奇跡の……
田島×市郎



「…………ふぅ」
 箱から取り出した煙草をちょうど口に咥えようとしたとき、隣に座っていた奴が盛大な溜息をついた。
(──31回目)
 この短時間で幾度となく聞こえてきた音に思わず手が止まりそうになる。……が、そうとは悟られないようスムーズな動きを続け、煙を吸い込みながら心の中でカウントした。
 ここは俺たち高橋組の拠点、新宿事務所だ。俺は高橋組の組員、田島右京。偶然と運が重なって、今では幹部までやらせてもらってる。
 そして俺の隣で辛気臭い溜息をつきまくっているのは、俺と同じく高橋組の幹部で、俺と同い年でもある川神市郎だ。
 市郎は俺とは違って、この組に入った直後に若頭の舎弟になって、その献身的な働きが認められて若頭つきになったっていう変り種だ。性格も、グレてた奴特有の負けず嫌いで無鉄砲なところはあるものの、ひねくれた考え方はしないし人をほとんど疑わないっていう、信じられないくらい純粋な奴だったりする。
 しかも、この世界に飛び込んで数年経つのに昔と全然変わらない。……そりゃスレまくりの男たちに人気があるわけだ。
 その、年上からも年下からも好かれまくりの市郎は、このところずっと憂鬱そうな陰湿な空気を垂れ流していた。
 俺の前では結構弱音も吐くんだが、どんなことがあっても人前でそんな表情を見せたことがないだけに、憂いを帯びたこいつの色気に煽られている奴も相当多い(まったく困ったもんだ)。
 ……まぁ、俺には市郎の気鬱の原因はなんとなく検討がついてるんだけどな。
「………………」
(あーあー、熱っぽい目しちゃって……)
 デスクワークを片付けているフリで、実際は何も考えていない(考える余裕がない)らしい市郎は、じっと一点を見つめたまま固まっている。
 その視線の先にあるのはしっかりと閉じられた一枚の扉で、現在その部屋の中には十数人の山根組幹部が集まっている。部屋にこもってすでに1時間近く経つから、もうすぐ皆出てくる頃だろう。
 市郎があんなに熱心に扉を睨んでいるのは、その部屋の中にいる人物を待ち構えているからで。
 数ヶ月前までは、あの部屋の中に自分も入っていたはずなのに──って思いながら、じりじり時間をやりすごしているんだろう。
(……そろそろ忠告したほうがいいかもな)
 こんなふうに、色気全開の市郎も目の保養にはなるけれど。襲われる恐れが出てきた今となっては、こいつに自覚を持たせるのが親友としての優しさってもんだろう。
 俺は、ここのところずっと言いたくてたまらなかったことを、目の前の弱りきった男に言うことにした。
「お前さぁ、そんな辛いなら別れりゃいいじゃん」
「──え?」
 突然口を開いた俺に、市郎は微動だにしないまま気の抜けたような声で返してくる。俺が言おうとしていることに全然気づいてないんだ、こいつ。──バカだな。
「ひでぇツラしてるぜ、最近のお前。恋愛に悩んでやつれたって感じ」
「え?」
「誰だって恋人に捨てられるのは怖いもんな。なかなか受け入れられないよな」
「右、京……?」
「……自分でも、もうわかってるんだろ? 若頭は、お前に飽き──」
「右京!!」
 俺がすべてを言い終える前に、小さく風を切って俺のほうに振り返る市郎。
「……やっとわかったのかよ、この鈍感」
「…………」
 その顔は強い怒りに満ちていたけれど、どこか今にも泣き出しそうにも見えて。
「図星、だろ?」
「…………っ」
 俺が駄目押しに言った言葉が、市郎の表情をさらに露骨なものにさせてしまう。──俺ってホントに嫌な奴だよな。
