〜10years Episode3〜

構想・打鍵 Zeke

 この作品はフィクションです。登場する人物、名称、土地、出来事等は実在するものではありません。
 本作は(株)ELFの作品「同級生2」の作品世界を設定として使用しております。 

 とある休日……

「本日は都合により休ませていただきます。『憩』店主」
 目の前の扉に貼られた紙にはそう書いてあった。正月の三日間しか休まない筈のこ
の喫茶店は時々こういうことがある。ま、仕方ないと言えば仕方がない。女主人1人
で営業しているようなものなのだ。偶には休養しないと倒れてしまう。

「困ったなあ、あの2人もいないのかな。」
 そう呟くと、この喫茶店の隣に住む少女は喫茶店に付随する住宅の玄関へと向かっ
た。

 その家の居間では2人の子供がひっくり返っていた。
「お母さん遅いね。」
「ああ。」
「1時には帰って来るって言っていたのに。」
「ああ。」
「もう3時だよ。」
「腹減った。」
「お兄ちゃん、唯の話聞いてる?」
 この2人にはなんの説明もいらないだろう、おなじみの2人である。
 どうやら2人で留守番中のようだ。

 ピンポーン

「唯、誰か来たみたいだぞ。」
「みたいだね。」
 ピンポーン、ピンポーン
「早く出ろよ。」
「唯、この家の人じゃないもん。」
 ピンポン!ピンポン!ピンポーン!
「ほっとこう。」
「そだね。」
 これでは留守番でもなんでもない。

「やっぱりいないのかしら。」
 試しにドアのノブを回してみる。カチャ!
「開くじゃない。あ、靴もある・・・居留守を使ったな。」
 どかどかと上がり込み、居間のドアを開ける。
「やっぱり友美か。」
「何やってんの?」
 ひっくり返っている2人を見て呆れたように訊ねる。
「腹が減ったから体力の温存。」
「美佐子さんは?」
「如月町まで買い物に行ってるよ。」
「友美は何しに来たんだ?」
「ママが出かけちゃったから『憩』でなにか食べようと思って来たんだけど本を読ん
 でたらこんな時間になっちゃって。」
 確かにもうおやつの時間だ。
「じゃあ友美ちゃんもお昼食べてないんだ。」
「うん。」
「はあ・・・。」
 3人がほぼ同時にため息をつく。
「だぁーっ!もー我慢できん。冷蔵庫に何かないか。」
 立ち上がりキッチンに向かう龍之介、そしてそれに続く残りの2人。

「おお、ラーメンがあるじゃないか、しかも丁度三つ。」
『本格生麺』と書かれた袋を取り出すと確かに中には麺が3玉入っている。
「つくれるの?」
「ラーメンなんて簡単だよ。唯もお母さんを手伝って作ったことがあるし。」
「おっ、それにモヤシとネギがある。」
「モヤシを炒めるくらいなら私にも出来るわ。」
「よーし、この空腹を癒すためにラーメンを作ろう。」
 龍之介の号令の元、ラーメン制作隊が結成された。

 確かにラーメンは簡単に出来る。しかし落とし穴はどこにあるかわからないものだ。
「あれ、お兄ちゃん、このラーメンスープが付いてないよ。」
「スープがないんじゃラーメンって出来ないんじゃない?」
「なに、なければ作ればいいだけのことさ。しお、みそ、しょうゆ、どの味にしよう
 か?」
「お兄ちゃん、味噌ラーメンにしようよ、この間食べたときおいしかったよ。」
「みそらーめん?」
 友美はラーメン自体あまり食べたことがない。食べたことのあるラーメンは正にラー
メンと注文したものだった。それ故「味噌ラーメン」と言う未知の単語に不安を覚え
たのだ。
「そうだな、味噌ラーメンにしよう。じゃ、友美はモヤシとネギを洗って切ってくれ」
「わかったわ。」
「じゃあ唯はスープを作るね。あ、友美ちゃんネギは切ったら水に晒すんだよ。」
「知ってる。」
 実はしらなかった。
「あと、トウモロコシが入っていたよな。」
「トウモロコシなんかないよ。」
「えっ、あったわよ。たしか冷蔵庫のここに・・・。」
 得意気に冷蔵庫を開けてそれを取り出す。
「ほらあった。大きなトウモロコシで、大コーン。」


