへの限りない愛情とガンコなまでのこだわりは、いつの時代でも変わらずにシーンに根付いていてほしいものだ。その担い手としてのスティーヴィー・レイ・ヴォーンを失った悲しみは、やはり大きい。このアルバムを聞きながら、またそんな思いを新たにしてしまう。


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