 そのとき絶妙のタイミングで扉が開き、中にいた人たちが一斉にフロアに出てきた。途端に身体を翻し立ち上がる市郎。
「あ、兄貴っ」
 俺の言ったことなどすぐに忘れ去ったようで、忠犬よろしく若頭に走り寄る──が。
 若頭は市郎をほんの少しも見ず、氷のように冷たい声で言い放った。
「今日はトシに送ってもらうからお前は来なくていい」
「あ……は、はい……」
「明日の朝の迎えもトシに来てもらう。お前は少しゆっくり休め」
「……!!」
(あーあ……)
 露骨な言葉だ。あの人はそんなつもりないのかもしれないけど、『捨てられるかも──』って思ってる奴にあの台詞はキツイはずだ。よっぽどニブい奴じゃなければ、自分は完全に拒絶されているんだってわかるだろう。
「行くぞ、トシ」
「はい、兄貴っ」
 ほんの少し前まで『若頭』と呼んでいたはずなのに、いつの間にそう呼ぶようになったのか。トシは満面の笑みを浮かべ、若頭のあとについていった。……まるで数ヶ月前までの市郎のように。
「………………」
 2人の後ろ姿をただ呆然と見送る市郎。目の前で起こっていることが信じられないって顔だ。
(決定的って感じか)
 これで市郎もはっきり自覚させられてしまっただろう。若頭の興味は、いまや自分にはないんだってことを。
 しょうがないよな。男同士だし、若頭だってまだまだ遊びたい盛りの年だ。他に目移りする事だってあるだろう。もしかしたら、当の市郎も(いつかは)って思ってたことかもしれない。
 だけどその現実を受け入れろったって、そんなに簡単にいくわけがない。なんたってこいつは心底若頭のことが好きだったから。俺も、それはよく知ってるからな。
(ここは俺の出番か)
 弱っている奴を慰めるのはフェミニストの役目だ(相手が男だろうと気に入ってる奴なら慰めるべきだ……ってのが俺の持論だ)。
 そして自他共に認めるフェミニストの俺には、今の市郎は手を差し伸べてやらなければならない対象にある。
 ──長年持て余していた願いをとうとう叶えられる日がきたってわけだ。
「おい、市郎」
 放っておけばいつまででもその場に立ち尽くしていそうな市郎に近づき、肩に手を置きながら声をかける。市郎は呆けた表情のまま振り返ったが、視線を合わせるのを嫌って顔を伏せてしまった。……涙を堪えてるのかもしれないな。
 俺はそれには気づかないフリで、わざと明るい声で話を持ちかけた。
「今日は俺の家に寄ってけよ」
「え……」
「たまには一緒に呑もうぜ、付き合ってやるからよ。ほら、昔から言うだろ? 『嫌なことがあったときは飲んで忘れろ』ってさ」
「右京……」
 市郎は俺の提案に最初戸惑っていたが、俺がすべての事情を理解しているんだってことに気づいて気が抜けたのか、泣きそうな顔で俺を見上げてきたんだった。


「兄貴は俺のことを見放したんだ……」
 重い足取りながら俺の家に来た市郎は、俺が用意した酒を片っ端から片付けていった。
 そんなに酒に弱い奴じゃないことは俺も知っていたが、今日は一段と酔いが回るのが早かった。もしかしたら兄貴との事を悩んでて、ロクに飯も食ってなかったのかもしれない。ちょっと痩せた(っつーか、やつれた?)感じもするしな。
「それくらいにしとけ。明日に響くぞ」
 これ以上呑ませたらどうなっちまうかわからない。少しずつ本音を洩らし始めたことだし、呑ませるのはもういいだろう。そう思って、市郎が持っていたグラスを取り上げようとすると。
「明日は……休みだ」
