Kenta's ... Nothing But Pop
..Reviews (Contemporary): 7/10/1997



Reviews   Music

Wyclef Jean Presents the Carnival
Wyclef Jean
(Ruffhouse/Columbia)

 フージーズのワイクレフ・ジーンの初ソロ。といっても、アルバム・クレジットには“featuring Refugee Allstars”とあり、ローリンちゃんをはじめ、フージーズ人脈もきっちり参加した新作って感じだ。

 フージーズは、なにかと、こう、ギャングスタ方面へと視野が狭くなりがちだったラップの世界に、もう一度音楽的な要素とか、ギャングスタ以外の歌詞の世界とかを思い出させるうえでとても重要な役割を果たしてくれたわけだけれど。ワイクレフ・ジーンはそこんとこをさらにもう一歩、意識的に押し進めたような音作りを聞かせている。

 R&B、ゴスペル、ジャズ、アフロ・カリビアン、レゲエ、サルサ、フォーク、ヨーロッパ系ムード・オーケストラもの、そしてなんとニューヨーク・フィルまで動員したクラシックやオペラの要素までを、けっこう知的にごった煮にした仕上がり。サルサの女王、セリア・クルースをゲストに迎えてリメイクされた「グアンタナメラ」とか、ネヴィル・ブラザーズをゲストに迎えたスウィートな「モナ・リサ」とか、お見事だ。

 クレオール・ランゲージでのラップや歌をフィーチャーした曲も何曲かあって。妙に新鮮。自らのルーツを強く意識した意欲作ってとこでしょうか。

Love, Peace & Nappiness
Lost Boyz
(Group Home/Universal)

 ごきげんなシングルが出てからアルバムが出るまで、やけに時間がかかったものだから、こいつらのファースト・アルバムはぼくにとって本当に待ちに待った1枚だった。半年くらい待った覚えがあるけど。そのおかげで、ファーストはずいぶん聞きまくったっけ。

 で、登場した新作。クイーンズを本拠にする彼ららしく、もろ東系の音でわくわくさせてくれる。ぐっとコアに、ドープにきめた作品もあるし、歌詞のほうで最近のヒップホップ・シーンのどうにもならない現実に思いを馳せる曲とかもあるけれど、全体的な印象はさほどダークじゃない。

 レッドマンやA+らのバックアップを受けた「Beasts From The East」がベスト・トラックだけれど、メンバーのチークスとターががっちりリードした他の曲もなかなかの出来。現実の世界がはらんでいる様々な問題に言及しながらも、とことん突き詰めることなく、まあ、なんとかなるだろう……的に解決していく曲が多いような感じで。そこがもしかしたら批判の対象になるかもしれないけれど。ポップ・ミュージックとしては、実はこっちのほうが正解なんじゃないかとも思う。まじに。

Homemade Blood
Chuck Prophet
(Cooking Vinyl)

 元グリーン・オン・レッドのチャック・プロフェットの新作。ちょっと前に出たものだけれど、ようやく見つけて買うことができたぜっ。うれしい。やるな、池袋HMV。

 たぶんこれがソロ4作目。グリーン・オン・レッド時代よりもぐっとカントリー/スワンプ色を強く打ち出した姿勢がごきげん。スティーヴ・バーリンがプロデュースした前作『Feast of Hearts』も素晴らしかったけれど、今回のほうがさらにラウドかつファンキーな仕上がりだ。CCRとか、ジョージア・サテライツ〜ダン・ベアードあたりのファンには絶対おすすめ。

 ジョン・フォガティの世代でもなく、ベックの世代でもない、その中間に位置しながらルーツ・ミュージック探訪を続けるプロフェットはダン・ベアード同様ずいぶんと損をしているのかもしれないと思う。けれど、そんなある種中途半端な世代ならではの何とも言えない喪失感が漂う音像と歌詞は本当に魅力的だ。

The Mollusk
Ween
(Elektra)

 こいつら、ホントにイカれたやつらだけど。イカれ具合がアルバムごとにがらっと変わっちゃうところが、まじ、すごいです。チープな宅録系サウンドでキメてみたり、ファンク/ディスコ調のビートを取り入れてみたり、本場ナッシュヴィルで一流ミュージシャンをバックにやばい歌詞のカントリーをぶちかましてみたり……アルバムを出すたびに新たなネタに挑むその勢いに脱帽です。