「・・・仕方がない、トウモロコシは諦めよう。」
「そうだね。あっ、お兄ちゃんは鰹節を削って。」
「パック入りじゃダメなのか?」
「ダメ、風味が違うよ。」
「あの・・・。」
「友美、いつまでも大根と遊んでないで自分の仕事を進めろよ。」
 会心のギャグをはずした時は死にたくなる、とは誰の言葉だったろうか。
 傷心の友美は大人しくネギを切りモヤシを炒めることにした。
「おっ、友美、なかなかいい手つきじゃないか。」
「私だってママの手伝いくらいするわ。」
 さっきのの落ち込みはどこへやら、好きな男の子にこう言われれば得意になって当
たり前だ。・・・が、隣の唯の作業を見た友美はギョッとなった。
 あざやかな手つき、流れるような身のこなし。どうみても小学生の手際ではない。
(負けられない)
 対抗意識を燃やすが炒め物では対抗しようがなかった。
 その唯の作業は確かに素晴らしいものだった。
 出汁昆布をスッと鍋に潜らせすかさず削り節をザッと入れる。それを一煮立ちさせ
ると火を止め布をひいた他の鍋にサッと移す。
 だが、その作業工程は友美の母も家でよくやっていた。はて、なんの作業だったろ
うか?
 そんな友美の考えをよそに唯は調理を続ける。
「お兄ちゃん、お味噌取って。」
(お味噌?)
 その言葉に友美はそこはかとない不安を抱いた。確かに味噌ラーメンを作ると言っ
ていた。
 けど・・・けどいいの?
 いや、きっと味噌ラーメンとはそういったものなのだろう。そうに違いない、友美
は自分自身にそう言い聞かせ不安を払う。
 唯はそんな友美の不安には全く気づかず作業を続ける。
「友美ちゃんドンブリ取ってきて。お兄ちゃん麺の具合はどう?」
 てきぱきと指示を出す。友美はそれに従いドンブリを取りに行く。
 一方の唯は難しい表情をしていた。さっき味見をしたのだがどうも違うような気が
するのだ。いや、不味くはない、それどころか最近では良くできた方だ。
 それを単品で考えた場合は・・・。

「ねえ、お兄ちゃんこんな味だったっけ味噌ラーメンのスープって?」
「うーんちょっと(?)違うな。味噌が少ないんじゃないのか?もう少し入れてみろ
 よ」
 その会話は幸か不幸か友美には聞こえなかった。

 テーブルに並べられたドンブリに龍之介がゆで上がった麺を等分に分けていく、そ
のあとに唯がスープを入れ最後に友美が炒めたモヤシと晒したネギを盛りつける。
 こうして見た目は立派な味噌ラーメンが完成した。見た目は・・・。
 もちろん香りは味噌汁そのものだったが。

「いただきまーす。」
 と、声をそろえて言ったものの誰も手をつけない。唯も味噌を追加した後は怖くて
味見をしていなかった。
「と、友美ちゃんどうぞ。」
「え? あ、あのやっぱり男の子の龍くんから・・・。」
「唯が作ったんだから唯が最初に食べろよ。」
「みんなで作ったんだよ。やっぱりここはお客さんの友美ちゃんから。」
「じゃあ、じゃんけんで・・・。」
「だめ、唯はジャンケン弱いもん。」
 最早罰ゲームである。
「じゃあこうしよう、みんなで”せーの”で食べる。」
「うん。それなら。」
「仕方がないわ。」
 箸を握る3人。
「よし!いいか2人とも。」
 決死の表情で頷く2人。

  せーのっ!

 【後書き】(2000.03.10)
タイトルはEAST END×YURIのCD「Denimd SOUL」から『なにそれ』。
実体験SS(笑)
身内では今も語り継がれる、「恐怖のみそ汁」ならぬ「恐怖のみそ汁ラーメン」(爆)

内容は友美と唯のお料理合戦と言った所。
2人の育ちの違いがモロに出ていますが、この直後友美も負けていられないと立ち上がります。
これが次の話になりますが。
友美のボケぶりが一部で好評だったSS(笑)

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