─ 聖 域 ─



あの人が求めていたのは救いの手ではなく
私の本当の愛だと
気がついたのは最近のことだった

あの人の悲しげに潤んだ瞳 何かを語りたげな口
その吐息の切なさにさえ
その時の私は気づくことができなかったのだ

「愛している」と「他に何もいらない」と
そう言ってくれたあの人を何故信じられなかった?
『私だけをいつまでも想っていてくれる』と
わかっていながら何故突き放してしまったのだろう

今でもあの人は残酷な私の幻影を追いかけて
ここまで来ようとしているのか
そしていつか辿り着くことがあるのだろうか
今では下劣な心を持った人々の住処と化したこの地に

             ・ ・
(そうではない、ここは昔からこうだった)
あの人にまでこの地の影響を与えたくなかっただけ
                                 ・ ・
いつの間にか私を堕落させ 捕え離さないここで
私の醜い姿を見られたくなかっただけ

私を見つけて そして愛して
他の何かにこの身が引き裂かれてしまう前に
「本当のあなたはこんな人なのだ」と
自分を見失いはじめている私にあなたのすべてで教えて欲しい

「本当のあなたはこんなに美しいのだ」と
私の背中に生えていた翼を拾い集めながら……


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