覗き見【田島の場合】
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──あ。若頭、市郎のこと目で追ってるな。 ……ふ〜ん。あんなふうに真剣な目で見ちゃったりするんだ。意外だな。 つーか、若頭の視線……市郎のケツ見てんのか? マジで? あー……そういえば最近若頭忙しそうだったからなぁ、市郎といちゃいちゃできなくて溜まってるとか? ──ありえるか、それは。 確かに市郎のケツは男のものにしては弾力もあって揉みがいありそうだけどなー。そういや昔ふざけて市郎のケツ揉んだらちょっと色っぽい声上げたんだよな。あのときはまだ若頭とはそういう仲になってなかったはずだけど……感じやすい身体だったんだな、元から。 前に2回だけあの2人がいたしてるの見たけど、あれはかなり衝撃的な光景だったな。 市郎のケツに若頭のあのぶっといチンポが根本までずっぶり……だし。そりゃ驚きのあまり大口開けて立ち竦んじまうって。 『いやっ、兄貴っ……こんなところで、なんて、あっ! んぁ、あぁっ!』 『こんな状態で、…っ、やめていいのか?』 『はぁっ・あぁああっっんん、やぁっっ、やめちゃや……やだぁっ!!』 『そうだろ? ほら……もっとしっかり、咥えろよ』 『んくっ! ぐ、ぁっ、あああっっ!!』 事務所の若頭の部屋。しっかりドアが閉められていたにも関わらず、盛大に洩れてくる声と情事をうかがわせる音。 明らかにセックスしてるってわかる現場を、どうして見ずにいられようか。もちろん俺はためらわずに覗いた(他に誰かがいたら見なかっただろうけど)。 そしてそこで激しく絡まりあっているのが若頭と市郎だと確認したとき──俺は『ああ、やっぱりな』って思ったんだった。 組に入ったときにはすでに若頭のことが好きだったらしい市郎。俺はかなり早い段階で市郎の気持ちに気づいてた。 若頭はそのことに全然気づいてなかったみたいだけど、 俺からしてみれば市郎の眼差しなんて常にラブラブビームを垂れ流してるって感じで。 それがいつのまにか両想いになって、ばりばりセックスする仲になってたんだからびっくりだ。いったいどっちがアプローチしたのやら(若頭と市郎なら市郎に決まってるけど)。 お互いに全裸で、全身から汗を流しながら抱き合う2人の様子には、すでに何百回とヤッてる熟年夫婦のようにこなれた印象を受けた。 とはいえ若頭の立派なものは、何度突っ込まれても慣れることなどできないようで。 若頭に絶妙のリズムを刻まれて、市郎は息も絶え絶えって感じでぜーぜー言っていた。けど若頭の激しい攻めに応えるように、必死に身体を揺らし続けている市郎の姿はなんといじましいことか。 『兄貴ぃ、あにきぃぃ!』 『ここがいいんだろ? ほら……ここを、突き上げられると──』 『あ・はぁっ……!! そこ、いい、あつ、い! 兄貴の──んぁっ! あ・熱い…っす!!』 『お前の中も熱いぞ……っ』 市郎の身体が押さえつけられていたデスクが立てる『ぎしっぎしっ』って音と汁の『ぎっちゅぎっちゅ』って音、それから激しく肉のぶつかり合う『ぱんぱん』って音が絶え間なく聞こえてきて、若頭の絶倫っぷりがうかがえるようだった。 俺が若頭と同じ年になったときに、そのときの若頭の腰の動きを再現してみろって言われたら……たぶん30秒ももたないだろう。あんなに高速で力強いピストン運動なんざ、今だって長時間はできないって。 『兄貴、俺……っ、もういっちゃ……!』 『いいぞ、達けっ』 『あんっ! あっ・あっ・あぁああ──────!!!!』 やがて迎えたフィニッシュに、市郎は精液を飛ばしながら同時に気を失っていた。その力の抜けた身体を若頭がいつまでも抱きしめていたのは、なんだかすごく不思議な光景だった。 若頭も市郎のことを真剣に想ってるんだなって知って、意外だったけどなんかわかるような気もした。 市郎は他人に「守ってあげたい!」と思わせるところがある。外見が弱々しいわけじゃないのに、何気ない仕草や表情から、内面がどこか脆いように見受けることがあるんだ。 きっと若頭は市郎のその部分に気づいて、市郎を守ってやろうって思ったんだろう。……あの極太のチンポに誓いを立てて。 俺が回想から我に返っても、若頭の視線はずっと市郎を追っていた。 しかしあんな露骨な目してれば他の奴らに気づかれるぞ? 大丈夫か? ……って、あれ、もしかして若頭──俺の視線に気づいたか? すぐに目を放せばよかったのに、驚いてそのまま若頭の顔を見ていた俺の目は、若頭の目とばっちり合ってしまった。 (や、やべ……っ) 嫌な汗が背中を伝い始めたとき、若頭は唐突に立ち上がると、な、なんと俺に向かって歩いてきて! 慌てて見ていたファイルに目を落とし、しらを切ろうと決め込んだ俺に、だけど若頭は俺のすぐ隣で立ち止まったんだ。 そして俺のぶしつけな視線を怒ることなく、 「仕事しろよ……田島」 とだけ言い残して去って行った。 俺は小声で 「は、はい」 と返事をすると、仕事に集中しているようなフリでもう一度だけ若頭を見た。──すると。 (……また見てるし) 若頭は懲りもせずに(って言っていいのか?)、自分の恋人をじっと見つめていた。 でもそれを見て、『自分は恋人のケツ見て昨晩の情事を思い出してるんだろうに』なんてことは言えるわけがない(怖いしな)。 若頭の熱烈な視線は気になったけど、このまま観察していてまた怒られたらたまらないから仕方なく目をそらす。 そのときに、さっきまで若頭の視線の先にいた市郎が俺に近づいてきて。 「なに怒られてんだよ、右京」 俺たちの会話が聞こえたのか、市郎が楽しそうな顔で俺をごつく。 どこか艶めいて見える市郎の笑顔に、若頭に啼かされている姿がだぶり──一瞬だけ、(惜しいな……)と思った自分がいた。 『こいつが若頭のものじゃなかったら、一回くらいはしてみたかった』……なんて、誰かに知られたら確実に若頭の怒りを買うだろうから(どんな話だって若頭には全部筒抜けなんだ)絶対言わないけど──こいつって、最近特にそそられる顔とかするようになってきたんだよな。もちろん若頭のせいだと思うけど。 「いいから自分の仕事しろよ。お前こそ怒られるぞ」 俺の顔を見たままやけに嬉しそうに笑う市郎が本当に幸せそうで、嫌味を言ってやろうかと思ってた気力が萎えちまった。……男のくせにそんな満面の笑みを振りまいてたら襲われるぞ、マジで。 「え?」 俺の言葉に市郎が一瞬若頭の方を見る。すると、やっぱりこっちを見ていた(正確には市郎を見ていた)若頭のまなざしとばっちり目が合ったらしく、ぽぽっと頬を染めた。 (なんか見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだけど……) 不自然なほどに熱のこもった視線で見つめ合ったまま固まっている2人に、「本命を作るのもいいかなぁ」と思わされたのだった。 ……俺に相応しい相手なんて、そうざらにはいないだろうけどよ。 |