〜10years Episode15〜
構想・打鍵:Zeke
 この作品はフィクションです。登場する人物、名称、土地、出来事等は実在するものではありません。 
 また本作は(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を設定として使用しております。 
 

 2年前まで如月遊園地があったその場所には、見上げるようなビル群が林立してい
た。案内板を見る限りでは、『如月アミューズメントパーク』と名付けられたその巨
大な敷地は、内部にショッピングセンター、映画館、スタジオを抱え、小さい頃に良
く来た遊園地の面影は何処にもなかった。 

「へー、屋内にあるんだ。」 
「結構混んでるのね。」
 リニューアルして間もない事、更にクリスマスイブとあっては当然かも知れない。
「ここは夜の10時半までやっているから、本格的に混むのは昼過ぎからだよ。これ
 でも空いてる方じゃないのか?」 
 良く知ってるわね。来たこと無かったんじゃないの?
「……って雑誌に書いてあったぞ。」 
 フォローを入れてるところも怪しい……。やめた、余計な事考えないで今日は遊ぼ
う。そうよ! なんったってファーストデートだもの……少なくとも私はそう思いた
い……。 
  
☆ ゴーカート 
「はい、私の勝ち。」 
「……この車、フケが悪い。」
「龍之介君みたいにむやみやたらとアクセルを踏むだけじゃ駄目なの。」 
「じゃ、どうすんだよ。」
「他車との見切り、コーナーで滑らせると遅くなるし、かと言って全く滑らせないと
 速く曲がれないのよ。」 
「……なんだよそりゃ。」 
「最高速の鉄則。」
 
☆ アラビアンナイト 
「なにこれ?」 
「ブランコみたいなもんじゃないか? 良く知らないけど。」
「ふーん」 
 じりりりりりっ 
 ゆ〜ら ゆ〜ら ゆ〜ら 
 ゆ〜〜ら ゆ〜〜ら ゆ〜〜ら
 ゆ〜〜〜ら ゆ〜〜〜ら ゆ〜〜〜ら 
 じりりりりり 

「おお! 降りてもまだ揺れている。」
「ほんと。なんか真っ直ぐ歩けないわ。」 
 
☆ リンドラコイン 
「二人一組だって。」
「どうなるの、これ。」 
「……さあ?」 
 じりりりりりっ! 
 ぐるんぐるん
「え?」 
「どわっ! なんだこりゃ。」 
 ぐるんぐるんぐるん 
「きゃ、やだっ!」
「おおっ! ピンクだ。」 
「ばかばかばかっ! 見ないでよっ。」 
 ぐるんぐるんぐるんぐるん
 じりりりりりりっ! 

「……知ってたでしょ。」 
「何を?」 
「これがこういう乗り物だって……。」
「……腹減った。飯にしよう。」 
「……やっぱり。」 
 
☆ ホラーハウス
「きゃー……、いやー……」 
「何やってんの? 龍之介君。」 
「……とか言って、女の子って抱きついてこない?」
「別に……」 
「友美はお化けとか平気だったっけ?」 
「私はさほどでもないけど……大体、冬にお化けも無いでしょ。」
「そう言われればそうか。なんか損した気分だ。」 

☆ラ・エルドラド 
「わぁ、これ……なんか懐かしい」 
「ああ、このまま移設したみたいだな。」
「乗りましょうよ。」 
「い、いいよ俺は。」 
「何言ってるのよ。はい、龍之介君はこれ。」
「決めつけるなよ。」 
「だって名前彫ってあるじゃない。あっちには唯ちゃんの名前も彫ってある筈よ。」
「ちぇ、直せよな傷くらい……しかし良く覚えてるな。」 
「忘れる方が不思議よ。」

☆??? 
「ねえ、ホントに乗るの?」 
「当たり前だ。これがここの最大の目玉なんだから。」
 今立っているのは『ナイトトレイン』というアトラクションの前なんだけど……
「でも、混んでるわよ。」 
 90分待ちと書いてある立て札を指差してあげる。が……
「あ、怖いんだ。」 
 そうなのだ、『ナイトトレイン』などと大層な名前が付いているのだけれど、私に
言わせればジェットコースター以外の何者でもない。 
 だからって怖いって訳じゃないのよ。その……苦手……なだけ。でも、
「こ、怖くなんか無いわよ。」 
 どうして素直に言えないのかしら。はぁ……。
「じゃあ、別にいいじゃないか。乗ろうぜ。」 
「う、うん。」 
 私は泣く泣く列の最後尾に並んだ。別に本当に泣いてるわけじゃないんだけどね。
 クスン…… 