 握り締めたグラスを放そうとせず(むしろ強く握り締め直した)、喉の奥から搾り出すような声で呟いた。
「あ? そうだったか?」
「兄貴に……そう言われたから…………行きたくても、行けない…………」
「あー、そっか」
(こりゃ本格的に避けられてるってことか)
 その原因がトシにある……と思うのは、きっと俺だけじゃないんだろう。だから市郎も今までみたいに我を通せなくて、兄貴に言われた通りにしてるんだろう。
「俺……兄貴の傍にいられないんなら…………生きてたってしょうがないのに…………っ」
「市郎」
「兄貴に生かしてもらった命なのに、兄貴の役に立てないなら──もう、死んじまいたい!」
(……相当思いつめてたんだな)
 市郎がそう思うのも仕方ないのかもしれない。「兄貴に声をかけられるまでの人生は塵のようなものだった」って、確か前に言ってたことがあったしな。若頭に見出されて、やっと生きがいみたいなものが見つけられたんだろう。
 そんな、自分にとっては『神様』みたいな相手に拒絶されてしまえば、これからのことが不安になって絶望感から死にたいと思ってもしょうがないだろう。──俺には理解できない感覚だけど、この世界にはそういう奴が多いみたいだし。
(だけど、お前は死なせないぜ)
 今すぐ「死んだほうがまし」なんて考えは捨てさせる。ずっと前から『こいつを俺の物にしたい』って思ってたこの俺がいる限り、そう易々と死なせるかっつーの。
 テーブルの上を片付けていた俺はソファに座っていた市郎の隣に座り、膝に肘をついて前屈みになっていた背中に手を置いてそのままその手を肩まで滑らせた。
 男にしては細すぎるその肩をぐっと抱き起こし、突然のことに抵抗できなかったらしい身体を胸の中に閉じ込める。俺のシャツの、市郎の顔が当たっている部分がじっとりと濡れていく。
「……っ!?」
 1分ほどしてようやく事態が呑み込めたのか、急に狼狽したように身体を捻り俺の腕の輪から逃れようともがき出した。──が、逃がすつもりは毛頭ない。
 やっと手に入れた極上の獣だ。じっくり味わって手懐けてやる。
「う、右京……?」
「泣くなよ。あんな人のために泣くな」
「な、泣いてなんか……っ」
「んーな鼻声で言ってもムダだって。ほら」
 抱き込んでいた頭を上げさせると、予想通りに市郎の顔は涙でぐしょぐしょになっていた。
 俺は思わず吹き出ししながら、笑みで歪んだ唇で一気に市郎の唇を塞いだ。
「んっ……」
 間髪入れずに舌を伸ばし、唇を開かせて根元まで一気に潜り込ませる。市郎の口腔は酒のせいでアルコール臭かったが、俺の舌は煙草臭かっただろうから違和感もお互い様だ。
「んんっ! や、やめ、んくっ……っ」
 市郎は最初何をされているのかわからない様子だったが、うねうねと動く俺の舌の動きで我に返ったのか猛然と暴れ始めた。
 しかし俺にしてみれば、こいつが本気で拒絶しているのかどうかを見極めるくらい簡単なことだった。
 こいつの身体は飢えきっている。──抱かれていない期間が長いぶん、一時の遊びでもいいからやりたいと思っているはずだ。
(溺れちまえ)
 強い暗示をかけるように、両手で全身をまさぐりながら舌を絡め取り、甘噛みする。
「ん、ん──んん……」
 やがて市郎は鼻にかかった声を洩らし始め、自らの意志で舌を動かし始めた。
(──よし)
「ん……んぁ……ぁ、ん……っ」
 唾液の音をわざとらしくさせてやると、さらに舌の動きが大きくなる。俺はその舌を強く吸い上げてから、ゆっくりと顔を離した。
「あ……」