 で、この6枚目のアルバム。今回はひとつのサウンド・スタイルにこだわることなく、乱暴にジャンル横断しながら彼ら独特のイカレ感覚を全開にしているみたい。歌詞をまだよく把握していないので、もしかしたら何か大きなテーマに貫かれているのかもしれないけれど。でも、“軟体動物”なるアルバム・タイトルから見ても、今回は曲ごとにくねくねしてみた、と。そういうことじゃないかと思う。

 いきなりグッド・オールド・タイム調の陽気な曲にサンプラーのピッチをいじりまくったようなヴォーカルを乗せた曲でスタートして、その後はポルカをおちょくったり、テクノをおちょくったり、最近ふうのオルタナ・ポップをおちょくったり、フォークをおちょくったり。次々と狼藉を繰り広げる。テクノ・カントリーとでも言いたくなるようなサウンドの「Waving My Dick In The Wind」とか、くっだらねーんだ。アメリカ版「たんたんたぬき」ってとこでしょうかね、こりゃ。

 ただ、一瞬、ティラノザウルス・レックスを思い出してしまった「Mutilated Lips」とか、すげえいい曲だし、歌詞も美しくねじれてるし。きっちり音楽家としての才能も発揮してたりして。あなどれないねー、まったく。

Straight On Till Morning
Blues Traveler
(A&M)

 ブルース・トラヴェラーがライヴ・ゲストとして登場した去年のMTVムービー・アワードの席上。最優秀映画賞を受賞したタランティーノが、例のポップコーン型のトロフィーとともに、ブルース・トラヴェラーのリード・シンガー、ジョン・ポッパーからもらったブルース・ハープを高く掲げて、「見ろ、ブルース・トラヴェラーのブルース・ハープだぞっ。いいだろう!」と本気で観客に自慢していたっけ。それ見ながら、ああ、こういう人の間で特に人気の高いバンドなんだろうなぁ、と妙に納得してしまった覚えがある。

 今回の新作も、きっとああいう人たちの間で大いに人気を集めるわけだな。オールマン・ブラザーズ・バンドとかマーシャル・タッカー・バンドとかエルヴィン・ビショップとか、そういうのが当たり前に好きだった世代にとって、どうにも抗えない何かをこいつらは持っているみたいだ。だから、ぼくもそれなりに好意的に聞いてしまうのだけれど。

 もちろん、この人たちはニューヨークが本拠だから。先に列挙したサザン・ロック軍団とは違う、もっと、こう、60年代グリニッチ・ヴィレッジでブルースにのめり込んでいた白人フォーク・アーティストとか、ポール・バターフィールドとか、マイケル・ブルームフィールドとか、アル・クーパーとか、そういう連中に通じる冷静なたたずまいもあったりするわけで。ある種の“理性”のもとで構築されたバーチャルなパワーハウス・ブルース・ロックって感じでしょうかね、この新作も。

 どの曲でもポッパーさんのウルテク・ハーモニカ・ソロがフィーチャーされていて。これが鼻につく人には絶対ダメかも。納豆嫌いな人はいくら説得してもダメだもんね。

Pristine Smut
The Murmurs
(MCA)

 たぶん3枚目のフル・アルバム。ミニ・アルバムも入れれば4枚目かな。90年代アタマから活動している女の子2人組の新作だ。

 これまではアコースティック・デュオって感じだったけれど、今回はエレクトリック・ギターに持ち替えて、やはり女の子のベースとドラムを加えたバンド編成によるレコーディング。全11曲中、4曲をk.d.ラングがプロデュースしている。そう思うと、確かに4人とも、まあ、なんというか、“そっち方面”の女の子っぽくも思えたりして。記憶が定かではないのだけれど、中心メンバーのリーシャとヘザーのうち、どっちかがk.d.ラングとデートしているところをスクープされてたような気がする。わかんないけど。深いです。

 ギター・バンド編成になったとはいえ、透明感のある、抜けのいい音像が魅力的。相変わらず、女の子ならではの、夢見ているようでいながらしっかり冷静な歌詞の世界も光る。暑い日とかにぽけーっと聞くのにもいいかも。

Butch
The Geraldine Fibbers
(Virgin)

 95年に出た『Lost Somewhere Between The Earth And My Home』に続くセカンド。カントリーとパンクを下敷きに、ちょいとエキセントリックかつキャンピーにきめたバンドって手触りは変わらない。けど、ヴォーカル&ギターのカーラちゃんの歌声に深みと表現力がついて。それがよかったのか悪かったのかよくわからないながら、確かにバンドとしては成長をとげているようだ。

