Sou's Diary… 9月全日

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9月5日(木)
久しぶりに書く。

入院……何日目だろう。日にちの感覚がないからすぐにはわからない。
けど、体調は良くなっている気がする。
この病院には身体の調子を元に戻すために入院しているようなものだから、毎日暇で仕方ない。個室だから話相手もいないし、学校も辞めたから勉強する意欲も湧かない。
体力をつけるための運動が唯一の暇つぶしって感じかも。

だけど昔みたいにクスリが欲しいとは思わない。前の僕だったら、いろいろ考えすぎてすぐにあれに逃げてたのに……今はなんでか欲しいと思わない。
きっと橋本のおかげだ。携帯を開くとそこにいる橋本が、僕を見守っていてくれるから。
ちょっと照れたような顔を見ていると、『頑張れ』って声が聞こえてくる気がする。だから正気でいられる。
早くまた会いたい。橋本にちゃんと向き合えるように、早く身体を治そう。






9月8日(日)
退院の日が近づいてきた。北海道に行く日も近づいてきた。
行く前にどうしても橋本の声が聞きたくなって、今日電話してしまった。

橋本の明るさに救われた。優しさに、正義感に救われた。
なんで僕のことをそこまで面倒みてくれたんだろう。こんなにおかしな奴なのに。
そう思うと本当に不思議だけど、感謝せずにはいられない。
あいつのおかげで、僕はきっとやり直せる気がする。いろいろと。……本当にいろいろと。


ありがとう。






9月13日(金)
父さんの後ろ盾がなくても立派な弁護士になりたくて、政界に身内がたくさんいるってウワサの花岡先生に近づいた。
なんでもしよう、なんでもしていつか父さん以上の弁護士になってやるって思っているうちに、どんどんおかしなほうへ行ってしまった。あの人に教えられたドラッグにハマって、それを逃げ道にして……自分を追い込んで行った。
橋本が引き止めてくれなかったら、きっと今も僕はあの生活を続けていたんだろう。

北海道に来て、過去のことをいろいろと聞かれてる。
睡眠療法がメインだから、自分でも驚くほどすんなりといろいろ話してしまってる。人に聞かれたら恥ずかしいようなことも。
だけど、それがまともな人間に戻るために必要なことなら、ちゃんと答えなきゃいけないって思うから……今は医者に言われた通りにしよう。






9月16日(月)
昨日の夜、どうしても橋本の声が聞きたくて電話してしまった。あんな遅い時間に……橋本、迷惑だったよな。
昨日医者に父さんも精神科に通い始めてるって聞かされて……すごく複雑な気持ちになって。ほっとしたのと、「でも今までと何も変わらなかったら……」って不安で混乱して、でもそれをどう伝えたらいいのかわらかなくて橋本には変な話をしてしまった。
本当は誰にも言うつもりなかったグチなのに。でも、橋本だからいいや。

たぶん辻岡が父さんに勧めたんだろうけど(僕にここを勧めてくれたのも彼だった)、よく素直に行く気になったな。
父さんが変わるかどうかはわからないけど、僕たちの関係はこれ以上悪くなりようがないんだからあまり気にしないようにしておこう。

橋本にメールをしたら、自分と同じ高校に通わないかって言われた。
前にも冗談で言われたことがあったけど、「本当に行かれたら──」って考えたら少し楽しくなった。だけど、不安にもなった。
橋本と長い時間一緒にいられたら……僕はきっと橋本のことが好きになってしまう。今よりもずっと、ずっと。
あいつはすごくいい奴だけど、男からの告白なんて気持ち悪いって思うだろう。それがわかってて今までのように付き合うことなんて僕にできるんだろうか。
……やっぱり一緒の高校は難しいかもしれない。






9月21日(土)
明日、父さんがここに来ることになった。
会って何を話したらいいんだろう。何を言われるんだろう。
怖い。

だけどちゃんとあの人に向き合わないと、僕は先に進めないんだ。
それがわかってるから、絶対に逃げない。
ぶつけたいものを全部ぶつけよう。今まで言いたかったことを全部。






9月22日(日)
父さんが来た。久しぶりに父さんの顔をまともに見た。

医者と辻岡が見ていてくれたから逃げ出さなかったけど、まともに話すのなんて久しぶり(もしかしたら初めて)で、何を話したのかなんてもう覚えてない。
だけど、
「悪かった」
って言葉を言われたのは覚えてる。
そう言われたとき、何かがぷっつり切れた気分になって……号泣したのも覚えてる。

来週東京に戻ることになった。
戻ってからのことはこれから少しずつ決めることになった。高校も……僕にやり直す気があるなら通わせてもらえることになった。
本当はまた高校に行きたい。だけど、どこへ行けばいいのかわからない。
橋本と一緒の高校に行きたいって気持ちが強くて、他の高校なんて考えられないんだ……。






9月26日(木)
週末に東京に戻ることになった。
ここで過ごした時間は長かったようにも短かったようにも感じる。でも、いろいろとスッキリした気分だ。
先生に、
「忘れたい過去はすべてここに置いて行けばいい。自分で必要ないと思うものは心に溜めておく必要はないんだからね」
って言われてから、物事を前向きに考えられるようになった気がする。

やっぱり橋本と同じ高校に行きたい。
でもそれを決定する前に……橋本に、僕の気持ちを打ち明けようと思う。
もし受け入れられなくても(受け入れてなんてもらえないだろうけど)、僕は橋本と同じ高校に通いたいって思ったから。これからもいい友達として付き合ってもらいたいから、一度けじめをつける。
もちろんこれは僕の自己満足で、橋本は男なんかに告白した僕とは付き合いたくないって思うかもしれない。そのときは別の高校に行こうと思う。
でもあいつのことだから、それくらいのことで僕のことを差別したりはしないって思うんだ。今まで僕のみっともないところをたくさん見てきたのに、こうしてずっと気に掛けてくれるあいつだから……きっと、告白したあとの僕のことも変わらず友達としてみてくれるだろう。

明日、メールしてみよう。






9月28日(土)
東京に帰ってきた。
父さんが空港まで迎えに来てくれて、家まで一緒に帰ってきた。久しぶりに帰ってきた家は内装がちょっと変わってて(風水のなんとかって先生に聞いて、いろいろ縁起のいいものにしたらしい。……ちょっとおかしい)、でもすごくほっとした。
これからここで僕は人生をやり直す。僕だけじゃなくて、きっと父さんも。
先生に最後に言われたように、「気負わずに、そのときの自分の判断を大事にして」生活していこう。

橋本に電話した。
東京に帰ってきたこと、それから、会って直接話がしたいって。
明日会うことになったから、そのときに告白したいと思う。
……なんかちょっと緊張してきた。






9月29日(日)
これから家を出る。久しぶりの外出だから楽しみだ。
……会う相手が橋本だから、楽しみな気持ちも倍増してるのかも。

橋本に会ったら、まずは「ありがとう」って言いたい。何度言っても言い足りないけど、本当に感謝してるから。
それから、チャンスを見計らって「好き」って言う。橋本の負担にならないようにさりげなく、でも本気なんだってことが伝わるように。
……すごいドキドキしてきた。ここで予行演習していこう。

大好きだよ、橋本

よし、行ってこよう!


【完】長い間お付き合いいただきありがとうございました。


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