                                     ☆ 

 心臓に不安のある方や妊娠しているおそれのある方はご遠慮下さい? どうしてこ
ういう人を不安にさせるような事を表示するのよ。 
「友美、妊娠すれば乗らないで済むぞ。仕込んでやろうか?」
 怒る気力もないわ。どうしてこんな時に冗談が言えるのかしら? 
 ……冗談……よね。
 だって妊娠って事は……な、何考えてるのよ私。まだ中学3年生なんだからそんな
事……この間読んだ雑誌には「早い娘は中学生の内に」って書いてあったわね。
 えと……髪は昨日洗ったし、下着はお気に入りを着けてきた……ってそうじゃない
わよっ! 
「おーい、友美。どうした? 顔が赤いぞ。」 
「ご、ごめんなさい。ちょっと緊張して……。」
「ふーん。素直に怖いと言えば、やめてやる事を考えてやる事を更に考えてやっても
 いいぞ。」 
「こ、怖くないわよ。」 
 大体素直に怖いと言ったって、許してくれる訳がない。えい、もう覚悟を決めたん
だから。 

                                     ☆ 

 カンカンカンカン
「ね、ねえ。さっき言ったこと本当?」 
「なんだよ、さっき言った事って。」
 カンカンカンカン 
「だから、怖いって言ったら考えてくれるって事。」 
「ああ、考えるくらいならな。」 
「……怖い。」 
「は?」 
 カンカンカンカン
「怖いからやめましょう。」 
 もうなりふり構ってられない。 
「お前、かなり無理言ってるぞ。」
「どうしてよ。」 
 カンカンカンカン 
「いくら俺でも動き始めたジェットコースターは止められない。」
「何言ってるのよ、修学旅行のバスを止めたくせに……。」 
「あ、あれは唯が寝坊してだな。」
 知ってるわよ。二人で仲良く遅刻して、また一悶着あったんだから……。結局バス
は10分遅れで出発したっけ。 

 カンカン……ガクン 
「友美、もう諦めろ。」
 え…… 
 ゴ――――――――――ッ! 

「き……」 
「どわぁ〜」 
「きゃぁぁぁ〜〜〜〜〜」
 ガ――――――――――ッ! 

「いやぁぁぁ〜〜〜〜〜」 
「どしぇ〜」 
 ドドドドドドドド
「止めてぇ―――――っ!」 
「無茶言うな。」 
 グォォォン バシュッ ヒュゥゥゥゥン バシュッン ガァォン オォン(?)

「きゃあきゃあきゃあ」 
「……。」 

 10分後…… 
 私は広場のベンチで横になって………いる龍之介君をパンフレットで扇いでいた。
 ……何でこうなるのよ。 
「もう、調子に乗ってお昼をあんなに食べるからよ。」
 膝の上に乗っている頭を軽く叩く。 
「お陰で友美に膝枕して貰えたけどな。」
 だって……頭を上げておかないと、こみ上げてくるなんて言うんだもの。でも、こ
うしてると、周りからは恋人同士に見られるかも……。 

「なあ。」 
「なに?」
「どうして八十八学園なんだ? 友美ならもっと上の高校を狙える様な事を聞いたぞ」
 本当は私の方が聞きたい。どうして龍之介君が八十八学園に行くのか……。でも質
問に対して質問をぶつけるのは失礼だし……。 
「八十八学園より1ランク上の学校って何処にあるか知ってる?」
「いや知らないけど。何処にあるんだ?」 
「電車で2時間かかるのよ。往復で4時間、これじゃあたまらないわ。」
 本当は寮も完備されているんだけど私は嫌だった。両親も反対した。乗り気になっ
ているのは学年主任の教師だけ。 
「確かに言えてる。八十八学園なら往復でも30分だからな。」
「一応、受けるけどね。」 
「ふーん。」 
 でもね、本当の理由は別にあるの。片道2時間の学校に通ったら、きっと疎遠になっ
ちゃうし、こんな風に一緒にいる事も出来なくなるでしょ。 
 まさか、龍之介君が一緒の高校を受験するとは思わなかったけど……。

「……龍之介君は?」 
「……」 
「どうして八十八学園なの?」 
「……。」
 どうして答えてくれ無いの。
「ねえ。」 
「ぐー……」 
 寝てる……。どうしてこの人はいつも肝心なときに……。
「ぐ―――、すかぴー」 
 なによ、幸せそうな顔しちゃって……でも頑張ってるよね、最初は絶対無理だと思っ
てたのに……。先生も『奇跡が起きるかも知れない』って言ってたよ。 
「うーん……。」
 くす……。こうして見るとあんまり変わってないね。ほら、髪をこうすると昔のま
んま……あ、額の傷、自転車の練習で私をかばった時のだ。お陰で私、怪我ひとつし
なかったよ。 
 転んだ時に額と唇を切って、血だらけになりながら『大丈夫か?』って聞いてくれ
たのよね。わたし何処も痛くないのにわんわん泣いて、だから心配させちゃったのよ
ね。 
 ……唇の傷、どうなったのかな? 
 なんか私の身体、だんだん前屈みになってない? 視線も一点に集中してる……。
 伸ばした髪がぱらぱらと肩から落ちていき、黒いレースのカーテンを作っていく。

 キス……くらいなら中学生でもいい……かな? 