 パンキッシュだったりスペイシーだったりするギターに、フィドルやら、ウッドベースやらが絡む音像は魅力的。ただ、様々な音楽要素をひとつのサウンド・スタイルの中に融合するのではなく、曲ごとに突如、もろカントリーになったり、もろノイジーなパンクになったり、不安定な浮遊感がみなぎるバラードになったり……と、雑多な方向性を無理に統一することなくどばっとぶちまけたような仕上がりだ。だから、ぼくは曲によって好きだったり、嫌いだったり、です。

Love Among the Ruins
10,000 Maniacs
(Geffen)

 ナタリー・マーチャントが抜けて、解散するのかと思ったら、新リード・シンガーを立てて活動再開だ。86年に脱退したジョン・ロンバードと一緒にフォーク・ロック・デュオ、ジョン&メアリーをやっていたメアリー・ラムゼイが新リード・シンガーの座について、とともにジョンのほうもバンドに復帰。まあ、マーチャント時代とそんなに大きく変わらない音世界を構築してはいる。

 ただ、マーチャントの後釜はやっぱりキツイよね。同じように淡々としたヴォーカルを聞かせてくれるメアリーさんだけど、淡々とした中での表現力となると今ひとつかも。昔からのマニアックス・ファンがその辺を攻撃対象にしてくるかもしれない。がんばってね。

 すでに全米チャートにランクインしているロキシー・ミュージックのカヴァー「More Than This」と、アルバムのオープニング・チューン「Rainy Day」がベスト・トラックかな。ジュールズ・シアが共作者としてクレジットされている3曲も悪くない。

Egyptology
World Party
(The Enclave)

 ビートルズ、ボブ・ディラン、ヴァン・モリソンなどなど、影響を受けたアーティストの味をもろストレートに出してしまうのが特徴の(笑)ワールド・パーティの新作。今回もそういう感じです。もろビートルズ、もろボックス・トップス、もろポール・リヴィア&ザ・レイダーズ、もろトレイシー・チャップマン、もろニール・ヤング……と、曲ごとにメロディ感覚を変えつつ、全体を生楽器中心の浮遊感あふれるアレンジで包み込んだ仕上がり。

 その辺に気づきながら聞くのと、そうでないのとではずいぶんと評価も変わってくるのだろうけど。気づいてはいても、カール・ウォリンジャーのなんともかよわげな歌声が放つ妙な吸引力に持ってかれちゃうところはあります。イギリスのポップスだなぁって感じか。

Little Head
John Hiatt
(Capitol)

 ちょうど10年前に出た『Bring The Family』の素晴らしさがいまだに忘れられないジョン・ハイアット。そのアルバムをきっかけに生まれたバンド、リトル・ヴィレッジを経て、その後もあれこれアルバムが出てはいるものの、どうも今ひとつぼくの胸を直撃してはくれないのだけれど。

 今回の新作はちょっとだけ好き。『Bring The Family』ほどではないけれど、やっぱりこの人はいいなぁ……と思わせてくれる、そんな渋い底力がアルバム全体に流れている。ブルース、R&B、カントリー、ロックンロールなど、ルーツ・ミュージックをこよなく愛し、すべてを自分なりに昇華した彼ならではの深い表現がそれなりに楽しめる。

 曲によってタワー・オヴ・パワー・ホーン・セクションやらベンモント・テンチやらが参加。

Get Some
Snot
(Geffen)

 ヘルメットやハウス・オヴ・ペインとの仕事でおなじみのT−Rayのプロデュースのもとデビューしたカリフォルニアのハード・コア/ミスクチャー系ロック・バンド。といっても、メンバーはそれぞれ、東や西でパンク・バンドやらスラッシュ・メタル・バンドやら、いろんな活動をしてきた強者ばかり。なんでもスノットは、友達のパーティのために即席で結成したバンドで、まさかデビューすることになるとは思ってもみなかったのだとか。

 アグリー・キッド・ジョーが彼らのデモを聞いて気に入り、それをきっかけにデビューが決まったらしい。まあ、とにかくそういう音です。ポップ・ミュージックの“旬”みたいなものを気にすると、ちょっと旬を逃した音って感、なきにしもあらずだけど、カリフォルニアのティーンにはたまらないバンドなんだろうなぁ。暑い日には熱いお茶……というのが好きな人には、この夏、絶好のパートナーかも。




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