セイル破損時の補修について |
アクシデントで大切なセイルを破損するのは悲しいものです。水面に走り出して間もない時に破損してしまったら、その日のセイリングが終了。 になる場合もありますが、ご存知のように、フィルム面の小さな破れ程度なら、補修テープで問題なくセイルが使用できます。他にもスリーブクロスの小さな破れや、縫製部分の糸の切れ等、ユーザー様がその場で補修して使い続けることが可能な破損もあります。ただ注意してもらいたいのは、破損状態とそれに対する補修方法です。間違った補修方法を行うと、ダメージを広げたり、取り返しのつかないことになります。長年修理を行ってきて、相当数の破損セイルを見てきた中で、そのような間違った補修が減ってくれればと思い、記載しておきます。 まず、最近のセイルの破損で最も多いのがフィルムの破れです。小さな破れは、何か鋭利な物に引っ掛けた。とかですが、その場合はフィルムの付着物や水分をよく拭き取り、伸縮性の低いステッカー等で補修してください。ガムテープのような伸縮性のあるものはフィルムの破れに向いていません。それに加え、ガムテープを貼って長期間経過したものは、接着糊が強固に残って撤去が難しくなり修理を妨げます。ガムテープの接着糊は時間が経つと溶けたようになり、クロス部等に含浸していまい、きれいに撤去できません。仕方なくその状態で修理はしますが、修理で使用するクロスの接着力が極端に下がり、充分な強度が保てない可能性があります。 知らないうちにフィルムに小さな破れが所々に発生した場合で、セイルが長期間使用しているものであれば、紫外線劣化の可能性が高いです。劣化によりフィルムに粘りがなくなり脆くなってしまい、少しの衝撃でもヒビ割れるように破れが発生します。そうなったセイルはフィルム部全体が劣化していますので、破れ部分を修理しても他のパネルが次々と破れていきます。セイルの寿命が尽きた状態です。こまめにチェックして破れを発見次第、補修テープで補修しながらセイルの買い替えまで使い切るのも良いかと思います。とはいえ、沖で一気に大破して帆走が困難になる危険もありますから、使用判断は自己責任でお願いします。 スリーブの場合は、一部のレース系セイルを除き多くが化学繊維です。繊維の特性として、小さな破れの場合、一気に破れが広がることは少ないですが、スリーブトップから中央付近までは、マストの曲がりにより常に強いテンションが掛かっていますので、何かの拍子に破れが広がる可能性があります。スリーブ中央付近からタック部までの間で、小さな破れであれば、暫く使い続けることも可能かと思います。この場合、その日だけであればガムテープで良いかと思いますが、先に記載したように長期補修はNGです。他にはシリコン系の補修材も繊維に含浸して撤去できないばかりか、修理の際に使用するクロス等の接着が全くできなくなるのでNGです。 スリーブやバテンポケットの繊維、縫製部分の糸切れに、瞬間接着剤を使うユーザーが稀に居ますが、これは最もしてはならない補修方法です。瞬間接着剤は繊維に含浸して固まるとガラスのような硬さになり、ガムテープの接着糊以上に撤去ができません。ガラスのようになった瞬間接着剤は縫製も受け付けず、その硬さにより付けた部分の柔軟性をを奪い、更に破損部が広がります。固まった繊維が破れ(割れるという表現が近いです)その部分周囲も傷つけますし、硬化の際に高い熱を発生させ、セイルに熱のダメージも与えるという極悪ぶりです。修理する場合は必要以上に大きく削除することとなりますので、くれぐれも瞬間接着剤は使用しないでください。繊維部分の小さな破れや、縫製部の糸切れの場合はガムテープが手軽ですが、そのまま長期間放置しないことを忘れずに。ガムテープは繊維に対しての粘着力が高く使い勝手も良いのですが、粘着力の高さが仇にもなります。 あと、気がつきにくい場所として、スリーブの中のパネルの裂けがあります。強いダウンテンションによってスリーブの中に隠れているパネルが徐々に裂けるケースで、レース系セイルに発生することがあります。指定マストより硬いマストを使用している場合、指定マストと同じようなセッティングにすると、セイルには相当なダウンテンションがかかることになります。その結果、スリーブの中のパネルがテンションに耐えれなくなり破れが発生します。指定マストであってもマストへのカムの当たりが強いとセイルのローテイトの度に強いテンションがかかり、カム付近のパネルが裂けてくるケースもあります。表面的には見えない部分なので気が付かず、裂けが伸びてスリーブ横のパネルまで破れてから、気がつくユーザー様もいました。以前よりダウンを引かないといつもと同じセッティングにならない。ダウンを引く手応えが以前に比べて柔らかくなった。といった場合は、スリーブの中のパネルをチェックされることをお勧めします。 同様に、フリーライド系も最近は補強の省略化が進み、ダウンテンションによるタック周辺の補強内部の破れが見受けられます。外見では判断しにくいですが、上に記載したレース系と同じように、以前に比べダウンテンションを多くかけないと同じセッティングにならない場合や、ダウンを引く手応えが以前に比べて柔らかくなった場合は、補強内部の破れを疑ってください。タックの補強部の場合は、手の感覚で上から内部を探るように調べます。破れる場合は補強内部の補強材境目が大半です。固い内部の補強材の端を確かめてみて、部分的に境目が柔らかくなっている箇所があれば、破れている可能性が高いです。他にも、タック周辺補強部の端の境目に以前は確認しなかった接着糊の跡が少し見えてきた場合、その補強の下で裂けが発生している可能性があります。ダウンテンションの負荷による破損は進行に従って破損が複雑化します。違和感を感じたらチェックしてみてください。早めの発見、早めの修理で、セイルにもお財布にも大きなダメージを与えないようにしてください。 |