 龍くん……。 
 
「友美……友美!」
 えっ! 
 目を開けると目の前に、本当に目の前に龍之介君の顔があった。
「友美も寝不足か? 悪い悪い、友美の太股があまりにも気持ちよかったもんで。」
 あ、龍之介君の息が唇に掛かってる。もうちょっとだったのにぃ〜 
 はっ! なに言ってんのよ。

「そ、そうなの。昨日は少しがんばり過ぎちゃって……。」 
 すごい勇気を出してあそこまで行ったのに……神様のいじわる。
「あ!」 
 な、何? 何なの。 
「もしかして、あのままだったら友美とキスしてたかも知れなかったなぁ。起こすん
 じゃなかった。失敗失敗。」 
 ひ、人の気も知らないで……。 
 私は顔を上げ、思いっ切り立ち上がった。当然膝の上に乗っていた龍之介君は、
 どっすん! 
「……ってぇ〜。そんなに怒る事無いだろ。何も無かったんだからさ。」
 なんか悲しくなってきてしまった。 

※
「ねえ、龍之介君はどうして八十八学園なの?」 
 帰りの電車の中で、私はさっき聞きそびれた質問を龍之介君にぶつけた。
「どうしてって、友美と愛衣が唆したんだろ。」 
 あれは私達が唆したんじゃなくて、龍之介君が意地っ張りだったからでしょ。
「それだけじゃないんでしょ?」 
「そりゃあな。なんたって愛衣が何でも言う事きくって言うんだから……。」
 顔がニヤけてる。なんて解り易いんだろう。ま、あの人がそんな要求を飲む訳無い
から、その点は安心なんだけど……。 
「唯ちゃんは如月女子だっけ? 洋子ちゃんと一緒に……。」
「ああ。しかし洋子の奴も無謀だよな。あの頭で如月女子に行こうって言うんだから」
 龍之介君が八十八学園を受験するのと同じくらいだと思うけど……。
「唯ちゃんも八十八学園を受ければ良かったのにね。」 
「……唯には無理だよ。」
「あら、多少不安があるけど、龍之介君と一緒の学校に行けるなら、あ……ゴメンナ
 サイ」
  私のばか。2人は半年前からそれでずっと苦しんでるのに…… 
「……いいさ。友美が変な意味で言ってる訳じゃ無いのは解ってるから……。それで
 もあの馬鹿、俺と同じ学校に行くなんて言い張りやがって……。知ってるか? 八
 十八学園って、入学金や学費が馬鹿みたいに高いんだ。金銭的な面で唯は諦めるし
 かないのさ。」 

 そうか、……そうなんだ。それで八十八学園なんだ。私達との賭なんてきっと口実
に過ぎないんだ。 

「……初めて聞いた。唯ちゃん、そんなこと言わないんだもの。」
「余計な心配掛けさせたくなかったんだろ。友美は他人に気を使いすぎるからな。」
 そうなったのは誰のせいか解ってるのかしら? 
「じゃ、尚更八十八学園に合格しなきゃね。」
「……だな。手の掛かる幼なじみが、目の届かない所に行っちまうのにも不安がある
 し……。」 
 それは思いっきり私の台詞よ。 
「高校に入ったら少しは大人しくしてね。私一人じゃ、龍之介君の面倒見切れないか
 ら。」 
「ちぇ。友美は俺の保護者かよ。」 
 保護者じゃなくて監視役よ。この先3年間、龍之介君に変な虫が付かない様に監視
するの。『らいばる』は唯ちゃんだけでたくさんよ。 

「ま、なんにしても合格しないとね。」
「あーあ、また明日から受験勉強か……」 
「文句言わないで。ね、合格したら、また遊びに来よう。その、……一緒に」
「そうだな。今度は季節も良いだろうし……。」 
「うん。」 

 うん。だから……ね、がんばろう。一緒の高校に行こう。

 私は電車の窓から、流れる空を見上げた。 
(サンタさん、今年のクリスマスプレゼントは、2ヶ月後に下さい。私の分は、私の
 隣で同じように空を見ている男の子に上げちゃってもいいですから……。 
 2人で同じ高校に行けますように……。) 


【後書き】(2000.03.17)
3部作の最終話ですが、実は一番最初に書かれていた。
普段の朴念仁さからは考えられないほど素早く友美のルージュに気付いたのは何故?
という理由付けで、前作(Episode14)にルージュの件を盛り込み、さらに対比として前々作(Episode13)を書いたわ
けです。

戻る

このページとこのページにリンクしている小説の無断転載、及び無断のリンクを禁止します。