Pick of the Week


About To Choke
Vic Chesnutt
(Capitol)



 どっかで見た名前だなぁ……と思ったら、今年の夏、アメリカでリリースされたチャリティ・アルバム『スウィート・リリーフ2(Sweet Relief II: Gravity of the Situation)』の主役だった人。

 いや、主役って言い方はおかしいかもしれないけど。93年にリリースされた『スウィート・リリーフ1』は、多発性硬化症という難病と闘う女性シンガー・ソングライター、ヴィクトリア・ウィリアムスに捧げられたチャリティ・アルバムだった。パール・ジャム、ルー・リード、ソウル・アサイラム、ジェイホークスなど多くのミュージシャンが集まってヴィクトリアの曲をカヴァーし、一枚の素晴らしいアルバムに結晶させていた。そして、その第二弾にあたる『スウィート・リリーフ2』にはREM、ソウル・アサイラム、スマッシング・パンプキンズ、クラッカー、フーティ&ザ・ブロウフィッシュなどが参加。そこでカヴァーされていた様々な楽曲が、すべてこのヴィック・チェスナットのペンによるものだった。

 なんでも、10年以上前、交通事故で首の骨を骨折。それがもとで両足が麻痺。現在も車椅子での生活を余儀なくされている男性シンガー・ソングライターだ。そんな彼を支援するミュージシャンたちによって作られたチャリティ・アルバムが『スウィート・リリーフ2』だったわけだ。すでにインディーズで4枚のアルバムを出しているらしい。今回、キャピトルと契約して待望のメジャー・デビューとあいなった。

 全体の印象としては、南部っぽいフォーク・センスをベースに、無垢なような、皮肉なような、ユーモラスなような、達観したような、淡々としたまなざしを、なんとなくキャット・スティーヴンスあたりを思わせる声でシンプルに歌いつづった一枚って感じ。かなり魅力的です。もともとロックっぽい曲もファンクっぽい曲も演奏できる多彩さを持った人らしいんだけど、このメジャー・デビュー・アルバムはすっかりシンプル。生ギターでの弾き語りを基本に、友達ミュージシャンとおぼしき連中の地味な、しかし的確なバッキングを得て、イノセントなシンガー・ソングライター色を強調している。その感じがとってもいい。吸引力がある。

 曲によっては、ギター一本で歌いながらも、なるほどこの曲はきっとリズム・セクション入りでやったらもっとアタックのきつい、ファンキーなロックになるのかな……という曲もある。ヤマハのポータサウンドで打ち込んだチープなドラムとベースだけをバックに、口でトランペットの真似をしたりしながらジャジーにスウィングする……なんて、森高千里ばりの狼藉もある。多彩さの片鱗はしっかり記録されている。

 ドラム入りの曲では、そうだな、たとえばソウル・アサイラムとか、あのテのバンドと同じようなニュアンスが聞き取れたりもする。

 ベックあたりと同様、“出口なし”って感じの世代ならではのちょっとねじれた歌詞も面白いし、メロディも深い。歌もうまい。と思う。かなり惹かれてます。カレッジ・シーンを中心にきっとウケるよ、これは。いや、あんなそうそうたる顔ぶれによるチャリティ・アルバムが作られちゃうぐらいだから、もうウケてるのか。もっとウケるよ、うん。ホームページもありそうだな、ぜったい。調べてみよっと。