 透明な糸が互いの舌先を繋ぐ。それを見た市郎の頬がかっと赤くなり、慌てて俺の胸元に顔を伏せた。……ったく、男のくせに男をそそる奴だよ、ホントに。
「右京……」
 腕の中にいるご馳走をどう味わってやるか考えていると、市郎は俺の名を小さく呼んで潤んだ目で俺を見上げてくる。何かを強く欲しているような顔。
(──ああ、望みどおり犯してやるよ)
 俺は市郎に笑いかけてやると、抱き締めていた身体をソファに押し倒し、再び唇を塞いで深く貪った。市郎は今度は抗わず──むしろ俺を受け入れるような勢いで俺の背中に腕を回してきた。
 キスしながら市郎のシャツのボタンを外し、ぷっつりと立ち上がっていた乳首に手を這わせる。その瞬間市郎は「んっ」と声を洩らして身体を揺らした。……ここが好きってことか。
「こんなにコリコリさせて……若頭に舐められて感じてたんだろ?」
「んっ、そん、なっ」
「ビンビンに尖ってるぜ? 女の乳首みてー……」
「やめろ! は、ずかし……だろっ」
「なんで。セックスってのは恥ずかしいのも快感の1つだろ? ほら……そんなこと言いつつお前のチンコもどんどんデカくなってるじゃねーか」
「あうっ!」
 左手を伸ばすと、すぐに触れることができた張り詰めた股間。俺は手早く邪魔なベルトやジッパーを外し、トランクスの中からカチカチのチンコを取り出した。
(おーおー、立派なモノ持ってるじゃねぇか)
 きっとかなりの女を泣かせてきただろうチンコを軽く握り、そのまま緩く力を込めて手を上下させる。にょっきり生えたそれは大きく跳ね上がり、俺の手にもぬめった液を吐き出した。
「おいおい、もう汁が出てるぞ。お前相当溜まってたんだな」
「やっ……やめろ!」
「やめていいのか? こんなちょっとの刺激でビッタンビッタン暴れてるのに」
「ん、んあぁああっ!」
「うーわ……すげぇ、こぽこぽ溢れてくるぜ」
「やだ……やめろ……っ」
 全身を震わせ、弱々しく声を発する市郎。もしかしてこのまま擦ってたらイッちまうか?
(んー、その姿も見てみたいっちゃー見たいけどな)
 今は何よりこいつにブチ込みたい。腸に届きそうなくらい奥までブチ込んで、いやらしい声であんあん喘がせたい。その欲求が強かった(俺もケダモノだからな)。
 乳首に触れていた手に代わって口を使い、舌先で舐めたり口をすぼめて吸ったりしてやりながら右手を下半身へと下ろしていく。腿の辺りまでしか下ろしてなかったズボンとトランクスを脱がしてやり、剥き出しになった足首から太腿まで手を滑らせる(こいつ結構体毛薄いんだな)。
 そして手の動きの自然な流れでつるんとした尻に到達すると、一気に割れ目に指を潜り込ませた。
 肌の表面より何度か温度の高いその場所を探り、目的地を指先の腹で軽く触れてみると、激しく収縮を繰り返している入り口は意外に柔らかくなっていた。
「なんだ……お前もうスタンバってるじゃん。本当は早く犯してほしかったのか?」
「なっ……そ、そんなわけないだろっ!!」
「いいって、強がるなよ。欲しいんだろ? 俺のペニスが……」
 わざと恥ずかしがるような言い方をしてやると、俺の思惑通り市郎は恥ずかしさに耐えきれないといった様子で顔を背けた(俺の経験では、『チンコ』より『ペニス』って言ったほうが恥ずかしがる奴が多いんだ)。
 俺はそれに気を良くして、市郎の汗ばんだ両足を抱え上げ、これ以上は裂けるんじゃないかってくらい開脚させてやった。
「あ……っ」
 ぱっかりと開かされた両足の付け根に風を感じたのか、市郎は一度は背けた顔を動かしおずおずと自分の下半身へ視線を移す。
