南の島へ(2000.9.3-5)

第3話 もう一つの世界・海の底から

今回の旅行は、飛行機と宿だけ決めておいて、後は成り行き任せ・・・という無計画を極めたものだった。しかし、ここで綴る「体験ダイビング」だけは、一度やってみたくてやってみたくて、当初から予約を入れておいた。

美しい国道を北へ

9月4日、朝7時半。今日お世話になるインストラクターの方と筆者とが乗ったワゴン車は快調に国道58号を飛ばす。行先は沖縄本島の北の方、那覇から1時間半はかかるという。

途中の宜野湾で、同じく体験ダイブのオプションツアーを予約をしていた3人を乗せる。嘉手納ロータリーを過ぎるあたりから、いままで進行右手に居座っていた米軍基地が見えなくなって、途端に風景が鄙びてくる。木々の間を抜ける道は広く、車は少なく、街路樹はシュロとかヤシとか南国の樹木、道端にはハイビスカスが咲いている。

石川方面への分岐を過ぎると、道は片側1車線に。進行左手はちょうどムーンビーチ。白い砂浜と底が透ける青い海とが広がる。4人とも息を飲んだり、歓声を挙げたり。景色と言い、雰囲気といい、こんなに気持ちのいい道路、筆者はまだ見たことが無い。ただドライブするだけでも、絶対楽しめると思う。

9時20分頃、車は国道を外れて細い桟道を渡る。名護の手前にある恩納村(おんなそん)の瀬良垣(せらがき)ビーチに到着。天気は晴、陽射しは十分。

切っても切れない機材の話

地上で基礎を学ぶ

少し遅れて、ダイビング用機材も到着。空気タンクやジャケット等が、人数分揃えられている。1人1着あてがわれたウエットスーツに着替える。思ったより柔らかく、楽に着られる。

その後、事前説明を聞く。はじめてスキューバダイビングをする人の場合、「水の中では息が出来ない」という意識が先行してしまい、呼吸を我慢してしまう人が多いという。ちなみに、タンクの中には、電話ボックス1個分の空気が詰まっている。実感が湧く。

一通りの説明が終わったあと、機材(浮力調整用のベストにタンクが固定されている。あと、軍手とブーツと浮力調整用のオモリ)を装着。バランスが悪いことを除けば、登山用のザックと同じくらいの大きさ・重さ・背負い心地である。背負ってみると適度に重く、「あ、来たな」と思う。

海中で実践する

ここ瀬良垣ビーチは、海中へと続く階段が用意されており、プールのように水深1メートルくらいの浅瀬が広がっている。そのような地形のため、体験ダイビングがよく行われており、筆者のグループ以外にも数グループが、機材を背負って海に入ってくる。

ウェットスーツにしみ込む海の水は温かく、かといって温かすぎず、実に心地よい。

ここで、機材の使い方などの詳細な説明を受ける。マスクをつけ、いろいろやってみる。その後、マウスピース(レギュレーターと言われる減圧装置が仕込まれている)を口にくわえる。水面上で息を吸い込んでも、シューという音がするだけで、面白くもおかしくもない。しかし、水面に顔を付けて同じことを繰り返すと、先程と同じように呼吸が出来る。

最後に、インストラクターに足ヒレをつけてもらい、準備完了。

海の中で

水の中で呼吸が出来る

2人づつ、インストラクターに手をとられながら、「ふし浮き」(プール等で体を前に倒し、足を後ろに投げ出すと、うつ伏せの状態で浮く)の要領で体を倒す。水面に吐いた息の泡を残して沈んでゆく。と、突然立ち上がって咳き込んでいる。むせたようだ。

今度は自分達の番。ここまで来た以上力んでも仕方がないので、力を抜いて足を後ろに蹴る。すると、うつ伏せのまま底まで沈んでゆく。「ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて、・・・」と意識しながらマウスピースの息を吸い込む。吐いた息が泡になって水面に上がってゆく。

すごい。水の中で呼吸が出来る。言葉で表現し様のない興奮を覚えた。

息苦しさに追われることなく

4人並んで、インストラクターの先導で出発。

バタ足の要領で両足をゆっくり上下に動かすが、どうも思っているようには前に進まない。また、オモリが重すぎるのか、海底で腹をこすることがよくあった。水の中は無重力に近い状態をイメージしていたので、ちょっと意外。忍者や匍匐前進のように、手も使って海底を這うように進む。

それでも、結構バランスをとるのが大変である。あっちに傾いたり、こっちに傾いたり、その度に手と足を使って態勢を整える。浮力のイタズラで体が軽く感じられるのは嬉しいが、いまいち重心が定まらずスワリが悪い感じがする。

当初は、こみあげてくるゾクゾク感でどうにかなってしまうのではないかと思っていた。しかし、滅多にできない経験に興奮してはいるが、思っていたより冷静な自分に気づいて「おや?」と思った。水の中でも、息苦しさに追われることなく、落ち着いてアレコレできるためだろう。

海の中で見たもの

手足を使って進んでいると、ポイントポイントでインストラクターが色々と指で示してくれる。岩みたいな形をしたヒトデ、細長い形をした魚の群れ、原色の青やオレンジ色をした小さな熱帯魚。写真やテレビでしか見たことの無い生き物が、こうして鮮やかに肉眼で見える。

その度に4人は集まって注目する。振り返ると、一緒に泳いでいる人の髪がたなびいている。

海の中を見回すと、底は隆起サンゴだろうか、石灰のような白い色が一面に広がる。ところどころに黒いウニや岩らしきものがある。かなり先の方までよく見える。「痛っ」見ると、ウニか何かに手を突いたようだ。

海底の地形は思いのほか凸凹している。水深は2〜3メートルくらいだろうか。底のあたりで泳いでいても、水面に降り注ぐ光が海の中まで入ってきて、とても明るい。水の色は、地上から見たよりも、もう少し濃くもう少し純度の高い青色、というような色である。

マスクの中に水が入ってきたので、首を上に向け、鼻から息を吐いてマスクの中の水を追い出す。この時、遠く離れた水面が太陽の光に照らされて、光がキラキラ反射して、ものすごくきれいであった。

余韻を残して

「何でこんなところが地球上にあるんだろう」。地上では見られない生き物、地上では見られない風景、そして地上では体験できない感覚。

海の中は、別世界としか言い様のない空間だった。見たものやったこと、感動の一言に尽きる。

 

どのくらい時間が経ったのか分からないまま(あとで聞いたが、正味20分くらい潜っていたようだ)、最初の浅瀬に戻る。地上へと続く階段を1歩1歩上がるごとに、あたかも別世界から現実に戻るかの如く、背中の機材の重みを感じる。

機材を外して、身軽な格好になる。一緒に潜った3人もものすごく感動していた。よくダイビングをすると人生観が変わる・・・と言われるが、その気持ち、良く分かります。

ビーチで一泳ぎした後、12時半ごろ那覇に向けて出発。帰りの車の中では、5人が先程の体験ダイブの話で盛り上がった。

 

今回はいい経験をさせていただきました。

第4話 サイトシーイング・チャンプルー

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