 そしてそこに見えたもの──自分の完勃ちになったチンコと、大きく広げられてくっきりと現れた内股の筋に強い羞恥心を感じたらしく、上気していた顔はさらに赤くなった。
(ったく、今時中学生だってそんな反応しないって)
 数日前に食ったばかりの未成熟な肉体を思い出し、そいつの浮かべていた表情を思い出してみる。……どんなに考えたって、今のこいつのほうが男の性欲をそそるっての。
 俺は手早くジッパーを下ろし、すっかり準備万端状態になっていたチンコを取り出すと、市郎のぬめりがついたままになっていた左手で数回扱いた。くそ、久しぶりに興奮してるせいかパンパンに膨れ上がってやがる。
「右京……や、やっぱ俺……」
『いざ突入』とばかりに足の間にじりじりと身体をつめていた俺に、市郎は恐れをなしたらしく弱気発言をした。だが、この状態の男が挿入なしで終われるわけがない。
「ここまできてそんなこと言うなって。お前だって、男の生理がそう簡単に止められないってわかってるだろ?」
「でも、でも俺やっぱり──あっ!!」
『やっぱり』の先の言葉なんて聞きたくない。俺は市郎の口を塞ぐために、ひくひくしていたケツ穴をチンコの先っぽで塞ぎ、そのまま一気に腰を進めた。
「ぐ……あ・ぁっ!」
 ゆっくり埋まっていく俺の熱に、苦悩の表情を浮かべる市郎。尖端が内部に進むにつれケツ穴の入り口で食いちぎられそうなほどきつく締めつけられる。やっぱり指で慣らしてやるべきだったな。
 だけどここまできて今さらやり直しなんてムリだ。だったら……手っ取り早く市郎をその気にさせるしかない。
 俺は、若頭に仕込まれて感度の上がりまくった身体の熱を高めるために、荒療治ともいえる行動をとることにした。
「今頃若頭もトシを抱いてるのかもな。こんなふうに……」
「っ!!」
「あの真珠入りのデカマラでドスンドスン突きまくってさ。ヒーヒー言ってる姿が目に浮かぶようだぜ」
「やだ……やめろ右京っ、あぁっ!」
「おっ──と……おいおい、まさか若頭のを思い出して感じてんじゃねぇだろうな。今お前を犯してやってるのは俺のペニスだぜ?」
「あん……あ、あ・ぁん……っ」
「真珠は入ってねぇけど具合いいだろ? しっかり味わえよ」
「あぅ・うっ、ぐぅ……んっ!!」
『若頭』と言った途端に鳥肌の立った肌をぴしゃりと叩き、打ち込んだ腰をさらに前に突き出して内部を抉る。わざわざ若頭を思い出させるようなことを言ってるのは俺のほうなのにな(これだから俺は『言葉責めが好き』だとか言われちまうのかね)。
「ほら、どうだ? グジョグジョに掻き回されると気持ちいいんだろ? 嫌なことも全部忘れられそうだろ?」
「あ・あっ……ゃ、あっ!」
「あんな人のことは早く忘れろよ。これからは俺がお前を可愛がってやるからよ」
「あっあんっ、んっ・んん──っ」
「じっくりイイとこ探してやるからな。ほら……ここ、とか──ここ、とか」
「は……っ、あぁ・あああっ!」
「そうそう、もっといい声出せよ。デカい声出して溜まったもん全部吐き出しちまえ」
 俺が言ったことでやっと吹っ切れたのか、がちがちに強張っていた市郎の身体から力が抜け始めた。俺を受け入れるだけで精一杯だったケツ穴も、だんだんと柔らかくほぐれて俺のチンコをスムーズに出入りさせてくれるようになる。
「うきょ……右京、右京ぅっ!」
 俺が腰を使ってやると、市郎も次第に高い声を上げ始めた。それから──無意識だろうが、俺の動きに合わせて小刻みに腰を揺らし始めて。
「ああ……ああ、あんん……っ」
(くっそ……なんだこの身体は!)
 いい。っつーか、良すぎる! 今まで抱いてきた『名器』持ちと比べても、こいつのケツ穴の方がよっぱどいい具合だ。若頭はこんな上物を捨てるってのか? ……もったいないことするな。
「いいぜ、市郎。もっと身体揺らせよ」
「んあっ! あっ、あっ、う、きょ……っ」
「もっとケツ振れよ。自分のイイところだってちゃんとわかってんだろ?」
「あっ・あっあっ!」
 次第に動きを強めてやりながらときどき不規則な突き上げをしてやると、市郎は淫蕩な表情でデカい声を上げ始めた。
「ああっ、あっ・あ・あっ、ん、ぁん、あん、あぁん……!!」
 俺の知ってる限りこんなに喘ぐ男は今までいなかったなと感じるほど、市郎は甘い声を上げ続けた(甘いっていっても男の太い声ではあったが)。
 そしてその唇は、ようやく自分の希望を吐き出したのだった。
「あっ、もっと……っ」
「市郎、」
「もっとして……もっと、そこ──突い、てっ」
「ここか?」
「はぁ・んっ!! んっ、そ、そこ──いい、いいぃ……!!」
「ああ、もっとしてやるからな」
「いぃっ、右京……っ」
「なんだ?」
「あの人のこと……、忘れ、させて──っ」
「────ああ」
 俺の首に両腕を絡め、しがみついてくる市郎がたまらないほど可愛い。深い悲しみから流しているのだろう涙も、快感のそれと混じって自分でもわからなくなっているはずだ。
 だけど、それでいい。いや──それがいいんだ。悲しい気持ちだけで流す涙など、情の深いこいつには大きな心の傷となって残りかねないからな。
「右京──いい、いいっ」
「っ、っ、っ、ふっ」
「あぅっ・うっぅ・んっ! そ、そこっ・も、もっと、っ!」
「市郎……っ!!」
 悩ましい表情と声に俺も次第に煽られて、気づいたら本気で市郎を追い立てていた。たぶんしばらくの間は腰を使いたくなくなるだろうってほど、激しく(若頭のあの動きにはまだまだかないそうにないけどな。……あの人いったいどのくらい鍛えてるんだ?)。
「ああ! っあ、あっ、ぅんあ──っ!」
 長くは保たないだろう動きを続けて数分後、市郎の身体ががくがくと痙攣しはじめた。喘ぎ声も感極まったような高音となり、背を反り返して大きく上下する胸板を突き出してくる。
 実は市郎同様に限界が近づいていた俺は、多少白く濁った液体を撒き散らしていたチンコを握り、やんわりと握りこんでやりながら、女には『甘い声』と言われている声音で囁いてやった。
「もうイキたいんだろ? 我慢しなくていいぜ」
「はぁっ、はぁっ、う・きょうっ、っ!」
「このまま、こう──前と後ろをいじりながらイカせてやるよ」
「ひ……っ、ぁ……!!」
「俺と一緒にイこうぜ。──な?」
 繋がったまま、身体を前に倒して顔を近づけ、色っぽいうなじを舐め上げる。すると、
「あ────!!!!!!」
 抑え込んでいたものが爆発したように、市郎はヨダレの垂れた口を大きく開けて、悲鳴のような絶叫を上げながらぶるぶると身体を痙攣させて射精したのだった(もちろんその瞬間のきつい締めつけで、俺のチンコも暴発気味にイッた)。
「あぁ……ぁ、ぁ……」
 どぷどぷっと吐き出された白い液体は、かなり溜められていたものなのか多少クリーム色っぽく見えた。……あんな人のためにオナニーも控えてたのかよ、こいつ。
 力が抜けてくったりとソファに横たわる市郎の身体。自分のザーメンと汗にまみれた身体は綺麗とは言い難いが、俺の下半身だって二人分の汗とザーメンで汚れてるんだから同じようなものだ。
 俺は着たままだった服を全部脱ぎ捨て、さっきまで市郎が飲んでいたウィスキーのグラスを取ると一気に煽り、大きく息をついた。腹の中に火がついて、内部から熱が高まっていくみたいだ。──性欲と共に。
「市郎……」
「右京…………」
 涙に濡れた頬を両手で包みゆっくり顔を近づけると、市郎も濡れた睫毛をゆっくりと伏せる。軽く下唇を噛んでから唇を塞ぐと、温もりを求めるように生暖かい舌が俺の口の中に入り込んできた。
 俺は内心ほくそ笑みながら、横たえていた身体を起こし甘えるように抱きついてきた市郎の身体に両手を滑らせて愛撫し始めた。もう2、3回抱いてやれば、市郎も若頭のことなどどうでもよくなるだろう。

 抱いて抱いて抱き尽くして、俺のザーメンをたっぷり注いでフェロモン垂れ流しの肉体にして──あの人にたっぷり後悔させてやる。


これは夢です! 兄貴ファンの方、怒らないでねっ!(焦)
ちなみにトシとは、同人誌『狼の寂寞』に出てきた若頭の送迎者の運転手をしている彼です。

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